経営戦略Strategy

経営戦略

広島・福山で400年続く和菓子屋「地方には地方のビジネスや承継がある」 非効率であっても紡ぐ「文化」とは

広島県福山市で創業400年の歴史をもつ和菓子店「虎屋本舗」は、270年以上続く虎模様のどら焼き「虎焼」や、たこ焼きやコロッケそっくりの「そっくりスイーツ」で知られる。2021年に17代当主となった高田海道氏(37)は、地方都市の企業を承継していくことは、都会のあり方とは異なる視点が必要だと感じている。地域とともに歩む老舗を継ぐことの意味を聞いた。

「非効率」な和菓子の意味とは

虎焼※写真提供:株式会社虎屋本舗

−−−−2021年に社長に就任し、まず取り組んだ会社の変革は何でしょうか?

従業員の働き方を見直し、残業時間や有休消化率を改善しました。また、職人それぞれに頼っていた菓子作りの基本部分をマニュアル化しました。こうしたことを実現するため、赤字経営を黒字にしなければならないので、直営店ばかりに頼っていた販売は、百貨店カタログなどの外販にも力を入れるようになりました。

さらに、新しい店の形態として、神辺店をオープンキッチン併設の店舗にしました。ワークショップなど開いてインスタグラムに載せているので、地元の方々が頻繁に使ってくれるようになりました。地域コミュニティの巻き込みを図った店舗を、今後展開していくつもりです。

−−−−逆に、変えずに守り続けていることは?

中秋の名月の十五夜団子のように、短期間しか売らない菓子があります。私は3年間ほどビジネススクールで勉強したこともあり、非効率だからやめようと父に提案しました。父は「非効率かもしれないが、菓子屋に季節感がなかったらつまらない店になる。やめてはいけないものだ」と叱られました。確かに言う通りだなと思いました。

また、熨斗紙は今も手書きです。私が入社した時、時代遅れだと感じたことの一つでしたが、やはり手書きがいいですね。すべて現代風に変えるのが必ずしも良いことではないと、だんだん分かってきました。

「ベテランのおばあちゃん」がいる理由

−−−−「せとうち和菓子キャラバン」という取り組みについて教えてください。

10年ほど前から、学校や町内会などに出張して和菓子づくり教室を開いています。家族や学校では、節句や中秋の名月などで伝統文化をつむぐ機会は減っていますが、それをフォローするつもりでやっています。

教室は、離島でも山の上でもどこでも行きます。瀬戸内の過疎化が進む島で教室をしたり、島特産の食材を利用したお菓子を商品化したりする試みが「せとうち和菓子キャラバン」です。和菓子を通じた持続可能な社会へのアプローチです。

またJICA(国際協力機構)などからの依頼で、外国人向けのWEB教室も開催しています。和菓子とセットで、平和や文化について学び合ういい機会になります。

−−−−従業員の年齢層が高いことも、虎屋さんならではのSDGsといえますね。

うちは定年が75歳なので、従業員の年齢層は高いです。だいたい60代が4割、70代が1〜2割ですね。地方の労働人口の縮小は全国的な共通課題ですが、じゃあ若い人を入れる、という簡単な話でもない。地方のシルバー人材は結構元気な人が多く、働く場所を提供するとすごく頑張っていただけるんです。

何より、店や現場に「ベテランのおばあちゃん」がいるだけで、親しみやすさや安心感が生まれます。お客さんにちょっとおまけを渡したり、常連のお客さんとお茶を飲みながら話したり。都会と違って地域に根差したお菓子屋さんですし、地域とのつながりを担っているのは、人生経験豊富でコミュニケーションの上手な高齢者の方々です。

菓子を商うのではなく、文化を商う

そっくりスイーツのタコシュー※写真提供:株式会社虎屋本舗

−−−−今後の会社のビジョンをお聞かせください。

プッシュ型の営業はもうやめています。そこに人を割くより、良い商品をつくることに力を入れています。父の代からやっている「たこ焼き」や「手まり寿司」に見える「そっくりスイーツ」などユニークな商品の開発も、職人さんは積極的に提案してくれています。

虎屋本舗の商訓に「他の商売には決して手を出すな」とあるため、業種をまたぐような新しい取り組みは考えていません。ただ、先ほどご紹介した神辺店のように、9つある店舗を順番に改装しています。

今年リニューアルした駅ナカの店舗は、畳を敷いたスペースで小規模なお茶会ができるようにしました。他に、お城の近くにある文化施設を借り、着物で国産ワインと和菓子を楽しむイベントを開くなど、店舗や商品に加え、和菓子に親しんでもらえる場を作っていきたいと思います。

ただ和菓子を作って商うのではなく、「文化を商いとする」というのが、会社の方針です。

都会と地方は、商売や事業承継が異なる

−−−−最後に、高田代表は事業承継の在り方をどのように考えていますか?

地方の事業承継と都市圏の事業承継はちょっと意味合いが異なり、同じ目線では語れない気がします。都市圏では、スピード感やマーケットに対する考え方が地方と全然違う。

地域コミュニティや地元の特産品を大事にして、地域とともに歩むスタイルは、広島の瀬戸内におけるベストの形と考えています。

地方では、私と同世代の事業承継者に、わりと優等生タイプが多いです。基本的に先代の教えを守り、従業員と地域のお客さんを守っていく。ただ、自分なりに文化を新しくしたい気持ちはあるので、お客さんや世間がまだ言語化できてないニーズを汲んで、何かを創造して、初めて自分が継いだ意味があると思っています。

事業承継は、先代や社内との関係性だけで語られるものではなく、地元や地域コミュニティなど、もう少しマクロな視点で追求していくことかもしれません。

この記事の前編はこちら

高田海道氏プロフィール

高田海道(たかだ・かいどう)氏

1987年、広島県生まれ。早稲田大学政治経済学部を2009年に卒業後、不動産会社勤務などを経て、2013年に現在勤める株式会社虎屋本舗に入社。2021年5月18日、東京オリンピックの聖火ランナーを務めた日に十七代目当主に就任。「虎焼」をはじめとする伝統の和菓子を伝えるとともに、斬新な発想の新作菓子も数々世に送り出している。和菓子教室や、オープンキッチンを備えた新しい形の店舗など、地域コミュニティを意識した事業を展開。第2回ジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞」受賞。

FacebookTwitterLine

\ この記事をシェアしよう /

この記事を読んだ方は
こちらの記事も読んでいます

経営戦略

障がいを持つ娘のため、3年間は主夫だったCCCの新社長 カリスマ創業者から後継指名され、「無報酬」を求めた覚悟

経営戦略

「お金はあるのに、家具コーディネートがイケてない…」配送の仕事で気付いた業界の未来 「継ぐ気無し」の3代目が家具企業を成長させた

経営戦略

「なぜ情報を出してるんだ、馬鹿者~!」父に殴られ、3度は眼鏡を壊した 「眼鏡のまち」でV字回復の地元企業、IT出身の息子のネット情報戦略

記事一覧に戻る

賢者の選択サクセッション 事業創継

賢者の選択サクセッションは、ビジネスを創り継ぐ「事業」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。

フォローして
最新記事をチェック