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事業承継で必要な「株式買取資金」が足りない場合、どうすればいい? 

事業承継の際、株式を買い取るために多額の資金が必要になるケースが珍しくありません。「そんな大金は用意できない」という理由から事業承継をあきらめる中小企業もあります。しかし、自己資金を用意せずとも資金調達をすることで解決できるかもしれません。本記事では、株式買取資金が不足しているときの資金調達の方法を紹介します。

株式買取資金の計算方法は?

株式買取資金とは、先代経営者が所有する株式を後継者が買い取る際に必要な資金のこと。上場企業の株価の場合、株式市場を見れば買取額を簡単に算出できますが、非上場の中小企業の場合、特別な計算式を用いて企業価値を評価する必要があります。  

株価の算定方法は主に以下の3種類があり、企業の特性や規模に合わせて使い分けられます。
・インカムアプローチ:「中期事業計画」を基準に企業価値を算定。将来性は反映されるものの、計画内容によって結果が変動する。 
・コストアプローチ:「純資産額」をベースに算定。客観性は高いものの将来性が加味されていない。
・マーケットアプローチ:類似する企業や過去事例を参照にして算出。類似企業・事例がないと成立しない。

 この3種類はいずれもメリット・デメリットがあり、算定方法によっては導き出される金額が異なることも。どれが適しているのかは公認会計士やM&Aアドバイザーなどの専門家に相談するのがおすすめです。

「株式買取資金」が不足したときの解決策5選

株式買取資金が不足した際はどうすればよいのでしょうか。具体的な解決策を5つ紹介します。

日本政策金融公庫の融資

資金調達方法の1つ目は、日本政策金融公庫から融資を受けること。日本政策金融公庫とは、一般の金融機関が行う金融を補完するために、国の出資を受けて設立された金融機関です。事業承継に際して、日本政策金融公庫から受けられる融資は「事業承継・集約・活性化支援資金」です。融資限度額は別枠7200万円(うち運転資金4800万円)で、返済期間は次のようになっています。

【設備資金】
20年以内(うち据置期間2年以内)

【運転資金】
7年以内。ただし、既往の公庫融資の借換を含む場合、8年以内(うち据置期間2年以内)

詳しい利用方法はこちらの記事で解説しています。
「資金の不安をクリア! 事業承継で使える「融資制度」とは」

信用保証協会から特別保証を受ける

資金調達方法の2つ目は、信用保証協会から特別保証を受けること。信用保証は、信用保証協会が、中小企業が金融機関からお金を借りるための信用保証をする制度です。特別保証制度では、経営者の個人保証が不要ですし、経営者保証コーディネーター(事業承継ネットワーク地域事務局等が雇用する専門家)による確認を受けた場合には、保証料率が大幅に軽減されます。

④事業承継税制を活用する

「事業承継税制」とは、一定の要件を満たすことで、先代経営者から自社株式や事業用資産を後継者が引き継ぐときに発生する相続税や贈与税の負担が猶予、あるいは免除される制度。事業承継税制を受けるためには、2024年(令和6年)3月31日までに特例承継計画を策定し、都道府県知事に提出したうえで認定書を受領しなければなりません。

認定を受けた後、2027年までに承継を行わなければ、特例の恩恵を受けられなくなります。「今後10年ほどの間に事業承継をしよう」と考えている経営者の方は、事業承継特例を利用できるよう早めに動き出しましょう。株式買取資金を下げるわけではありませんが、多額の相続税・贈与税の支払いが猶予あるいは免除されるので効果は非常に大きいといえます。

事業承継税制の詳細はこちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
「事業承継で相続税が免除になる方法!――5分でわかる「事業承継税制」の仕組みとポイント」

⑤所有と経営を分離し、種類株式を活用する

ある程度の規模の会社になると、後継者が個人で株式買取資金を準備することは非常に困難です。そういった場合、すなわち後継者は経営に集中し、株主は客観的な立場から会社を評価するという「所有と経営の分離」を行うことも考えられます。

ただし、「所有と経営の分離」が進むと、経営者の意図した経営がしにくいなどのリスクも生じます。それを避けるため、種類株式を導入するという方法があります。種類株式を発行することで、「資金調達しやすくなる」「自社株式の分散を回避できる」「重要事項の決定権限を後継者に集中できる」「経営権移転のタイミングを計れる」などのメリットがあります。会社法で認められている種類株式は「9つ」あり、目的に合わせて発行するものを選びます。

種類株式の基礎知識についてはこちらの記事で解説しているので、ぜひご一読ください。
「スムーズな事業承継を実現する「種類株式」の基礎知識」

まとめ

株式買取資金を用意することはハードルが高いようにも感じますが、さまざまな制度・対策があります。ただし、安易に融資を受けたりすると承継後の資金繰りが悪化して経営が傾く恐れもあります。しっかり準備期間を設け、専門家のアドバイスのもと対策を考えるのがよいでしょう。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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