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知らないでは済まされない! 事業承継税制の「取消事由」とは?

事業承継税制を活用することで、後継者が本来支払うべき相続税・贈与税は猶予もしくは免除されます。しかし、納税猶予期間中に適用要件から外れた場合、納税猶予が終了するだけでなく、贈与税または相続税と利子税を納付しなければならなくなります。本記事では、どういった場合に事業承継税制の適用が取り消しになるのかを解説します。

事業承継税制とは?

事業承継税制とは、後継者が中小企業の株式を相続や生前贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税が猶予(または免除)される制度です。

非常にメリットの大きい制度ですが、この制度の適用期間は、2018年(平成30年)1月1日から、2027年(令和9年)12月31日の「10年間限定」です。そして、適用を受けるには「2024年(令和6年)3月31日まで」に特例承継計画を策定し、都道府県知事に提出したうえで認定書を受領しなければなりません。特例承継計画に記入すべき事項はそれほど多くないものの、「後継者が株式を取得するまでの期間における経営の計画」や「後継者が株式を取得した後5年間の経営計画」など、簡単に思い浮かぶ内容ではありません。

また、認定経営革新等支援機関(税理士、商工会、商工会議所など)の指導と助言を受ける必要があるため、作成は早めに取りかかるのがおすすめです。
事業承継税制の適用要件については、こちらの記事で詳しく解説しています。
「事業承継で相続税が免除になる方法!――5分でわかる「事業承継税制」の仕組みとポイント」

事業承継税制の適用が取り消しになったらどうなる?

「本来納めるべき税金」+「利子税」がかかる

事業承継にかかる相続税と贈与税を猶予できる事業承継税制ですが、「猶予」とはあくまで納税義務が一時的に発生しない状態であり、納税義務が消滅したわけではありません。後述するような理由から事業承継税制の適用が取り消しになった場合、猶予されていた税額全額に加え、期間の経過に応じた利子税を一括で納税しなければならないので注意しましょう。

利子税の計算方法

納税猶予の期限が確定した場合、納税猶予額に併せて年3.6%の割合で利子税を計算して納付します。  なお、各年の特例基準割合が7.3%に満たない場合、利子税の税率は以下の計算式で算出します。

 3.6% × 特例基準割合 ÷ 7.3%(0.1%未満は切捨て)
 ※ 特例基準割合は、国税庁のホームページで確認することができます。

 例えば、平成30年分の特例基準割合は1.6%なので、平成30年中の利子税の税率は
「3.6% × 1.6% ÷ 7.3% = 0.7%(0.1%未満は切捨て)」となります。
年0.7%であれば、それほど大きなダメージにはならないはずです。しかも、納税猶予期間が5年を超えた場合には、特例承継期間(5年間)分の利子税は免除されます。

したがって、いくら「利子税を一括納税しなくてはならない」といっても、事業承継税制を使ったせいで大損するわけではなく、あくまで「支払うべきものを払う」という意味合いが強いです。「利子税のリスクがあるから、事業承継税制は活用すべきではない!」と思う必要はないといえるでしょう。 

納税猶予が取り消しになる主な理由 

事業承継税制の納税猶予の適用が取り消しとなる主な理由には、以下が挙げられます。

1.毎年の報告・届出書の提出をしなかった場合
2.後継者が代表者ではなくなった場合
3.会社が資産管理会社に該当した場合(一定の要件を満たす会社を除く)
4.後継者が一族のなかで筆頭株主ではなくなった場合
5.一族の議決権が50%以下になった場合
6.納税猶予対象株式を一部でも譲渡した場合
7.一定の組織変更、解散した場合
8.雇用の平均8割維持要件を満たさなくなった場合(ただし、その理由について都道府県 に報告を行えば認定取消にはならない)

このなかでも、①は失念しないよう注意してください。
事業承継税の利用をスタートしたら、5年間は毎年、都道府県知事に年次報告書を、税務署に継続届出書を提出しなければなりません。

5年経過後には提出タイミングが「3年に1回」に減りますが、一度でも(少しでも)提出が遅れたら納税義務が発生します。「提出を失念してしまった」という事態は絶対に回避しなければなりません。この届出書は税理士が作成することが大半ですが、1年に1回、あるいは3年に1回の提出というのは、税理士も人間なので忘れてしまうリスクがあります。

現実的には、提出期限の前に税務署から便りが届くため、「届出書の提出を忘れたせいで事業承継税制の適用が取り消しになる認定取消になる」という可能性は低いものです。とはいえ、わずかでもある「失念リスク」を回避するためには、税理士に丸投げするのではなく、経営者(後継者)自身もスケジュールを把握しておくことが重要です。

まとめ

事業承継税制は、事業承継にかかる相続税・贈与税の支払いを猶予(または免除)できる、中小企業にとって大きな恩恵を受けられる制度です。しかし、適用取消になる事由はさまざまありますので、制度を利用する際には事前にチェックしておき、先代経営者・後継者で共有しておくことが大切です。

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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