世界的ブランドが認めた栃木の「飴企業」 美しい造形の「べっこう飴」は、「お年寄りのお菓子」じゃなかった

「どうぶつべっこう飴」など、大手には真似のできない熟練の手作業で美しい造形の飴を製造する「株式会社野州たかむら」。度重なる被災をきっかけに、それまでのOEM(※他社ブランド製造)専門から自社商品の開発・販売へと舵を切った3代目の小崎和江代表に、看板商品開発やリブランディングの経緯、今後のビジョンについて話を聞いた。
目次
母からの一言で決めた看板商品

――自社商品の開発から販売までの経緯を教えてください。
長年OEM商品をメインに製造してきましたが、取引先が「いらない」と言えば仕事がなくなってしまいます。地震・竜巻災害に遭って会社を立て直す際に、OEMに頼ったままでは安定した経営は難しいと考え、「自分たちの商品を作りたい、ナショナルブランド商品を作りたい」と強く思うようになりました。
たとえば、イベントのために制作するOEMは、イベントが終了するとなくなってしまう。そのつど新しい商品を考えるのは時間がかかります。
もっと息の長い、ずっとお客様に愛されるような商品を作りたいということで、最初に考えたのが、現在の主力商品「どうぶつべっこう飴」です。
弊社は飴の形状にこだわりがありますので、形状をとても意識しました。しかし、開発の際にバイヤーさんなどに話を聞きましたが、「べっこう飴はどちらかといえばお年寄りの食べ物なので、かわいい形の商品は売れない」と言われてしまいました。
ただ、母の「人はいくつになってもかわいいものはかわいい。だから私がこの商品を見たら絶対に買うよ」という言葉が決め手となり、動物の形にした、この商品の販売を決断しました。2014年に発売した自社商品の第1号です。
私自身もべっこう飴は「お年寄りの食べ物」と思っていたところがあったのですが、動物の形状にしたことや、添加物を使用していないこともあって、若いお母さんが子供に購入してくれたり、会社員の女性たちが職場に持っていってくれたり、またお年寄りの方々からも形がかわいいという反応があったりと、老若男女から反響がありました。
――ほかに、どのような商品を開発しましたか。
「どうぶつべっこう飴」の抹茶味や塩味、またゆず味なども作りました。インバウンド需要も考えて、招き猫・富士山・相撲・だるま・桜という日本を代表する形状の「和べっこう飴」も開発しました。
現在では、いろいろな形状の飴を作れるという強みを活かして、猫や宝石の形の商品など、様々な自社商品を販売しています。
展示会から広がり、有名ハイブランドとのコラボへ

――販路はどのように拡大していったのでしょうか。
長年OEMをやってきたので、弊社は自社の販路を持っていませんでした。そこで、販路を広げるために展示会やイベントなどへの出展、また物産展への出店を始めました。
最初の卸先になったのは、大手輸入食品チェーンです。同系列の和食材ブランドのバイヤーが宇都宮の展示会で見かけた「どうぶつべっこう飴」を気に入ってくれて、そのチェーンの店舗で取り扱いが始まりました。
自社商品を広めるために出展しましたが、同様にOEMの販路拡大にもつながりました。飴はキラキラしていて綺麗ですので、ブランド企業との相性もとても良く、世界的に有名な高級ブランド企業との取引のきっかけにもなりました。
――営業は小崎代表が担当していたのですか。
そうですね、当時は私以外の社員は皆、製造を担っていたので、展示会や物産展には私が赴いていました。ただ、「営業」という感じではなく、展示会や物産展で向こうから声をかけてもらって、その後に企業に商談に伺うスタイルです。自社商品を持って飛び込みでやるような営業は経験していません。
「商談がしたい」と連絡が入ると、栃木県まで来てもらうのはなかなか難しいこともあり、製品を持って私がお客様のところに行くスタイルでやっていましたが、そうなると持参した商品しか広がりません。
弊社では多種多様の飴やキャンディを作っているので、もっといろいろな商品を見てもらいたいと思い、2018年に東京の渋谷に営業所兼店舗の「AMER(アメール)」をオープンしました。
直営店でもある「AMER」で実際にキャンディを販売しながら、商談もできるようにしました。
自社ブランド「AMER」を世界へ届けるために

――「AMER」の商品の特徴は?
渋谷の店舗の開店前、2016年に自社ブランド「AMER」を立ち上げました。野州たかむらの商品のリブランディングの意味もありました。
「AMER」では、「どうぶつべっこう飴」などの野州たかむらの商品とは異なり、見たときに「かわいい!」「これ何?」と思ってもらえるような、遊び心のあるキャンディを意識して開発しています。
例えば、食べられる花が中に入ったキャンディ、光るキャンディや、惑星がプリントされた、丸ごと食べられるキャンディなどです。
「AMER」の商品はロットが少ないこともあり、価格設定は少し高めかなと思いましたが、競合店舗を調べたところ、店舗で販売する価格として成り立つものでした。
AMERは1店舗経営なので、売れる量は決まっています。けれど、弊社はメーカーなので、「AMER」で見ていただいたものを、他のブランドの商品としてOEM先に扱ってもらい、大量に販売してもらう、という流れができました。
――今後の経営のビジョンを聞かせてください。
私には子どもが2人いますが、現在、息子は本社のある茂木町で製造と営業を担当しながら、東京の営業所との間を行き来しており、娘は東京でAMERの店舗運営をやっています。
子どもたちと今後について相談していますが、日本は人口が減っていることもあり、「これからは海外へ販路を広げていったほうがいいだろう」と、さらなる販路拡大を目指してやっています。
娘が長年海外にいたこともあり、海外の営業に関しては娘が担当しています。今は、海外に弊社のキャンディを持っていくために、海外向けの商品を作る工場を建てる計画をしています。
ただ、「いつまでもキャンディだけの商売だと難しいのでは」と考えています。キャンディという枠にとらわれずに、広くいろいろとやっていくつもりです。今後の展開についても、子どもたちと共に考えていけたらいいなと思っています。
小崎和江氏プロフィール
株式会社 野州たかむら 代表取締役 小崎 和江 氏
1959年、栃木県生まれ。城西大学理学部卒業。1981年4月に株式会社 野州たかむらに入社。2012年、母に代わり3代目代表取締役に就任。企業理念を父の遺した言葉である「最高」に定め、それまでの主力だったOEMからの事業転換を図り、自社商品の企画・製造開始や直営店「AMER」のオープン、販路拡大など、新たな取り組みを行っている。
\ この記事をシェアしよう /