事業承継を成功に導く「組織再編」のメリット・デメリットを解説！

急激な社会情勢の変化などにより、今や企業規模問わず、さまざまな業界で実施されている組織再編。事業承継を考えている経営者の中には、「承継前に組織再編すべきなのだろうか？」と疑問をお持ちの方もいるでしょう。本記事では、組織再編のメリットや具体的な手法など知っておきたい情報を紹介します。

組織再編とは

組織再編とは、株式の交換や移転、事業の分割や統合などを通じて、会社の組織を変更・編成し直すこと。2006年5月に施行された会社法で定められた法律行為を指します。

組織再編の手法は、次の4つに大別されます。
1. 「合併」
2. 「株式交換」
3. 「株式移転」
4. 「会社分割」

この4つはそれぞれメリット・デメリットがあり、会社の状況や組織再編の目的によって適した方法は異なります。

詳しくは「組織再編の4つの手法（特徴・メリット・デメリット）」で解説しますので、こちらもぜひお読みください。

「組織再編＝組織変更」ではない

混同されがちな言葉に組織変更がありますが、意味はまったく異なります。組織変更は、法人格の同一性を維持しながら、株式会社から持分会社に、あるいは、持分会社が株式会社に移行すること。持分会社とは、合同会社、合資会社、合名会社の総称です。

たとえば、株式会社から合同会社に、反対に、合名会社から株式会社に移行することが組織変更です。上述した、合併（２つ以上の会社を1つの会社に統合すること）やその逆の意味の会社分割とは異なり、法人格が同一性を維持することが組織変更の条件です。

組織再編の目的

組織再編の目的は、主に次のとおりです。

・競争力強化による規模拡大・資金力増強
・不採算事業からの撤退によるコスト削減
・グループ内の事業の統廃合による経営の効率化
・「適格要件」を満たした場合、節税などの税務上のメリットを受けられる

これらに加え、事業承継後の運営をスムーズにするために、承継前に組織再編をするといったケースが多いです。

組織再編の4つの手法（特徴・メリット・デメリット）

では、前述した合併、株式交換、株式移転、会社分割の特徴、メリット・デメリットについて解説しましょう。

①合併

合併とは、2つ以上の会社を1つの会社に統合することを指します。合併には、1つの会社だけが残り、それ以外の会社が消滅する吸収合併と、合併した会社がすべて消滅して新たな会社を創設する新設合併の２種類があります。

【メリット】
・コスト削減による経営の効率化
・技術力・競争力の向上
・資本増加による取引先や金融機関からの信頼度向上
・顧客ネットワークの拡大
また、後述する株式交換や株式移転と違い、会社のリソース（ヒト・モノ・カネ）が１社に集約されるため、合併は企業間の結びつきが最も強い手法だといえるでしょう。

一方で、次のようなデメリットもあります。
【デメリット】
・手続きにさまざまなコストが発生する
・従業員増加によって人件費が増大する
・組織拡大によって意思疎通が難しくなる
・資本増加によって法人税法の優遇対象外になる可能性がある

②株式交換

株式交換とは、1つの会社（株式会社または合同会社）が親会社となり、別の会社の株式をすべて取得して100％子会社化することを意味します。

具体的には、子会社が持つ株をすべて親会社に譲渡し、代わりに親会社は子会社の株主が持つ株式を親会社の株に交換します（ただし、株主総会での承認が必要です）。1999年の商法改正によって、新たに取り入れられた組織再編の手法です。

【メリット】
・株式の交換だけなので買収のときに資金を必要とせず、最小限のコストでグループ会社を増やせる
・合併と異なり、子会社にも法人格が存在するので、子会社も親会社の経営に参加できる可能性がある（※ただし、これはデメリットにもなり得る）
・株価は往々にして親会社のほうが高いため、株主にとっても配当増加の恩恵を受けられる可能性がある

【デメリット】
・子会社の株主がすべて親会社の株主になるので、親会社の株主構成が変わる
・株主交換に対する投資家の期待値が低くなると、株価が下落する恐れがある（※親会社が上場企業の場合）

③株式移転

株式移転とは、新設した会社が発行済み株式をすべて取得して100％子会社化すること。株式交換と似ていると思われるかもしれませんが、株式移転は、新たに親会社を設立する点が特徴です。昨今では、ホールディングス設立のときによく用いられる手法です。

【メリット】
・親会社が子会社の株式を取得するだけなので、株式交換と同様、買収の際に資金を必要としない（＝最小限のコストでグループ会社を増やせる）
・合併と異なり、子会社にも法人格が存在するので、グループ内部の意思決定もスピーディーになる

【デメリット】
・株式移転に対する投資家の期待値が低くなると、株価が下落する恐れがある（※親会社が上場企業の場合）
・新会社を設立するため、法人の維持コストがかかる

④「会社分割」

会社分割とは、事業の一部、またはすべての事業を切り離し、別の企業に継承させること。会社分割には2種類あり、切り離した事業をすでに設立している別の法人に移す吸収分割と、新設会社に移す新設分割があります。

【メリット】
・新株を発行することを対価として事業を引き渡すため、買収資金が不要
・関連のある事業だけを引き継げるため、シナジー効果を得やすい
・承継する資産は税制上の優遇を受けられる

【デメリット】
・株価が下落する恐れがある（※買い手企業が上場企業の場合）
・買い手企業の株主構成が変化する可能性がある
・分割後の事業は買い手企業のルールで運営されるため、現場の不満が高まり、経営体制が不安定になる可能性がある