COLUMNコラム
「福岡ナンバーワン納税者になって社会貢献」日本に明太子を生んだ企業/「味は守るな」5代目社長の思い~ふくや【前編】
終戦直後、日本で初めて明太子を商品として売り出したとされる、福岡・博多の老舗明太子店「ふくや」(福岡市博多区)。代表を務める5代目の川原武浩氏は、「味は守らない」のモットーを掲げ、博多華丸さん主演の映画プロデュースなど「攻め」の経営を展開している。その人生や事業承継を紹介する。
目次
10年かけて開発した「味の明太子」
武浩氏の祖父にあたる、ふくや創業者・川原俊夫氏は、1945年、沖縄の宮古島で終戦を迎えました。朝鮮半島から引き揚げてきた家族とともに、1948年に博多で食料品卸の会社を立ち上げたのが、ふくやの始まりです。
俊夫氏は、かつて住んでいた韓国・釜山の市場で売られていたキムチ味のたらこを思い出し、日本人の口に合うよう、10年かけて研究を重ねます。研究の甲斐あって、明太子の元祖となる「味の明太子」が完成しました。
ふくやの明太子はその後、全国で爆発的な人気を集めることに。その人気ぶりを見た周囲は特許取得を勧めますが、俊夫氏は「明太子は名物とか珍味じゃなか、ただの惣菜たい」と、それを断り、他社に明太子の作り方を教えます。
「いろんな会社がいろんな味の明太子を作った方が、結果的に明太子が広がるのではないか」――そんな思いがあったのでしょう。実際、明太子業界は1400億円の巨大市場に成長しています。
創業者の死後は妻・千鶴子が会社を引き継ぎ、2人の息子たちがそれを支えました。
創業者の夢「福岡で一番の納税者」そのわけは社会貢献
「創業者はどんな人だったのですか」と問われた武浩氏は「理念が経営しているような人」と答えます。その背景には「戦争から無事に帰ってこられたのだから、これからは世の中の役に立つ生き方がしたい」という思いがあったのでしょう。
創業以来の理念は「社会貢献」。特に強いこだわりを見せていたのは「税金を納めること」でした。
税金を納めることが一番の社会貢献になる――その考えのもと、俊夫氏は「福岡で一番の納税者になる」という夢を掲げ、ついにはそれを実現して亡くなったのです。
武浩氏は今もその思いを尊重しており、「今後、主力商品が明太子ではなくなる可能性はあるものの、創業者の理念はずっと大切にしたい」と語ります。
創業者の教え「味は守るな」
もう一つ、創業者の教えとして受け継がれているのは「味は守るな」。環境は日々移り変わるのだから、その変化に対応することが、「おいしい」の提供につながる――そうした考えがあったのです。
実際、ふくやの主力商品である明太子の味は日々変化を遂げています。創業時に12~13%だった塩分濃度は、今や3~5%に。少ないおかずで白米をたくさん食べる文化ではなくなりつつあるため、それにあわせて味を改良しているのだと武浩氏は語ります。
ディフェンダータイプの経営者として
ふくやは、福岡をホームタウンとするサッカークラブ「アビスパ福岡」のサポーターでもあります
元・サッカー少年であり、大のサッカーファンであるという武浩氏は、自身を「ディフェンダー(守り)タイプの経営者」だと分析します。その裏には、「自分は創業者ほどイノベーティブではないし、この会社は自分が創り上げたものではない。会社を大きく伸ばすタイプではないが、潰さない経営はできる」という、自身へのストイックな評価がありました。
とはいえ、守るだけでは勝てない。商品を変えたり、新しいことにどんどんチャレンジしたりしつつ、理念をきちんと守りながら「会社を長く続けていくこと」を考えたい――武浩氏はそう語ります。
創業者の思いを後の世代へ伝えていくため、創業者夫妻をモデルにしたドラマ「めんたいぴりり」を企画したのも、武浩氏の取り組みです。映画は博多華丸氏を主演に迎え、2023年夏に公開されました。
「常に新しい、おもしろいことをしている会社」でいたい
缶詰の中に明太子の粒や調味液を入れた商品「めんツナかんかん」、明太子をチューブに詰めた「tubu tube」……どれもふくやの人気商品です。
ユニークな商品を続々開発する背景には、武浩氏の「ふくやを、常に新しい、おもしろいことをしている会社と認識してもらいたい」という想いがありました。
ひときわ目を引くのが、明太子の量をチェックするセンサー「ふくやIoT」。自宅の冷蔵庫に設置しておけば、明太子がなくなる前に、操作不要で新たな明太子が届く仕組みです。
ふくやIoTによって、「はじめは大切に少しずつ明太子を食べるが、賞味期限が近付くと慌ててたくさん食べる」という顧客行動が明らかに。そこから「明太子1パックあたりのボリュームが大きすぎるのではないか」という仮説が生まれ、「めんツナかんかん」や「缶明太子油漬け」などといった常温商品の開発につながりました。
※こちらの記事は追記・修正をし、2024年2月25日に再度公開しました。
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