COLUMNコラム
2位じゃダメ?…「我々に2番手はない!」 かつて世界を制したパンスト製造機メーカー、電気自動車向けの素材加工で世界トップに
パンティストッキング製造器「ラインクローザー」で世界のパンスト生産現場を変革し、世界シェアトップに立った「株式会社タカトリ」(奈良県橿原市)。近年、繊維産業は衰退しましたが、「小さな巨人」と呼ばれた創業者・髙鳥王昌のものづくり精神を生かして、電気自動車に使われる素材の加工で再び世界シェアトップを奪いました。2016年に社長に就任した増田誠氏に、常にナンバーワンを目指す企業風土と将来像について聞きました。
目次
創業者の精神が「骨粗しょう症に…」
――就任当時、どのような課題を抱えていたのですか?
増田 髙鳥が築いた「創造と開拓」の精神が、時代の流れとともに骨粗しょう症のように歪んできていました。ものづくりの精神は数年持っても、長く継続させるのは非常に難しいと感じました。何とか再生させようと、社長に就任した2016年からの10年間を「第2創成期」と位置づけ、ぐっとエネルギーをためて飛躍につなげたいと考えました。
――当時の業績は良くなかったのですか?
増田 悪くはなかったです。ただ、以前に開発した製品の売り上げが反映されます。将来の新しい創造と開拓の道が見えるかというと、難しい状況でした。意識改革が必要でした。
――具体的に、どういうことを始めましたか?
増田 最初に手がけたのは、評価制度をはじめとする人事制度の改革です。髙鳥は、長年連れ添った技術者を重宝する側面がありました。何かを作り出すとき、同じメンバーが必ず招集されていたのです。
固定されたメンバーで技術開発や事業運営が行われるはよくない。労働に対する対価について、不公平感があってもいけません。頑張る人を正当に評価する制度に改善しました。
何より大事なのはものづくりのマインドです。髙鳥がこよなく愛した言葉は「志ある者は事ついに成るなり」。中国の後漢時代、大軍に勝利した将軍が皇帝から授けられたお褒めの言葉だそうです。「何かを成し遂げたければ、強い意志を持たねばならない」という意味です。
創業者・髙鳥王昌を越えろ!
――マインドの継承とは、具体的にどのように取り組んでいますか?
増田 企業理念は「世界に誇れる独自技術を製販一体となって構築し、最良の製品とサービスを提供し、人々の暮らしを豊かにする」です。企業理念は、工場内や会議室などに掲示しています。
「そんなこと、今さら言われなくてもわかっている」と言う社員が多いのですが、「何を目指してこの仕事をやっているんですか?」「これからどうしようと考えているんですか?」と問いかけると、なかなか明確な答えが返ってきません。
少し切り口を変え、「耐性・改革・挑戦」という3つの言葉を掲げました。 耐性とは、どのような環境になろうとも生き延びていける力です。2~3年様子を見ていましたが、まだ物足りないので、新たな言葉として「競合・競争戦略」を積み上げました。
2位じゃダメなんでしょうか? ダメに決まってるだろ!
――他社と競合し、勝つのは当然のことのようにも感じられますが
増田 競合・競争というと、ライバルより優れていることが価値だと受け取られがちですが、違います。競合のない、競争のない世界で勝ち続けようという意味です。
他社と競合していては、社会に対してすごみのない機械になってしまいます。ニッチな分野であっても、常に100%のマーケットシェアを目指すのが髙鳥の志です。
かつて「2位じゃダメなんでしょうか?」という政治家のフレーズが話題になりましたが、我々に2番手はない。常に1番を目指します。
――御社のポスターには「王昌を越えていく事」と書かれています。
増田 社長に就任したとき、いろんなポスターを作りました。地球から月まで約38万キロで、徒歩だとちょうど10年でたどり着くらしい。それで宇宙飛行士にスーツケースを持たせたポスターを作りました。
タカトリという「ものづくり企業が」どのような企業かをもう一度しっかりと認識してもらうために、「ミスターものづくり」だった髙鳥王昌を越えていくというポスターを社内の至る所に貼っています。
EV向けの炭化ケイ素加工、世界シェアほぼ100%
――「第2創成期」の10年のうち、8年が経ちました。手応えはいかがでしょうか?
増田 現在、ヒット商品はありますが、社内からふつふつと新たな事業分野が企画立案されてくるかというと、なかなか手応えがあるところまでは来ていません。
――実際に市場ナンバーワンの製品はありますか?
増田 電気自動車(EV)用の電子回路の基盤となるSiC(シリコン・カーバイド=炭化ケイ素)という素材があります。電気抵抗率が小さいため、バッテリーを長持ちさせることができます。
SiCは、ダイヤモンドと炭化ホウ素に次いで地球上で3番目に硬い化合物で、加工が非常に難しいです。しかし、タカトリが約3年前にリリースしたマルチワイヤーソー方式のSiC向け精密切断加工機は、世界でほぼ100%のシェアを占めています。
今後、脱炭素化に向けてEVが普及しますから、限りなくフィールドが広がっていきます。最先端の加工分野で今、世界を支えているのが一番の強みです。
――受け渡されたバトンを、今度は渡す側になりました。これからはどうお考えですか?
増田 次の経営者として誰にバトンを渡すべきか。決定要因はたった1点です。永続的に「創造と開拓」の精神でものづくりをやっていける人間です。とりわけ外交も含めて「ものづくり」を考えられる人間に、バトンを渡せると考えています。
後継者を育てることも経営者の役目だと思います。「増田さん、もうよけて。私がやるから」というくらいの人を募集するよ、と社内で言っていますが、なかなかそうした人材は出てきません。何とか後継者を育て、バトンを渡していきたいと考えています。
株式会社タカトリ
1950年、奈良県大和高田市にて株式会社 高鳥機械製作所を設立する。1970年、海外代理店と契約を行い、本格的に輸出を開始。1980年、これまでに培った技術を活かして、半導体機器分野に進出。1985年、株式会社タカトリに社名変更。2019年に胸腹水濾過濃縮装置M-CARTが日本人工臓器学会技術賞を受賞。
【この記事の前編】「世界中の女性のパンストを、うちの機械が作っていた」 パンスト製造機で世界を制した「小さな巨人」の精神を受け継いで
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