COLUMNコラム
相続トラブルを未然回避! 事業承継で活用できる「遺留分の特例」とは?
親族内での事業承継の場合、後継者一人に株式を集中して承継させると、死後に他の相続人から「遺留分侵害額請求」をされる恐れがあります。しかし、遺留分に関する民法の特例を活用することで、トラブルを防いでスムーズに事業承継できます。本記事では、遺留分に関する民法特例とは何か、その適用要件もあわせて解説します。
目次
そもそも「遺留分」とは?
遺留分とは、一定の相続人(配偶者、子、孫、親、祖父母など)に、被相続人(亡くなった人)の遺産から最低限保障された一定の割合の相続財産のこと。被相続人は、「自身の財産を誰に譲るのか」を遺言で自由に定めることができます。しかし、一定の相続人は生活保障のために一定の制約があります。これが遺留分の制度です。
絶対に知っておくべき「遺留分の割合」
遺留分を有する相続人が複数いる場合、以下の規定により財産を分割することになっています。
1.「配偶者」のみが相続人の場合……2分の1
2.「子ども」のみが相続人の場合……2分の1
3.「直系尊属(父母や祖父母)」のみが相続人の場合……3分の1
4.「兄弟姉妹」のみが相続人の場合……遺留分なし
5.「配偶者と子ども」が相続人の場合……配偶者が4分の1、子が4分の1
6.「配偶者と父母」が相続人の場合……配偶者が3分の1、父母が6分の1
7.「配偶者と兄弟姉妹」が相続人の場合……配偶者が2分の1、兄弟姉妹は遺留分なし
「遺留分」で特に気をつけるべきポイント
「遺留分」は、事業承継を考えている経営者・後継者なら必ず考慮しておくべきテーマです。事前の対策を怠ると、経営者の死後になって「こんなはずではなかった」「争続が起きてしまった」という結果になりかねません。具体的に「遺留分」によって、どんなトラブルに発展する可能性があるのかを見ていきましょう。
①「遺留分の侵害」
前述したように、一定の相続人は最低限受け取れる遺産の割合が決まっています。そのため法定相続人が複数いる場合、中小企業の経営者が生前贈与や遺言によって後継者に会社の資産を集中させようとしても、「遺留分を侵害された」という申告(遺留分侵害額請求)をされてしまったら、後継者は遺留分侵害額に相当する金額を他の相続人に支払わなければなりません。
遺留分侵害額請求とは、文字どおり「遺留分」を侵害された相続人が、侵害した人へ清算金を請求すること。遺留分侵害額請求できる人は、「配偶者」「子ども」「孫」「ひ孫」「親」「祖父母」「曾祖父母」など。兄弟姉妹や甥姪は対象外なので注意してください。
※2019年7月の法改正により、遺留分減殺請求は「遺留分侵害額請求」と呼ばれるようになりました。
なお、生前贈与は遺留分侵害請求の有効な対策になります。詳しくはこちらの記事で解説しているので、ぜひご一読ください。
(「相続税対策だけじゃない! 「生前贈与」で事業承継を行なう3つのメリット」)
②「遺留分の放棄」
法定相続人は、自身の遺留分を放棄することができます。これを「遺留分放棄制度」と呼びます。後継者からしてみれば、法廷相続人が遺留分を放棄してくれれば、会社の資金をまとまって引き継げるため、事業承継後の経営がしやすくなります。しかし、遺留分放棄は口約束では法律上無効であり、有効になるためには「家庭裁判所での承認」を得る必要があります。後々トラブルに発展しないためにも、遺留分放棄を行う際は事前に手続きを進めておきましょう。
事業承継で活用できる「遺留分の特例」
遺留分が円滑な事業承継を妨げることがないよう、中小企業経営承継円滑化法では「民法の遺留分に関する特例」が規定されています。この民法特例を活用することで、先代経営者の推定相続人全員の合意のうえ、後継者に贈与された自社株式・事業用資産の価額について、以下の法的手段をとることができます。
①「除外合意」
除外合意とは、生前贈与された自社株式の価額について、遺留分算定の基礎となる財産から除外できる制度です。この特例の適用は、先代経営者が存命中に経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることが条件となります。
②「固定合意」
固定合意は、遺留分を算定する際、生前贈与された株式価額を合意時の評価額であらかじめ固定できる制度です。 通常、遺留分の算定は「相続時の時価」で計算します。そのため、仮に後継者が先代経営者から3000万円の株式の贈与を受け、その後に経営努力によって相続時の株式価額が5000万円になった場合、5000万円を基準に遺留分を計算しなければなりません。こうなると、後継者としては頑張って業績を上げた分だけ相続財産がもらえないことになります。
こうした後継者の会社経営の意欲を低下させてしまわないよう民法特例で固定合意が認められています。除外合意と同じく、経済産業大臣の確認を受けた後継者が、遺留分権利者全員との合意内容について家庭裁判所の許可を受けることが条件です。なお、除外合意・固定合意ともに家庭裁判所の許可を得る必要があります。
まとめ
遺留分は法定相続人に認められた「最低限保障された一定の割合の相続財産」です。しかし事業承継においては、この遺留分がトラブルの引き金となるケースもあります。民法の特例や生前贈与などの理解を深めることで、遺留分侵害請求のリスクを避けられます。事業承継を考え始めた段階から、しっかり準備を行うことが重要です。
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