「機能」「耐久」「映える美デザイン」全部備えたキャンプグッズ 歴史ある町工場が生み出したブランド、世界進出へ

コロナ禍をきっかけに、部品工場から自社ブランドの開発に踏み出した株式会社栗原精機(埼玉県川口市)。文具ブランド「COOL MILLINGS」、キャンプ用品などのアウトドアブランド「KURIHARA TAKUMI」の開発により、受託加工業から脱却し、新たな収益源を開拓した。「機能性」「耐久性」「見た目の美しさ」を兼ね備えた製品を生み出し、新たな顧客層を開拓する栗原匠代表取締役(35)に、これまでの歩みと今後の展望を聞いた。
目次
世界的アーティストにまでつながった自社製品開発

――栗原精機は自社ブランドを立ち上げていますが、それはなぜですか?
自社ブランドは、コロナ禍でスタートさせた取り組みです。コロナの影響で工場の稼働が落ち込み、このままではいけないと奮起し、自立するための製品開発に取り組みました。
当社は請負加工業なので、取引先に依存しすぎると会社の存続が危うくなるリスクがあります。そのため、自社製品を開発して自立した収益源を確保しようと考えました。最初につくったのが文具です。
――反響はどうでしたか?
2020年にブランド「COOL MILLINGS」がスタートし、最初は何店舗かに卸して販売していたのですが、メディア取材が入ったことで知名度が一気に上がりました。
直接的な売上にはつながりませんでしたが、「栗原精機」という名前が知られるようになり、「何かあったときに頼もう」と思ってもらえるようになりました。主力商品は、ジュラルミン材から一体削り出しで製作したテープカッターです。
――具体的に、どのような効果がありましたか?
展示会に出た際に、「この製品を作っているなら、別のものも作れるのでは?」という問い合わせが増えました。たとえば、世界的なアーティストである五十嵐威暢氏とのコラボレーションにつながり、そのオーナメントの製造を手がけたこともあります。これまでは職人としての仕事が中心でしたが、BtoCの取り組みを通じて新しいジャンルの仕事が増えました。
自社の強みとキャンプニーズがかみ合った
――そこからキャンプブランド立ち上げたそうですね。そのきっかけは?
あるとき、年間100日以上キャンプをする方から「一緒にものづくりをしませんか?」と相談を受けました。私は当初キャンプには興味がなかったのですが、話を聞いているうちにおもしろそうだと思い、キャンプグッズの製造にも取り組むことにしました。最初に開発したのは、カメラの三脚を使ったテーブル用アタッチメントパーツでした。
――反響はどうでしたか?
非常に好評でした。その後、2番目に開発したLEDランタンスタンドが大ヒットしました。キャンプシーンに合うようなデザインにこだわり、半年ほどかけてデザイナーと一緒に開発しました。
――キャンプギアのヒットの理由は何だと思いますか?
当時のキャンプギアは、見た目にこだわった製品が少なく、私たちが作った製品は「精密さ」と「デザインの良さ」を兼ね備えていました。特に、三脚を使ったテーブル用アタッチメントやLEDランタンスタンドは、既存のキャンプ用品にないアイデアだったため、とても話題になりました。
――具体的には、どのような特徴が評価されたのでしょうか?
1つは「耐久性」と「機能性」の高さです。アウトドアで使うギアなので、タフさが求められます。それに加え、私たちは「見た目の美しさ」も大切にしました。当時のキャンプギアは機能一辺倒のものが多かったのですが、私たちの製品は「キャンプサイトで映えるアイテム」として受け入れられたのです。
――製品開発のプロセスで意識したことは?
開発段階では、必ず実際のキャンプシーンをイメージしながら製品を作るようにしました。キャンプを楽しむ人たちが、どんな場面で使いたいのか、どんなデザインなら「持ちたくなる」のかを徹底的に考えました。その結果、デザイン性と実用性のバランスが取れた製品を作れたと思います。
海外にも広がった「栗原精機」というブランド
――自社ブランドの立ち上げによる会社全体の変化を教えてください。
現在、売上の約2割を自社ブランドが占めています。特にキャンプギアは海外を含めて約140店舗に卸しており、順調に拡大しています。ギアのデザイナーさんとも、ずっと変わらず一緒にものづくりを続けています。
これまで反発していた社内の職人たちも、売れる商品が出たことで納得してくれるようになりました。「売れる商品の力はすごい」と実感しました。
――販売チャネルはどのように構築しているのですか?
文具は自社のECサイトがメインで、東京や東北の数店舗にも卸しています。キャンプギアは卸がメインで、海外を含めて約140店舗に展開しています。特にアジア圏ではキャンプ人気が高まっており、そこからのニーズも多くあります。
また、キャンプイベントなどへの出展も積極的に行い、新たな顧客層との接点を増やしています。自社の名前が載っている商品を見て頂き、数社のキャンプブランドから製造依頼のご相談をもらうこともありました。
「ブランドでありメーカーでもある会社」に成長を遂げる
――代表取締役就任の経緯は?
父が病気になったことがきっかけです。2年前に胃がんが見つかり、転移して長期間入院していました。その間、私が基本的な業務を担当し、父がいなくても会社が回ることを示すことができました。その様子を見た父が「これなら大丈夫だ」と感じ、承継が早まり今に至ります。
――今後のビジョンについて教えてください。
会社を無理に拡大するつもりはなく、付加価値の高い製品開発を続けていきたいです。最近では、個人のアイデアを具現化する支援にも興味があります。また、コミュニティづくりにも力を入れており、父が主宰していた製造業のフェイスブックグループや、跡継ぎをつなぐネットワークを活用していきたいと考えています。
――ブランドとしての立ち位置はどのように考えていますか?
代が変わればやることも変わります。創業当初は部品加工工場でしたが、今後は「ものづくりのディレクション」に力を入れ、ブランドとしての立ち位置も強化したいと考えています。「ブランドであり、メーカーである」という姿勢を貫きながら、他社と差別化できる価値を提供していきます。
プロフィール
株式会社栗原精機 代表取締役社長 栗原匠氏
1989年、埼玉県生まれ。大学卒業後、革靴メーカーのリーガルに入社、2019年に現在勤める株式会社栗原精機へ入社し、2023年に代表取締役社長に就任。現場作業から営業まで幅広い業務を担当し、現場での経験を基に工程管理の改善や新規事業の立ち上げを進める。自転車パーツやキャンプギアなど、趣味性の高い製品開発を手掛け、同社の新たな顧客層を開拓。DX推進や多角的な事業展開を目指し、ものづくりの伝統を守りつつ、革新を続ける企業経営に取り組む。
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