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カリスマ経営者ほど我が子がバカに見える/中小企業の「第2創業」、親子の対立を超えるには~入山教授インタビュー#3【全4回】

中小企業、特に同族企業の事業承継を成功させることが日本経済の鍵となっている。では、どんな人物が家業を継げば、事業が大ブレークする「第2創業」を起こせるのか。家業から遠い経験をした承継者がイノベーションを起こす、とする入山章栄早稲田大学大学院教授に、その理由を聞いた。

正解なき、人間同士の泥臭いぶつかり合い

――事業承継がうまくいけば会社が変革し、第2創業を迎える例が多いことはよくわかりました。ではどのように事業承継すればいいのでしょうか。

入山 事業承継はこうすればいいよ、と言うのは難しいと思います。事業承継は、ものすごく泥臭い「人間と人間とのぶつかり合い」だからです。しかも、親と子のぶつかり合いが一番多い。僕がいくら経営学者で理論的に立派なこと言っても、うまくいくかどうか分かりません。

 親と子の間で株を渡す、事業を渡していくという大変なことを、お父さんやお母さんも覚悟決めてやらないといけないし、息子さんや娘さんも覚悟を決めなければいけない。そこに何らかの理屈があるわけでもないし、手続きが法律で決まっているわけでもない。それをどうやって乗り越えていくかが、最も重要なポイントです。

 ところが、こうすれば絶対成功するというパターンはありません。うまくいくパターンはいくつかあるにはありますが、経営には人間臭いところがあるので、ケースバイケースです。だからこそ事業承継者が悩んでいるのです。

――事業承継のいろんなケースをご覧になってきて、うまくいくパターン、ダメなパターンなどと類型化できませんか?

入山 僕の中では類型化して、一応理論付けをしています。ただそれでは説明できないような例もあり、本当のところはよく分からないのが実情です。「賢者の選択サクセッション」の番組で取り上げる西松屋さんは、びっくりするぐらい事業承継がうまくいっているのですが、なぜだが分かりません(笑)。親子が喧嘩するのが普通なのに、西松屋さんの場合はまったく衝突もなく、事業承継がスムーズに進んでいるからです。そこがなぜだかわからないのです。

親の方に問題、事業は自分そのものだから


――とはいえ入山先生は事業承継の要諦にはどんなものがあるとお考えですか。

入山 事業承継がうまくいかないのは親の方に問題があることが多いです。なぜかというと、会社の株を持っているのは親だからです。事業承継時に株を子供に譲れるか、譲れないかが、第一のハードルです。

上場企業であれば、創業者が株を譲らないまま経営が悪化していったとすれば、最終的には株主総会に諮って、例えば社長を首にするなど様々な手段があるわけです。しかし、ほとんどの日本の中小企業、ファミリービジネスは非上場です。そのため上場企業ほど法律に縛られていないので、株を譲らずに好き放題できるわけです。事業承継は、多くはお父さんが持っている株を子供に譲っていくプロセスなのですが、これをうまくするには死ぬほど胆力がいるのです。

――親が子に株を譲るのはそんなに大変ですか?自然にできるのではないでしょうか。

入山 実はできないのです。それはなぜか。例えば自分が比較的うまくいっている中小企業の経営者だと思ってください。30年、40年と経営し、先祖から引き継いだ事業を頑張ったと。ましてや創業者だったとしたら、その事業は自分の体の一部になっているのです。その事業を手放すということは、自分の体を半分取られるのと同じです。

僕は学者なので、その立場になったことはないですが、色んな会社を見ていると、多くの経営者は事業を譲らなければいけないことを頭で分かっていても、自分の体を半分もぎとられるようなものなので感情が許さないわけです。自己否定するような、一番大事なものを自分から切り離すようなことですから、簡単にはできません。これが事業承継は難しい1番目の理由です。

――上場企業でもNIDEC(旧・日本電産)のようになかなか後任社長が定まらない会社がありますね。

入山 2番目の理由は子供や部下などみんながバカに見えるからです。中小企業の経営者の場合は大体カリスマになりワンマンになっています。ワンマンになるとどうなるか。部下が全員バカに見えるのです。経営者は会社の事業に全人生を捧げていると思っている。ところが部下は所詮、サラリーマンです。そもそも背負っているものが違います。どう見ても部下は物足りないのです。

――部下の場合はわかるような気がしますが、子供に譲る場合でも同じですか。

入山 そこがポイントです。部下もそうですが、父親はどう見ても自分の子供はバカに見えるものです。だいたいは物足りなく思います。特にカリスマ経営者はそうなります。

最もまずいのは「老老承継」、親の潔さが必要

――会社を子供に譲るのはそんなに簡単ではないのですね。

入山 承継が難しいから70歳、80歳になるまで引っ張ってしまうことがあります。そうなるとお父さんは本当に体が弱ってボロボロになり、経営ができなくなる。そこでようやく子供に継がせようとしても、子供も60歳近くになっている。50代後半の子供への「老老継承」が最もまずい。日本では結構、老老継承が起きていて、なんとかしないといけません。

