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創業400年の「ブラック企業」若き17代当主が挑んだ職場とビジネスの改革 江戸時代から伝わる「どら焼き」を守りながら

瀬戸内海に面した広島県福山市で創業400年の歴史を誇る老舗和菓子店「虎屋本舗」。270年以上続く虎模様のどら焼き「虎焼」や、たこ焼きやコロッケそっくりの「そっくりスイーツ」で知られる。17代当主・高田海道氏(37)は、和菓子とは無縁の業界から2013年に実家を継ぐために戻ったが、彼を待っていたのは、アナログでブラックな地方企業の実態だった。伝統を守りつつ、時代に即したビジネスにどう転換していったのか、高田氏に聞いた。

新聞記事で知った、父の本当の気持ち

――虎屋本舗に入社する前のご経歴についてお聞かせください。

私が小さい頃から先代の父は、承継について具体的な話をすることはありませんでした。菓子屋を承継する場合、一般的には製菓学校に行き、どこかの和菓子屋で経験を積むという流れが多いです。

ただ、父は「もうそんな時代ではない」という柔軟な考え方だったようで、就職も「好きなように選び、自分で責任を持ってやってみろ」というスタンスでした。

そこで、私は東京の大学に進学し、2009年に東京で興味のあった不動産業に就職しました。3年半ほど働いた後、思い切って別の業界に転職するなど、自由にキャリアを重ねていました。

2010~11年ごろ、当時の上司に「君のお父さんが新聞に載っているよ」と言われました。記事では父が「2020年に創業400年を迎えるので、その頃に息子に継がせたい」と言っていました。そこで初めて父の思いを知って、それならばと、家に戻ることを決めました。

時代遅れのブラック企業

――虎屋本舗の入社後は、どのような仕事をしましたか?

製菓学校や他店での修業経験がないので、和菓子の心臓であるあんこ炊きから始めました。1年半くらいは、小豆を洗って寝かせて炊いて、を繰り返す日々でした。

小さい頃から見てはいましたが、この作業に携わる人たちのおかげで、自分も生活できてていたのか、と改めて感じると同時に、素材一つひとつにこだわりを持つプロフェッショナル精神を学びました。

ただ、自分は職人に向いているとは思えなかったので、その後は営業や会社の雑務を手伝い、ビジネススクールにも通いました。

――入社時に感じた課題はありましたか。

私が入った頃は、典型的な地方の中小企業らしく、かなり時代遅れな点が多くありました。例えば働き方では、年間休日が少なく、繁忙期のクリスマス前は深夜まで全員でイチゴを切るとか、取れる時に限界まで注文を取るとか、まさにブラック企業でした。

また、職人の仕事は基本的に「真似して覚える」で、マニュアルがありませんでした。そもそも、会社としては赤字経営で、借金もありました。

根底は守りつつ、時代に合わせたビジネスモデルへ

――17代目として承継された後、会社はどのように変わりましたか?

まず、朝早くから働いて繁忙期は深夜までというブラックな働き方を見直し、残業時間や有休消化率を改善しました。

さらに、菓子作りも基本的なマニュアルを作り、パート従業員でも慣れれば作れるようにしました。ただ、やはりあんこの炊き具合を糖度計で測っても、最後の冷まし水のかけ方のタイミングなど、微妙な具合で味や質が変わります。だから、最終的には感覚的な部分がものを言います。

販売面は、従来は直営店に頼っていましたが、新型コロナウイルス流行によって贈答やお土産の売り上げが一気に無くなり、百貨店カタログなどの外販に力を入れるようになりました。現在は、売り上げの半分以上が外販になっています。

また、業務課題改善のために、国や県、市、財団などの補助金を多く使い、設備投資などに役立てました。

老舗としての味や理念など、変わらないものは根底にあります。一方で、時代に合わせてビジネスモデルを変革することは、どの時代も、どの承継も同じように必要だと思います。社長一人の力では到底無理なので、従業員全員で時代に合ったやり方を選択し、全員で続けられるような職場環境の整備に取り組みました。

聖火ランナーに選出、そして社長に

――実際に代表を承継されたのは、400周年を迎える2020年ではなく2021年でしたが、1年遅れた理由は?

実は、2020東京オリンピックの聖火ランナーに選ばれ、地元の福山市を走りました。オリンピックがコロナ禍で1年延期されたので、代表の引き継ぎもそれに合わせて1年後になりました。

弊社のように、古くから続いている菓子屋は、菓子を作って売るだけではなくて、地域文化を担っている意識があります。2013年頃から地元の学校や公民館のほか、瀬戸内海の離島、山間部の限界集落などに出向き、和菓子教室を開くようになりました。聖火ランナーは公募ですが、地域活動が評価されて選ばれたと聞いています。

高田海道氏プロフィール

高田海道(たかだ・かいどう)氏

1987年、広島県生まれ。早稲田大学政治経済学部を2009年に卒業後、不動産会社勤務などを経て、2013年に現在勤める株式会社虎屋本舗に入社。2021年5月18日、東京オリンピックの聖火ランナーを務めた日に十七代目当主に就任。「虎焼」をはじめとする伝統の和菓子を伝えるとともに、斬新な発想の新作菓子も数々世に送り出している。和菓子教室や、オープンキッチンを備えた新しい形の店舗など、地域コミュニティを意識した事業を展開。第2回ジャパンSDGsアワード「SDGsパートナーシップ賞」受賞。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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