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「おぼっちゃんと呼ばれるのは屈辱」2代目社長の苦悩 弱さをさらけ出し、成功コラボへ〜2代目お坊ちゃん社長の会【前編】

創業者のカリスマに隠れ、周りは「社長の息子」としか見てくれない-。2020年、全国の「2代目社長」が集うコミュニティ「2代目お坊ちゃん社長の会」が立ち上がった。会を創設し、代表理事として率いるのは、自動車修理会社「京南オートサービス株式会社」(東京都多摩市)の田澤孝雄代表取締役だ。ちょっと自虐的な名前の会だが、ビジネスでは会員同士のコラボを成功させ、成果を上げている。自身も2代目社長の田澤氏に、2代目ならではの悩みや創設の背景を聞いた。

周りは「社長の息子」としか見てくれない

――自身も「2代目お坊ちゃん社長」で、お父様は不動産業を営んでおられる。

田澤 私は、父の意向で早稲田大1年時に宅建を取得しました。しかし、父への反発心が高まり、弁理士になると決意し、大手電機メーカー「アルプスアルパイン」(東京都)に入社しました。25歳で弁理士登録し、知財業務のほかVC投資や社内ベンチャー企業の立ち上げや運営などに携わりました。

――30歳を目前に家業へ入りますが、先代への反発心に変化があったのでしょうか?

田澤 私は次男ですが、兄に承継の意思がないと分かりました。ちょうど子どもを授かったタイミングで、これまで敬遠していた「父という存在」を見つめ、学ぶべきではないかという思いが生まれたのです。自問自答の末、家業を継ぐ覚悟を決め、アルプスアルパインに辞表を出しました。

でも、反発心はそう簡単には消えません(笑)。父というより、自分を「父の息子」としか見てくれない周囲への苛立ちが強いのかもしれません。幼い頃から「お坊ちゃん」と呼ばれることに非常に抵抗感がありましたから。

――それなのに、「2代目お坊ちゃん社長の会」と名付けた理由は。

田澤 いっそ自分で名乗って、ネタにして笑い飛ばそうと。後継者の鍵は「嫌なものほど取り入れる」なんです。

「先代への反発心」は2代目共通

――「2代目お坊ちゃん社長の会」の皆さんも、同じように先代への反発心を抱えていますか。

田澤 少なからずそう感じますね。2代目の共通の悩みは「権限があるようでない」。でも責任だけはある。事業を変えようと提案しても、先代から否定され、手の打ちようがない。その決断の責任が自分に回ってくるのは、10年後なのか、30年後なのか、明日なのか見えない。

私自身、承継後しばらくは暗闇にポツンと置かれ、見えないゴールを目指してさまよっているようでした。この不安を分かち合い、互いに解決策を見出す会を作りたい。それが2020年に「2代目お坊ちゃん社長の会」を設立した動機です。

当時、拙著『ビジョン経営革命を起こした2代目お坊ちゃん社長の77の逆襲レター』を執筆中で、担当編集者から「これは2代目の応援本だ」と言われたことも大きかったです。‟後継者支援”は、自分が取り組むべきテーマだとスッと腑に落ちました。

「自分を大きく見せる社長」は入会お断り

――設立以前は、後継社長が集まる会はなかったのでしょうか?

田澤 所属する業界団体などで顔を合わせますが、「何店舗も展開している」「外車を買った」など、経営者としての”強さ”を誇示する場でした。

私が求めていたのは、悩みなどの”弱さ”を本音で開示できる場です。現在、約40人の会員がいますが、入会時は全員、私が面談しています。その際にお願いすることはただ一つ、「自分をオープンにしましょう」と必ずお伝えしています。

――入会をお断りするケースもあるのでしょうか?

田澤 面談で自分を大きく見せたり、隠してしまったりする方は難しいですね。素をさらけ出せるかどうか。根底の考えを共有できないと組織はすぐに壊れてしまいますし、無理して入会しても本人のためになりません。

悩みを吐露するのは非常に勇気がいることです。我々2代目は、先代からの支配と同時に、庇護も受けている。親にとっては、絶対退社しないという意味で、永久保証付きのサラリーマンですから。

こうした特殊な状況を後継者以外に打ち明けても「自慢話ですか?」で終わってしまう。そうして心を閉ざしてしまった方こそ、この会で大いにフラストレーションを発散してほしいです。

自分を開けっ広げにしないと間が持たない

――毎月「定例会」を開催していますが、どんなプログラムですか。

田澤 全国に会員がいるので、基本はオンラインで開催しています。2部構成で、前半は「自分をさらけ出す会」。通称「壁打ち」です。会員1人が登壇し、経営ビジョンを中心に1時間ひたすら話してもらう。

――1人で、1時間ずっと?

田澤 最初は大変ですよ(笑)。しかし、皆さん積極的に充実した資料を作って臨んでくれます。本当に自分の素を開けっ広げにしないと間が持ちません。理事やベテラン会員のサポートも入れつつ、安心して話せる環境を整えています。

会員は、私と同世代の40代後半がメインですが、最近は30代前半の若手社長も加わりました。前を歩く先輩が事業承継の困難をどう解決してきたか、辛さを分かち合い、未来へのヒントにしてほしいです。


――自身も迷い込んだ「暗闇」に光を与える試みですね。

田澤 独りで飲んで「どうすりゃいいんだ」と管を巻くより、よっぽど建設的でしょう。定例会の後半1時間は、専門家の講演会です。テーマは、インボイスなど、時勢に添った新たな情報を取り入れています。

オンラインで2時間の定例会ですが、飽きる暇もないほどの密度だと思います。「こんにちは」で始まって、次の瞬間には「あれっ、もう終わったの?」と驚くくらいのスピード感を意識しています。

※こちらの記事は追記・修正をし、2024年3月14日に再度公開しました。

(文・構成/埴岡ゆり)

【この記事の後篇】「青二才の戯言はダメ」「諭吉、諭吉とうなされて…」 実は最強? 2代目経営者 2代目お坊ちゃん社長の会

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一般社団法人 2代目お坊ちゃん社長の会 代表理事 田澤 孝雄

1975年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部在学中より弁理士に興味を抱き、アルプスアルパインに入社後2年目で弁理士登録を果たす。30歳目前にして家業に入社し、ガソリンスタンド業界を発展させつつ、損保指定工場の板金事業に魅せられ京南オートサービスとして運営交代。介護事業を10年以上運営する等、経営は多岐にわたる。

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