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待ったなしの女性が事業承継しやすい社会づくり/大塚久美子インタビュー#2

日本の会社には女性経営者はとても少ない。事業承継する女性も様々な課題を抱えているという。大塚久美子氏は子供の数が減っている今、女性がもっと事業を承継するようにならないと多くの家業の存続は危いと警鐘を鳴らしている。

――日本の女性経営者の比率は主要先進国に比べて半分以下の水準です。事業を承継する女性も当然、少ないわけですが、現状をどのように受け止めていらっしゃいますか。

大塚 女性経営者が少数だということ自体が大きな問題です。一人っ子世帯も増えていますから、事業承継する時も、女性が事業を承継しなければ後継者はいないというケースも多い。女性が事業を承継し経営していくことが自然に受け入れられるようにしなければならない、そうせざるを得ない時代が来ていると考えています。

――主要先進国の場合、女性幹部社員は3割を超えています。それなのに日本は1割程度です。ダイバーシティの推進が叫ばれていますが、劇的には変わっていません。

大塚 産業社会というのは標準化による効率化の社会です。企業も社会も、子育てなどなどの家庭の責任を女性が負担する男女の役割分担を前提に、仕事に全ての時間を投入できる男性の働き方を標準として作られてきました。

もちろん、制度面は少しずつ変わってきていますが、それを運用する人の意識は、人によって濃淡はありますが、子育てを含めて家庭は女性の責任という観念に影響を受けています。組織のあり方、働き方のモデルと同時に、そうした意識を積極的に変えていかないと、女性にとって、家庭を営みながらキャリアを継続することは心理的にも過度に負担が重いものになってしまいます。

しかし人口が減少し、人が足りなくなる時代がもうすぐそこに来ています。そんなに時間をかけるわけにはいきません。ダイバーシティは女性やマイノリティにとっての問題ではなく、社会全体の問題であり企業の生き残りの問題でもあります。経営者としても従業員としても多様な人材を活用しなければならない時代がやってきます。

経済の規模を維持しようと思えば、今まで通りのいわゆる標準化された労働力モデル、つまり男性を前提とし、家庭は女性が維持してくれるというモデルを変革し、多様な人の多様な働き方を受け入れられる世界にならないと、経営も難しくなると思います。

産休だけが解ではない

――女性問題に関して事業承継の特有の課題はありますか。

大塚 表面には出なくても、実は悩みの種になっているのは「名前」です。夫婦別姓が認められていない現状では、結婚するとどちらかの姓を選ばなければなりません。

ファミリービジネスでは、名前には象徴的な意味があります。家業を受け継ぐなら、名前も変えない方が収まりはいいのですが、夫にも夫の事情があります。周りが、事情をよくわかっている人ばかりだといいのですが、現実はそうではない。名前が変わること=相手の家に入ることという昔のイメージが残っている地方などでは、名前を変えた女性が家業を受け継ぐと腰掛的な印象を持たれかねません。

また、女性社長が子供を産む時、どうサポートしていくのかはリアルな問題になると思います。これは働く女性が仕事と子育てをどう両立するのかという問題の延長線上にあります。子育ての負担を父親も均等に担うことで、女性社長が長期間「産休を取る」と言う状況は回避できます。

また、職場に保育室を設けるなど、仕事と子育てを両立しやすくする環境づくり、それを積極的に助けていこうという社内の意識変革も必要です。子育てと社業とどちらかを選ばなければならない雰囲気では、女性経営者が子供を持つことを躊躇う原因になりますし、それ以前に経営者になること自体を躊躇う原因にもなるでしょう。

――日本の会社の場合、数では99%が中小企業ですから、そこで女性が会社を継がないと大変なことになりますね。

大塚 ファミリービジネスの場合は、女性が家業を継いだとしてもそこで終わりじゃないのです。会社の経営と出産・育児を両立できないと、ファミリービジネスが続かないかもしれないという現実があるわけです。それが社会全体の重要な問題だということを共有し、解決していかないと本当に後継者いなくなります。

――後継者がいなければM&Aで対応すればどうでしょうか。

大塚 現実には、もう継いでくれる人がいないから、M&Aをするしかないと決断している中小企業が年々増えています。それは一つの解決策として重要です。しかし、家業を愛して、会社は本当に大事だと思って、その会社を経営しようという人がいるのであれば、その人の性別にかかわらず、やれる環境を整えるのが健全なのではないかと思います。

それは、事業の継続と発展には、経営者の事業に対する愛情が大事だと考えているからです。例えば、家具業界をみると、メーカー、問屋、小売業を含めて女性経営者は2%しかいません。このままでは次の世代に受け継ぐ人は誰もいないという状態になってしまいます。今、考え方を切り替えていかないと、立ち行かない業界がどんどん増えしまうのではないでしょうか。

――女性経営者のネットワークづくりも必要ですね。

大塚 女性経営者の会はあちこちで作られているようです。そういうところからお誘をいいただくこともあります。

損得ではない「賢者の境地」を

――「賢者の選択サクセッション」でも男性経営者だけではなく女性経営者をどんどん紹介したいと思います。

大塚 ぜひ紹介し、応援していただいて、世の中をいい方向に変えていただきたいですね。そしてもっと事業承継を多くの人に前向きに考えてもらいたいと思っています。

確かに事業承継は損得で言えば、現在の経済情勢では、むしろ損なことの方が多いかもしれません。また、現代は基本的に職業選択の自由があります。若い人には色々な職業に就きたいという将来の夢があるでしょう。普通に考えれば、若い頃から勉学にしろ、仕事にしろ、頑張れば頑張るほど、人の選択肢は増えていくものです。その中であえて家業を引き継ぐというのは、やはり損得だけではない家業への愛情があるからです。それは事業にとってとても大事なことです。

愛情なしに企業は発展しないものだと思います。会社を良くしたい、社会を良くしたいという思いがあって会社は発展するものです。

個人の損得で考えれば、世の中にきっといろんな選択肢はあるわけです。それでも、あえて得でもなく、幸せでもないが、本当に意味があり、愛情を感じられる仕事を選択することで、自分の人生を豊かにすることができると、私は信じています。

この「賢者の選択サクセッション」を通じて、多くの方々が損得だけでない「賢者の境地」に至っていただけるとすれば、世の中が少しは良くなるのだろうと思っています。


前編|「絶対の処方箋がないからこそ、最大限の努力を」はこちら

(文・構成/安井孝之)

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大塚久美子 (オオツカクミコ)

1991年一橋大学経済学部卒、同年、(株)富士銀行(現 (株)みずほフィナンシャルグループ)入社。1994年家業である(株)大塚家具に入社。1996年取締役就任。経営企画、広報、IR、教育研修、経理、商品開発などの責任者を歴任。10年間で売上と社員数が3倍になる急成長期に、組織・仕組みづくり、インテリア人材育成のプログラムづくりなどを自ら手がけた。2004年大塚家具を退社。2005年(株)クオリア・コンサルティング設立、代表取締役就任。2009年3月(株)大塚家具代表取締役社長就任。就任6年目に約半年社長職を離れるが、2015年1月代表取締役社長に再任。2020年12月退任、(株)クオリア・コンサルティング代表取締役社長に復帰。現在に至る。

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