「本当に売れるのか」常識外れのデザイン、大阪から世界へ羽ばたいたフライパン 「お金を生み出す工場」に改装、職人モチベもアップ

大阪に工場を構える「藤田金属株式会社」(大阪府八尾市)が生み出したハイスペックなフライパン「フライパンジュウ」は、高いデザイン性と性能を両立し、従来の2~3倍の高価格帯にもかかわらず、国内外でヒットを飛ばした。同社の藤田盛一郎代表取締役社長(43)は「フライパンジュウ」だけでなく、「いつまでも冷たいタンブラー」や「1000通りを越えるカスタマイズ受注可能なフライパン」など、独創的な商品を生み出している。また、事業承継を機に社内改革にも着手し、新たな藤田金属の姿を模索している。伝統と革新を融合させる歩みと、今後の狙いを聞いた。
目次
はじめて出会えた信頼できるデザイナー
――「フライパンジュウ」の開発について教えてください。
これまでの藤田金属の製品は、基本的に既存のアイデアをベースにし、売り方を工夫するという形が主流でした。しかし、「フライパン物語」などを手がけていく中で、「デザイン性をもっと取り入れた商品を作りたい」という思いが生まれました。
特に、見た目の美しさと機能性を兼ね備えた商品にすることで、より広いターゲット層にアプローチできると考えたのです。
――デザイナーを起用したきっかけは?
実は、当初はデザイナーに対して少し不信感がありました。というのも、多くのデザイナーは「自分が作りたいものを作る」というスタンスで、商品が市場でどう受け入れられるかにまで責任を持たないことが多かったからです。
しかし、今回一緒に仕事をしたデザイナーは違いました。商品の販促活動にも積極的に関わってくれる方で、「この人なら信頼できる」と感じました。
細部までこだわり、開発に2年
――開発の期間は?
開発には2年ほどかかりました。特に取っ手部分の機能や安全性、デザインに時間がかかり、そこだけで1年半も費やしました。父とも何度も相談しながら、機能性と美しさを両立させるため、細部にまでこだわりました。
こだわった点としては、お皿のようなデザインと、スライド式で簡単に着脱できるスライド式ハンドルの採用です。
性能面では、鉄製で保温性・蓄熱性が高いので食材に熱を伝えるスピードが早く、「外はカリカリ、中はふわふわジューシー」を実現し、旨みを閉じ込めます。また、ガス、IH、オーブン、グリル、直火、あらゆる熱源で使用できます。
――価格設定についてはどうでしたか?
従来のフライパンの2〜3倍の価格を設定しました。ただ、デザイン会社からは「もっと高く設定したほうがいい」とも言われました。
とはいえ、私たちは量販店向けの製品を長く手がけてきたため、高価格帯の商品を販売することに慣れていませんでした。父も「本当に売れるのか」と不安を抱いていましたが、結果的には市場に受け入れられました。
常識はずれのデザインが起こした、海を越えた反響

――実際の売れ行きは?
PRタイムスでプレスリリースを出したところ、大きな反響があり、発売直後から売り切れ状態になりました。また、メディアにも取り上げられ、海外からも問い合わせが来るようになりました。
「フライパンジュウ」は、鉄製フライパンの常識を覆すスタイリッシュなデザインが特徴で、同じようなコンセプトの商品は市場になかったことも成功要因の一つです。
限りなく、お皿の佇まいを追求し、食卓に置いても馴染んで雰囲気を壊さないようにしています。サイズ展開も「お皿」に近くしました。
――海外市場にも進出されているのですね。
はい。海外の展示会にも積極的に出展しています。特に海外では、商品を手に取った際の見た目のインパクトが重要視されます。スタイリッシュなデザインは、現地のバイヤーからも高く評価されました。
さらに、この商品の効果で、通常の鉄フライパンの売上も伸びました。アッパーな価格帯の商品を手に取らない層が、通常のフライパンを購入するという広告的な効果も得られました。
事業承継と「お金を生む」事務所の改装
――事業承継のタイミングについて教えてください。
会社の70周年と父の70歳、私の40歳という節目が重なったタイミングで、事業を正式に引き継ぎました。その時点で、会社は無借金経営を達成しており、非常に良い状態でのスタートが切れたと思います。
――承継後、まず取り組んだことは?
社内改革に着手しました。手始めに事務所の改装を行いましたが、単なるリニューアルではなく、「お金を生む改装」を意識しました。
ショールームとしての機能だけではなく、実際に商品が購入できるショップとしてリニューアルし、来訪者に商品の背景を伝える場を設けました。工場を見下ろせるように設計し、製品がどのように作られているのかをお客様に直接見てもらえるようにもしました。
――その結果、どのような変化がありましたか?
現場の職人たちの意識が変わりました。お客様が目の前で商品を購入してくれる姿を見て、「もっと良いものを作ろう」というモチベーションが高まったのです。また品質の向上にもつながり、狙い通りの効果を得ることができました。
一方、若い方にも認知してもらったため、求人を出すと20~30代の応募が増え、会社の平均年齢は38歳になりました。2024年7月には東京にもショールーム兼ショップをオープンし、良い宣伝の場になっています。
会社をあえて大きくしない理由
――今後の会社の方針は?
今まで、特定の販売店に商品を置いてもらうことを重視していました。しかし、それは間違いだったと気づきました。販売店は商品を仕入れますが、最終的に購入するのは消費者です。今後は消費者に直接アプローチできる商品開発を進めていきます。
――会社を大きくするという目標はないのでしょうか?
私は「大きくしない」という方針を取っています。一番大切なのは、今いるスタッフを守ることです。会社が大きくなれば、それだけリスクも増えます。むしろ、少人数でも知名度のある企業を目指したいです。SNSの普及により、お客様との直接的な接点が増えてきたことも大きなポイントです。
――最後に、今後の展望についてお聞かせください。
今後は、2025年に開催される大阪・関西万博への出店を目指しています。これをきっかけに、さらに多くの人々に藤田金属の製品を知っていただき、次世代へとつなげていきたいと思います。
プロフィール
藤田金属株式会社 代表取締役社長 藤田 盛一郎氏
1981年、大阪府生まれ。大学卒業後、2003年に現在勤める藤田金属株式会社に入社、2020年に代表取締役社長。「ひえーるタンブラー」「フライパン物語」を開発し自社商品をヒットさせる。「フライパンジュウ」は海外からも注目され、東京のショップも人気。現在もキッチン用品をはじめ、アウトドア用品、園芸用品、インテリア雑貨などを手掛ける。藤田金属株式会社の年間売上高は約4億2500万円、従業員数19人。
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