「社長、こんなに高いのは無理ですよ…」600~700円の高級生ふりかけにチャレンジ 「上司にごますりするな」と呼びかける3代目社長の哲学

神戸市を拠点に、生ふりかけを中心とした水産加工品を製造販売している澤田食品株式会社。2014年の「ふりかけグランプリ」優勝を機に、高級生ふりかけメーカーとして全国的に注目されるようになった。祖父が創業した会社が一度は窮地に追い込まれたが、新会社として見事に再生させた3代目代表取締役社長である澤田大地氏に、経営哲学や事業への思いを聞いた。
目次
澤田食品として初めて経営理念を打ち立てる
ーー旧澤田食品の事業を譲渡する形で、新たに設立した澤田食品の社長となりましたが、新会社の運営方針はどのようなものでしたか?
うちはもともと経営理念のない会社だったんです。勉強のために外部のセミナーを聞くと、よい会社はみんな、会社の運営の核となる経営理念を持っている。そこで2017年に新会社の社長になった時、「心身共豊」という言葉を選びました。
「心と体が共に豊か」という意味ですが、これは外向けというよりも内部向けに作った経営理念です。従業員が健康かつ待遇面が豊かであれば、満足度は上がります。従業員の満足度の高い会社は、取引先やお客様にも絶対にいい影響がある、というのが私の考え方です。
旧会社が大変な時期には、給与も満足な額とはいえず、ボーナスも全然出せていませんでした。それでも新会社で私が社長になったとき、全員が辞めずについてきてくれて、頑張って一緒にやっていくと言ってくれました。そのときから、私は従業員がやっぱり一番大切だとずっと思っています。
ーー旧会社のときと比べて、従業員に変化はありましたか?
社長就任後、「上司の顔色を伺ったりゴマをすったりしないでいい。会社にいかに貢献してくれたかが重要で、貢献してくれた人にはしっかり待遇をつけていく」と言い続けています。
働く意味とは、究極のところ、自分と家族のためじゃないかと思います。私自身、仕事は自分のためにやっていると思っているし、社員にも「自分のために仕事をしろ」と伝えています。
「うちの会社なら、努力をすればよいポジションをたくさん与えられるし、会社も今伸びているから、しっかり売上を作り、自分の待遇を上げればいい」と。「会社のために」なんて体裁のいいことを言う必要はなく、みんな自分のために仕事をやればいいんです。
2017年に新会社を作ってから、売上はずっと12~14億ぐらいを上下し、経常利益でも数千万はしっかり確保していましたが、2020年に「心身共豊」という経営理念を作ってからの方が伸びました。
「生ふりかけ業界1位」を目指した高級路線戦略の思惑

ーー新会社になってから、新たな商品開発はしたのですか?
加工会社なので、新商品の開発を続けることは永遠のテーマです。商品企画会議は、2週間に一度、絶対に全員で集まってやるようにしています。
もともと弊社の「生ふりかけ」は、大手のふりかけメーカーに比べると、やはり圧倒的に値段が高いのです。実際、私も営業時代は値段が高いから売り込みにくかったし、扱ってくれるスーパーも少なかったです。
2014年に「ふりかけグランプリ」を取って以降、メディアの露出が多くなり、SNS発信も始めました。すると、それまで一般のスーパーだけが取引先だったのが、成城石井さんや北野エースさんなどの高級スーパーに販路が大きく広がっていきました。観光客が来るようなお土産屋さんにも販路ができてきました。
そうなると、「もう1段階上の価格帯の商品があってもいいんじゃないか」と考えました。1日に生産できる個数が同じなら、単純に高価格で利益幅が高いものを作ったほうがいいのは当然です。
タイミング的にもちょうどいいと思い、「サワダPREMIUM」というシリーズをやってみることにしました。そして2年をかけて作ったのが、「ゴロっと北海ホタテの焦がし醬油ふりかけ」です。小売価格は600~700円と強気の設定にしました。
当初、営業マンは「社長、こんなに高いのは無理ですよ」と、否定的な意見が多かったのですが、「まあ、1回出してみよう」ということで出したら、これがスマッシュヒット。それで第2弾、第3弾と、どんどん作っていきました。
旧会社からの商品「いか昆布」がいまだに売れ筋商品ではありますが、旧会社の力を借りない私たちだけの新商品をこれだけヒットさせたことで、すごく自信がついたし、社員も相当喜びましたよ。まあ、一番喜んだのは私ですが。
ーー高級路線に舵を切った狙いについて教えてください。
ふりかけ業界のマーケットは450億~500億くらいですが、そのうち、乾燥度合い(水分率)が低い生タイプのふりかけは、70億~100億ぐらいです。大手メーカーのようなさらさらのドライのふりかけに挑むつもりはなく、私が仮にあと20年頑張ったとしても、大手には到底勝てないと思っています。
だから「生ふりかけというニッチな70億ぐらいのマーケットの中で頂上を獲りにいこう」と社員には言っています。生ふりかけの業界で、年商の規模では現在3、4番手ぐらいかもしれませんが、知名度はたぶん一番だと思っています。ニッチなところでも、1位を取ればやっぱり強い。
そこに行くために生ふりかけに特化して、攻めの姿勢で、プレミアムな商品を作ったという感じですね。
家族が同じ志を持てばパワーは倍増する
ーーお父様からの事業承継を経験して、振り返って思うことは?
家族から承継するとき、親子同士でぶつかり合うケースは結構多いようですね。新しく継ぐ者はやっぱり新しいことをしたいでしょう。自分の色も出したいし、自分という人間を社員にも知ってもらいたいからこそ、頑張って新しいことをしようとしますよね。
でも、それを親族にいかに認めてもらうかが肝だと思います。私はそこで時間を取ったほうです。
自分から「専務にさせてくれ」「こういうことをやらせてくれ」と父親と対話を重ねました。やっぱり、人に納得してもらうことが非常に重要だと思います。父親だけではなく、従業員に対しても、私はしっかり時間をかけて話します。
家族が同じ志だったら2倍、3倍のパワーになります。私は、理想をいえば、家族仲よく同じ方向を向いて、他の従業員たちも同じ方向を向いてもらうのがベストだと思います。そこに持っていくためにしっかり話し合うことが大事なのではないでしょうか。
ーー社長として、これからの澤田食品をどのように引っ張っていく予定ですか?
現時点で、従業員は100人近くいるので、私は今、実務がない状態です。だから従業員と喋ってしっかりコミュニケーションを取るのが私の仕事。やる気を出させて、結果を出した人にはしっかり応えてあげる。これに尽きます。
言い方は悪いですが、私も社員を使うし、社員も私のことをうまく使って、私から給与としてお金を引き出せばいい。そういう気持ちでいれば、会社は自然とちゃんと回ると思います。
プロフィール
澤田食品株式会社 代表取締役社長 澤田大地氏
1984年、兵庫県生まれ。大学を中退しベトナム・ホーチミンに語学留学、同時に現地水産会社で仕事を学ぶ。2005年に帰国し父が社長を務める澤田食品株式会社に入社。専務を経て2017年に代表取締役社長。2014年にロングセラー商品「生ふりかけ いか昆布」が全国ふりかけグランプリ金賞を受賞。その後も「ゴロっと北海ホタテの焦がし醬油ふりかけ」など高級路線の生ふりかけを続々と発売し、各種メディアで取り上げられ人気となる。
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