――ではどうすればいいのでしょうか。

入山 譲る覚悟がものすごく重要です。これは何の決まりも、ルールもないので、本人の胆力があるかないかが決め手です。本人がもう腹をくくって譲るしかない。うまくいく最高のパターンは、親が奇跡的にいい人で、腹をくくって、譲れるパターンです。ジャパネットHDや西松屋などは、お父さんがそういうパターンです。

 ジャパネットHDは、創業者のカリスマ経営者、髙田明さんが息子の旭人さんと「チャレンジデー」という新プロジェクトの実施について対立しました。幹部社員に採決を取ると、明さんが旭人さんに圧倒的な大差で負けました。その結果を見て「息子は成長したな。新しい商売のスタイルを息子に学んだ」と明さんはパッと社長をやめましたが、普通はできないことです。そんなお父さんは本当に大したものです。2回目の西松屋もすばらしい。とにかくお父さんが潔く引く。これが一番大事です。

――それができない場合はどうしますか?

入山 大変失礼な言い方で申し訳ないのですが、お父さんが亡くなるのが一番ですね。日本の平均寿命は世界一で経営者も長生きします。そうすると年老いても経営権を握ってしまいます。お父さんが早く亡くなって子供が継がざるを得ないというパターンが実は事業承継にとってはいいのかもしれません。

 これにはお父さんが急逝して、突然、継ぐというパターンだけではなく、いろんなパターンがあります。大阪に住宅設備会社のサンワカンパニーという会社があります。ここは現在の社長の山根太郎さんのお父さんが創業者です。その息子の太郎さんは会社を継ぐ気が全然なく、伊藤忠商事に入社しました。若い頃からバリバリ働き、世界中を駆け巡って仕事をしていたのです。

ところがお父さんが急に病に倒れ、もう余命いくばくもないという状況に陥りました。そこで継ぐ気がなかった太郎さんにお父さんは「継いでくれないか」と話され、太郎さんも継ごうと意を決したわけです。その後、お父さんが亡くなられて、スムーズに事業承継が進みました。このようなパターンが比較的うまくいくようです。

子が親を追い出す、権力を奪い取るパターンも

――お父さんが亡くならないと事業承継がうまくいかないとは少し残念な気がします。

入山 他のパターンとしては、ハードランディングバージョンがあります。子供が親を追い出すパターンです。星野リゾートはそれに近いパターンかもしれません。星野佳路さんは米国に留学後、一旦は星野温泉(現星野リゾート)に入社されますが、社内外で対立し、半年で退社されます。その後、渡米、銀行に就職しますが、呼び戻され、4代佳路社長になります。そしてこんどは改革に抵抗する親族に、時間はかかりましたが全員辞めてもらい、事業承継を果たされました。

――このパターンは引き継ぐ側に相当の覚悟が必要ですね。

入山 もうひとつのパターンがあります。でもこれが一番難しいかもしれません。ただ日本ではこのパターンが一番多いでしょう。お父さんがなかなか実権を譲ってくれない中で、なんとか我慢し、社内で踏ん張って実績を出していく。やがて、ゆっくりとお父さんや古参社員に退いてもらって、権力を奪っていくというパターンです。

 ソフトランディングですが一番大変です。なぜなら承継者にすごいソフトスキルが必要だからです。承継者に人間力があって、うまくいったのが愛知県のプラスチック成形の本多プラスという会社です。かつては文具メーカーの下請け仕事がほとんどでした。そんな本多プラスで第2創業を起こしたのが3代目社長の本多孝充さんです。本多さんはイギリスでMBAを取って1997年に入社しました。業績はジリ貧でお父さんは絶対的なパワフル社長でした。

 本多さんは先代社長と社員の功労を褒めながら、社内のキーマンに丁寧に根回ししました。下請け状態から脱却するための改革を実行してくれる「強い人脈」を社内に作っていったのです。本多さんは絶対に誰とも対立しないと決めていたそうです。いまでは取引先を化粧品や医薬品、食品分野に拡大して、業績が急成長しています。

 事業承継をうまく進めるにはまずは事業を受け渡す側、親の胆力が何より重要ですが、親との対立を乗り越えて事業を引き継ぐ側にもそれ相応の胆力が必要ですね。

※こちらの記事は追記・修正をし、2024年2月7日に再度公開しました。

(文・構成/安井孝之)

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#2|タニタにスノーピーク、東大阪の工場、北陸の伝統産業/同族企業の第2創業、成功者たちとは
#4|「会社を継ぐ子が取引先で修行」は絶対ダメ/企業の事業承継を成功させる人物とは

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早稲田大学ビジネススクール 教授  入山 章栄

早稲田大学大学院経営管理研究科早稲田大学ビジネススクール教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008 年 に米ピッツバーグ大学経営大学院より Ph.D.(博士号)を取得。 同年より米ニューヨーク 州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。 2013 年より早稲田大学大学院 早稲田 大学ビジネススクール准教授。 2019 年より教授。専門は経営学。

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