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「青二才の戯言はダメ」「諭吉、諭吉とうなされて…」/実は最強? 2代目経営者〜2代目お坊ちゃん社長の会【後編】

2020年、全国の「2代目社長」が集うコミュニティ「2代目お坊ちゃん社長の会」が発足した。ちょっと自虐的な名前の会だが、会員同士のコラボビジネスを成功させるなど、成果を上げている。自身も2代目社長で、会の代表理事を務める自動車修理会社「京南オートサービス株式会社」の田澤孝雄代表取締役に、2代目に重要な哲学を聞いた。

青二才の戯言にしか聞こえない

――「2代目ビジョン経営」を支える価値観として「継・守・破・離」を掲げています。「継」は、承継者の覚悟を持つという意味ですか。

田澤 むしろ「よく考えずに継ぐ」。これが大切です。大企業に務めながら家業の相談に乗るコンサルタイプは、結局”外の人間”のままです。安全地帯から「オペレーションが悪いから修正しろ」などと強制しても、先代をはじめ、内部の人間からは青二才の戯言にしか聞こえません。

だったらいっそ、怖くても目をつぶって飛び込んでみる。マキャベリも「君主は統治するところの住人にならなければだめだ」と提唱していますよね。評論家と討論しても新しいモノは生まれません。会員には「家業をよく理解できていなくてもいい。とにかくまずは当事者たれ。そうでなければ成長できない」と呼びかけています。

「諭吉、諭吉…」とうなされて

――「守」とは?

田澤 家業の「型」を知ることです。30年、50年と続いている企業には、必ず何か強みがある。それをしっかりトレースしてくださいと。2代目には、このステップがもっとも難しい。先代に反発し、ゼロからまったく違う事業をやりがたり、「型無し」になってしまうケースが非常に多いです。

――田澤代表理事ご自身もそうだったのでしょうか。

田澤 「守を見失うな」は自分への戒めでもあります。家業に入って7年目、M&Aで会社のグループ化に着手しましたが、傘下の自動車修理工場の資金繰りに追い詰められました。毎月数百万円が飛んで、頭の中は金策でいっぱい。月末が近づくと、諭吉、諭吉……と、うなされる始末に。分からないことだらけでした。

当然ですよね、弁理士という全くの異業種からきて、家業をよく知ろうともせず手を広げたのですから。

ようやく「力を貸して」と社員に言えた

――立ち直りのきっかけは何でしたか。

田澤 社員に「力を貸してほしい」と言えたことです。初めは、大手企業から転職したため、現場にパソコンすらない家業の環境を「遅れている」と上から見下ろす面がありました。

しかも、社長は「全部知ってるよ」と悠然と構えていなければと気負っていた。でも、知ってるわけないですよね。コーチングを学び始め、「社長だからといって、万能でなくてもいい。分からないことは素直に分からないと伝えよう」と肩の力を抜くことができました。

――社員の反応も変わりましたか。

田澤 「社長、こうしたらいいですよ」と活発にアイディアをもらえるようになりました。すると決断も簡単になる。「答えは現場が持っているんだ」と気づかされ、急激に業績が回復していきました。

「2代目お坊ちゃん」の連携でビジネス成功

――「破」は、ビジョン経営の実践とされていますが、自身はどう取り組まれたのですか。

田澤 父が創業から70年以上培ってきた「不動産事業」がヒントになりました。売上が大きく跳ねるわけではないですが、コロナ禍など時勢に左右されず、安定した収益を確保できる。私は、派手にグループ化を推し進めようとして失敗したので、家業を支えてきた「堅実」なストックビジネスに立ち戻りました。

その視点から、月々1980円から洗車し放題のサブスク「洗い放題.com」が生まれました。2016年、スマホからのWEB申し込みを導入し、一気に利用者数が伸びました。2022年にはFC店舗の1号店もオープンし、現在は都内・埼玉に3店舗を展開中です。

「洗車は天候に左右される水商売」と言われますが、安定したビジネスを確立でき、大きな自信になりました。父の手法を学んだ成果です。

実は「洗い放題.com」のFC店舗は、「2代目お坊ちゃん社長の会」の会員が手を挙げてくれたことで実現しました。普段から素の付き合いをしているからこそ、連携力も高い。創立から3年、ほかにも会員同士のコラボレーションや新規事業への挑戦が芽吹きつつあり非常に楽しみですね。

「2代目こそ最強」 証明してみせる

――「離」は2代目の精神的・経済的自立ですが、自身のプロセスそのものですね。

田澤 会を運営しながら、「継・守・破・離」が2代目ビジョン経営でいかに重要かを再確認しています。父への反発や莫大な借金を経なければ、この価値観は生まれませんでした。

全国の後継者にも、必ず光は出ますと伝えたい。一時的に逃げてもいいから、どうか袂を分かたず、腐らずにやり続けてほしい。絶対に解決策は現れます。

――会のHPに「”2代目こそ最強”と証明したい」と掲げています。後継社長ならではの強み、やりがいは何でしょうか。


田澤 2代目には先代が築いた土台があります。銀行に門前払いされないどころか、支店長が挨拶にきてくれる。それがどれほど大きなアドバンテージか。だからこそ2代目は最強で然るべきですし、世間にも認めてほしい。

現在、日本企業の98%が中小規模で、その半分が後継企業として地域に長く貢献しています。古臭い商売と見なされ、なかなか日は当たりませんが、潰れずに盤石であり続けている点は評価されるべきです。

会員を全国から募るのは、「その地域で頑張ってほしい」という思いからです。老舗企業は、地域住民の貴重なインフラです。だからこそ、地元は企業の努力や成果をしっかりと見てくれる。企業を育ててくれた地域に恩返しし、問題を解決できれば、それに勝る企業価値はありません。

だからこそ先代の恩恵を素直に受け取り、ゴールまでの道のりを大いにショートカットしてほしい。「継ぐ」と決意してくれた私の息子にも、父と私が築いた土台の上で、さらなる高みを目指してほしい。とはいえ、まずは創業100周年を迎えるまでの残り30年、私がトップを走り続けるつもりです(笑)。

的に逃げてもいいから、どうか袂を分かたず、腐らずにやり続けてほしい。絶対に解決策は現れます。

(文・構成/埴岡ゆり)

【この記事の前篇】「おぼっちゃんと呼ばれるのは屈辱」2代目社長の苦悩 弱さをさらけ出し、成功コラボへ〜2代目お坊ちゃん社長の会

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一般社団法人 2代目お坊ちゃん社長の会 代表理事 田澤 孝雄

1975年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中より弁理士に興味を抱き、アルプスアルパインに入社後2年目で弁理士登録を果たす。30歳目前にして家業に入社し、ガソリンスタンド業界を発展させつつ、損保指定工場の板金事業に魅せられ京南オートサービスとして運営交代。介護事業を10年以上運営する等、経営は多岐にわたる。

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