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「バームクーヘン」「ラ コリーナ」、その神髄は「柿色」の秘伝書に 全ての菓子は創業時から変わり続ける~たねやグループの事業承継【前編】

創業152年を迎える菓子の老舗「たねや」(滋賀県近江八幡市)。和菓子店として伝統の菓子を作り続ける一方で、バームクーヘンで知られる洋菓子の「クラブハリエ」、お菓子のテーマパーク「ラ コリーナ」など多彩な展開で成功し、2022年は過去最高売上げを達成しました。たねやグループ の山本昌仁CEOに、たねやの経営哲学を尋ねると、その根幹にある「柿の色」の秘伝書について教えてくれました。

近江八幡の商人として地元の人々に親しまれた「たねや」

1872(明治5)年に誕生した「たねや」は、江戸期は材木商で、その後は肥料の種を扱っていました。菓子屋に商売替えをしても、地元の人が「あれは種を売ってたから『たねや』や」と呼んでいました。

そこで、「地元の人に名前をつけてもらったから大事にしよう」と、菓子店になっても社名を「たねや」としました。ただ、「創業当時の当主は少々恥ずかしさを感じてたみたいです」(山本氏)。

創業以来、たねやは山本家が家族経営を続けてきました。4代目の山本昌仁氏がたねやを継いだのは2011年です。

山本氏の就任後、2011~2023年の売上げの推移は、2020年のコロナ禍で売上げを落としたものの、他は右肩上がり。2022年は創業以来最高となる200億円を達成しました。

創業以来、味は変わり続けている

たねやを象徴する品に、創業当時から親しまれる主力商品「栗饅頭」があります。伝統の商品ですが、砂糖や栗の量が創業当時と全く異なっています。全ての品は、当主ごとに味が変わっているといいます。

山本氏は「伝統は守るものではなく続けるもの。続けるためには、今の時代に合ったものを創造する必要がある」と語ります。一例として「昔、自動販売機で水が販売されるなんてあり得なかった」点を挙げます。

そして、「お菓子は手法であり、枝葉である」とし、「枝葉は時代ごとに移ろい、いろいろな花を咲かせればいい」と話します。その時代に見合った「おいしい」菓子が、時代ごとに咲く「花」だといいます。

色とりどりの「たねや」の花とは

「花」の一つが、グループ会社「クラブハリエ」のバームクーヘン。1951年創業のクラブハリエは、たねやの洋菓子部門として始まり、日本における「高級ブランド」バームクーヘンの先駆けとなりました。

また、和菓子が主力の「たねや」にも「たねやカステラ」という人気洋菓子があります。見た目とフワッとした食感は、一般的なカステラと全く異なります。山本氏は「これが和菓子の技術。少しやり方を変えるだけで違うものに変化するんです」と胸を張ります。

2015年には近江八幡市に「ラ コリーナ近江八幡」をオープンさせました。小川や田んぼなど日本の原風景を再現した敷地内には、「たねや」の全商品が勢揃いし、できたてを味わえるほか、職人の製作工程が見学できます。今では年間400万人の来客を見込み、滋賀県ナンバー1の観光スポットになっています。

たねやの根本精神を伝える「柿の色」の冊子

こうした多彩な「花」を咲かせる一方で、山本氏は「変えてはならないものもある。その分別をしっかり大事にしないとダメ」とも強調します。それは、山本家が、江戸期からずっと大切にしてきた根本精神だといいます。

山本家には、「末廣正統苑」というオレンジ色の冊子があります。和菓子の原点は「柿の甘さ」にあることを忘れないため、柿がイメージできるオレンジを採用しています。この冊子が、たねやの「バイブル」です。

もともとは口伝で引き継がれてきた内容を、山本氏の父・徳次氏が現代語風にまとめました。材木商や種屋だった頃から受け継ぐ根本精神を形式知化したのです。

2000人のスタッフを抱える「たねや」で、昔のように口伝では経営者の哲学を理解してもらうのは困難です。バイブルは、全社員が所持しており、今の「たねや」の軸をささえる大きな役割を果たしています。

バイブルの中でも、山本氏が大事にしているフレーズが「私は生き生きする前進の心を持っていただろうか」です。

出来事はその日のうちに振り返って反省し、翌朝に新たなスタートを切る気持ちを持つこと。失敗を引きずり続けると自信を失ってしまうので、失敗は新たな目標を掲げるチャンスであり、再び挑戦することが大切、という意味です。

近江商人に通じる、たねやの三本柱

「天平道」「黄熟行」「商魂」が「たねや」が大事にする3本柱だと、山本氏は語ります。

天平道は、「商売はいかに儲けるか」ではなく、「いかにお客様に喜んでもらえるか、世のためになるか」ということです。「三方良し」の近江商人の哲学にも通じます。

黄熟行は、手塩にかけて育てることです。菓子の原料となる旬の果実が色づき熟れる様を元にした言葉で、自然から学びながら丁寧に育てるという意味です。

商魂は、利潤を求めることではなく、「天平道」「黄熟行」の魂を込めて客に接する心構えという意味です。

「人の道に外れた商いをしていては、いつかは破滅する」と強調する山本氏は、商売人のお手本のようですが、少年時代は「たねやのバカボン(バカのボンボン)」とあだ名される「悪ガキ」でした。後編では、山本氏がどのように「たねや」を承継し、成長させたかに迫ります。

株式会社たねや

1872年(明治5年)、旧八幡町池田町の地にて創業。1984年、日本橋三越店、銀座三越店をオープン。2011年現CEO山本昌仁が四代目代表取締役社長に就任。2015年「ラ コリーナ近江八幡」をオープン。2015年より7年連続滋賀県、観光客数推計1位に輝く(2022年調べ)。2023年には過去最高売上を達成。

後編|「たねやも終わりだ」バカボンと呼ばれた4代目 なぜ「ラ コリーナ」やバームクーヘンを成功に導けたのか~たねやグループの事業承継

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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