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「ロゴマークが変わると、会社も伸びる」 ANAやアサヒビール、成長したときにロゴが変わっていた

「会社の顔」であるロゴマークは、会社の理念や哲学を凝縮し、一目で分かるデザインになっています。ロゴマークを作ることは「外向けのブランディング」という効果だけでなく、社員のモチベーションや業績の向上にも影響があるといいます。長野冬季五輪のエムブレムなど、日米で多くのロゴマークを手がけてきたデザイン会社「イデアクレント」(東京都中央区)の篠塚正典代表取締役に、ロゴマークが果たす役割について聞きました。

「名刺を出すのが楽しくなりました」

――ブランディングやロゴマークで社員が前向きになるのですか。

篠塚 例えば、社長が交代する事業承継の場合です。社長が変わるのですから、社員は「これから一体どうなるのだろう」と不安を抱えていると思います。

その時、ビジョンをはっきり社内に発信することで、目指す方向が分かり、不安が解消されます。それに加え、ロゴマークのデザインが新しくなれば、心機一転モチベーションも上がります。名刺が一番、社員に影響があります。

これまで多くの会社のマークを作りましたが、「名刺出すのが楽しくなりました。自信を持ってこの名刺が出せます」という声をよく聞きます。デザイナーとしては嬉しいです。デザインでモチベーションが上がり、一致団結して同じ方向に向かっているという証ですからね。

――デザインが変わり、会社が変わった例としてどんなものがありますか。

篠塚 有名なのは全日空(ANA)です。元々は国内線だけの航空会社でした。当時、垂直尾翼に書かれていたマークはレオナルド・ダ・ビンチが書いたヘリコプターの絵でした。

紺色とブルーの垂直尾翼に白いANAの文字が書かれた今のマークに変わったのは1982年です。国際線に路線を拡大しようとしていたころで、そのころから会社は一気に大きくなり、独り勝ちだった日本航空(JAL)を追い越したのです。

アサヒビールも、スーパードライの発売時にロゴマークが変わりました。キリンにどうしても勝てない業界2位のアサヒが、トップに躍り出ました。スーパードライというヒット商品の力も大きかったですが、ロゴマークが変わり、イメージが一新されたことも影響したと思います。

シェル石油、スタバ、ほんの少しずつ変わるロゴ

――「デザインの力」はいつまでも続くのですか。

篠塚 成功したから終わりではありません。会社のマークが100年持つかというと、持ちません。時代はどんどん変わっていきます。時代に合わせて、リニューアルする必要があります。

多くの場合、5年、10年おきに時代に合わせて、ほんの少しずつデザイナーがリニューアルしています。それは見る人には気づかれない程度の変更です。何百年も続いているブランドは、みんなそういう風にリニューアルしているものです。

例えばシェル石油のマークは、赤と黄色のシンプルな貝のマークです。見慣れたマークですが、10年、20年ごとに微妙に変わっています。クレジットカードのVISAの字体やグリコのマーク、スターバックスコーヒーのマークなども時代と共に変化しています。事業は常に改善して時代に合わせていきます。デザインもそれと同じ感覚なのです。

――そうすると、社長が交代する事業承継時は、会社が劇的に変わるから、ロゴマークをはじめブランディングを見直す時ですか。

篠塚 新社長は、今まで通りじゃいけないと思い、新しいことをやろうと考えるものです。それを広く早く全社員に伝える手段として、ブランディングを新しくすることは効果的です。

老舗企業のように属人的と思われている会社なら、より開かれた社会的な存在になっていきます。そうすると、いろいろなしがらみがあって新規事業に踏み出せなかった会社が生まれ変わるチャンスが生まれます。多様性やグルーバル化にも対応できるようになり、新規事業にも挑戦しやすくなります。

事業承継した中小企業こそ新しいロゴマークを

――後継者難などによって中小企業の事業承継が社会課題になっています。ブランディングは有効ですか。

篠塚 中小企業こそやった方がいいと思います。今、大企業といわれる会社も昔はみんな中小企業です。何らかのチャンスをきっかけに大企業、一流企業へとステップアップしてきたのです。そのきっかけを起こす時にデザインが果たす役割は大きいと思います。

私は中小、ベンチャーから大企業まで多くの会社でブランディングに関わってきました。ベンチャー企業は、まずブランディングデザインから入る会社も多くなっています。

――スムーズな事業承継を「デザインの力」でサポートできますか。

篠塚 デザインを通して、たくさんサポートできると思います。事業を見直すきっかけにもなりますし、すでにお話しましたが、「デザインの力」でポジティブなイメージを社内外に与えられます。

トップが変わることは会社が大きく変わることです。その変化を広くみんなに知ってもらうことが大切です。新しいトップとして変化への覚悟も見せなくてはいけません。

ビジュアルを変えて、会社の内外にも発信するべきです。事業承継の機会をとらえて、ロゴマーク変更などのブランディングは是非やったほうがいいと思います。「デザインの力」は事業承継をビジュアル面で強力にサポートできると信じています。

(文・構成/安井孝之)

【この記事の後編】|「現時点のイメージで作るロゴマークは、既に古い」 会社ロゴマークが果たす役割とは、長野五輪エムブレムのデザイナーに聞く

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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