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コロナで売上げ7割減の大ピンチ、九州のご当地銘菓を作る老舗製菓会社 地方都市で事業を続けていく意味とは

大分県臼杵市で創業100年を超える「後藤製菓」は、生姜の香り豊かなご当地銘菓「臼杵煎餅」メーカーの中でシェア1位を誇る。老舗の5代目を承継した後藤亮馬代表取締役(34)は、大ダメージを受けた新型コロナウイルス禍や、父と絶縁レベルのすれ違いを経た経験から、地方で長く必要とされる企業像について深く考えるようになった。煎餅にとどまらない飲料や調味料への展開や、SDGs宣言など、新たな取り組みを進める後藤氏に思いを聞いた。

コロナ禍で見えてきた、家業の進むべき道

−−−−100周年を迎えた翌年、2020年のコロナ禍はどのような影響がありましたか?

臼杵煎餅は観光土産なので、大ダメージでした。売り上げは7割減、1カ月半程度の休業も余儀なくされ、にっちもさっちもいかない状態でした。

その時、自分たちの仕事にはどんな意義があるのかと問われている気がしました。煎餅だけに頼らず何か新しいことを始めるべきなのではないか。

そこで、過去の文脈をもう一度自分なりに理解しようと思って、臼杵煎餅の史実調査をしてみたんです。すると、臼杵の生姜は江戸時代に献上品として使われていたり、明治・大正時代は一大産地として知られ、品質も折り紙つきだったりしたことが分かりました。

今でこそ臼杵の生姜の生産量は落ちていますが、地域の食文化として重要だったことが見えてきたんです。

お菓子という商品はツールであり、地域や社会にいかに必要とされ続けるかということだけが、本質的には重要なのではと思いました。そして、後藤「製菓」という会社名にとらわれるべきでないと思うようになりました。

生姜を一つの土台に据え、製菓業より広い領域で事業を起こし、地域で必要とされ続ける企業になるべき−−−その発想で、後に述べる「生姜」を軸とした新規事業に挑みました。

−−−−SDGsへの取り組みも、そんな思考の中から生まれたものでしょうか?

100年以上続いてきたということは、社会に必要とされ続けた証です。今まで弊社が世間に供給した価値を、分解・整理し、対外的に発信するという意味で、2021年の正月に「働き方改革」「地方創生」「地域貢献」「環境保全」の4つのSDGs宣言を行いました。

「働き方改革」は、柔軟で働きやすい職場環境を整備し、地域の雇用を守ること。

「地方創生」は、地産地消と有機農業推進で食の安全や町の産業を守ること。

「地域貢献」は、学校給食寄贈や体験学習を通して郷土の歴史や文化を伝承すること。

そして「環境保全」は、煎餅に用いる生姜汁の副産物を原料にした商品を作り、年間数トンあった廃棄量を0にするなどです。

承継後、絶縁レベルに悪化した父との関係

−−−−2021年、後藤さんはお父様から5代目を引き継ぎます。承継にまつわる経緯をお聞かせください。

承継自体は、私も父も前向きで、お互いにいつでもいいと思っていました。コロナの打撃から早期に立て直しを図る必要もあったので、2021年に代表を代わりました。

承継前から意見が衝突することはありましたが、承継後、父と絶縁レベルまでこじれてしまいました。

それまで父が全権を把握し、父がいないと現場は何も動けない状態だったのを、私は権限委譲しながら組織の構造を改革しようとしました。私としては見守ってほしかったのですが、過程でトラブルが発生したりすると、父がどんどん介入してしまうんです。

思えば、承継について簡単に考えすぎており、まともに向き合って「こうしよう」という話し合いが父との間でできていませんでした。

−−−−こじれた仲を修復するきかっけは何かあったのでしょうか?

九州経済産業局から、親子での事業承継トークセッションの依頼がありました。私が単独で参加する予定でしたが、直前になって父も行くことになり…。道中も無言でしたが、オーディエンスがいる場で互いの思いを話したことで、その後なんとなく空気が緩んだ感じでした。

後藤製菓は、それまで個人事業主だったのですが、この時期に法人化し、私は社長となりました。現在、父は仕事から完全に手を引いていますが、家族としては普通に接することができるようになりました。

「菓子」にとどまらず、有機生姜の新ブランドを

−−−−代表取締役に就任されてから、後藤さんが注力されたことはなんですか?

後藤製菓の存在意義をしっかり自問自答して、ビジョンや事業構造を言語化したことが、大きな成果だと思っています。承継前にしたSDGs宣言もそこに含まれます。柔軟な働き方ができる環境づくりなど、労務状況の改善も進めています。

さらに、新規事業へのチャレンジです。有機生姜を生かした新ブランド「生姜百景」を立ち上げ、ドリンクや調味料などお菓子以外の商品を作るようになりました。有機生姜は、自社での栽培にも取り組んでいます。

既存の臼杵煎餅自体もリニューアルし、時代に合わせる努力をしています。本質を大切にしつつ新たなことを取り入れる「不易流行」の経営理念に基づいて、今後もさまざまなことに取り組んでいきたいと思っています。

自分の強みと家業の強みを掛け合わせる

−−−−「事業承継」について、ご自分の経験から、何か思うところはありますか?

事業承継という言葉には、既存のものをそのまま継がないといけないような印象もあると思います。しかし、いかに時代に即して変化を取り入れ、新しい事業のあり方を作っていくかが実は重要な部分ではないでしょうか。

仕事を始めた頃、私は自社以外の経験がないことを後悔し、自分は強みのない人間だと思い込んでいました。でも入社後、10年間家業に向き合い続け、こんな自分でも何かは持っていたようだな、と思っています。熱量や柔軟な発想といったものかもしれません。

後継ぎの方は、誰にも少なからず自分自身の強みがあると思います。うまく、家業の強みや歴史の文脈と掛け合わせて、時代に必要されるものを作るか。それが私なりの「事業承継」の解かなと思っています。

後藤亮馬氏プロフィール

株式会社後藤製菓 代表取締役社長 後藤亮馬氏

1990年、大分県生まれ。大分大学卒。2013年、実家であり1919年から臼杵煎餅の製造・販売を手がける「後藤製菓」に入社。2019年、100周年を記念したブランドIKUSU ATIOを設立。煎餅製造時の副産物を利用しフードロスを解消したジンジャーパウダーで、農水省のフードアクションニッポンアワード受賞。有機農業の推進、地域社会への寄与などにも積極的に取り組む。本質を大切にしつつ時代に合わせて新たなことを取り入れる「不易流行」の精神に則り、臼杵煎餅の可能性を広げるため日々邁進している。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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