COLUMNコラム
事業承継で「覚書」は必要?――契約書と合意書の違いを解説!
事業承継に関わらずビジネスシーンで契約書を交わす重要性は、大半の人が理解しているでしょう。これは、M&Aによる事業承継においても同様です。覚書を交わすことで、さまざまなリスクを回避することができます。本記事では、事業承継の覚書でどういったことを記載するのか、間違えがちな契約書と合意書の違いを解説します。
目次
覚書、契約書、合意書の違い
覚書と似た言葉として、契約書と合意書があります。意識せずに使っている人も多いと思いますが、それぞれ意味合いは異なります。
「覚書」とは
単語的な意味でいうと、「備忘のためのメモ書き」のようにも感じます。ただ、ビジネスシーンで交わす場合の覚書は、契約書の作成前に当事者間が合意した内容(事実認識や契約条項の解釈で不明確な事項など)について、その時点での共通認識を確認しておくときに利用されます。
また、有効期間の変更・条項の追加などの「契約条件変更の覚書」、基本契約に個別の契約条件を定める「基本契約書に基づく覚書」などもビジネスシーンではよくあります。事業承継においては、覚書を交わすことで、契約が締結された後でも、新しい取り決めが行われた場合は追加することができます。
覚書は、契約書よりも簡潔な合意内容を書面に残すときに用いられることが多いため、長い契約書を確認せずに済む、という事務処理負担の軽減というメリットがあります。なお、契約書の補助的な役割を担うものの、法的拘束力は通常の契約書と変わりありません。また契約書と同様、課税文書については収入印紙を貼付する必要があります。
「契約書」とは
これから実行しようとする事業承継について、売り手と買い手がそれぞれの権利や義務を正式に了承したタイミングで明記する文書です。なお、契約自体は意思表示の合致が条件となるため(民法522条1項)、書面ではなく口頭でも成立します。
しかし、書面で残しておかないと後々「言った・言わない」のトラブルに発展する恐れがあるので、特に企業間の取引では、契約内容を記した契約書を作成し、契約書への署名捺印または記名押印により合意するのが一般的です。
「合意書」とは
合意書は、契約締結以降に当事者間で合意した内容を明らかにする目的で作成されます。具体的には、以下のようなケースで作成することが多いです。
・契約時に決まっていなかった条件を合意する
・契約時点で想定できなかった事態に対処する
・不法行為などにより損害を受けたとき、相手方に責任を認めさせる
法的効力はあるため、万が一裁判などに発展した場合も、合意書の内容が裁判の結果を左右する可能性は大いにあります。
なぜ、事業承継で覚書が重要なのか?
事業承継の契約書では、譲渡する側と譲渡される側で実にさまざまな内容を取り交わすわけですが、中には「契約書を交わすまでの間に義務と権利を明確化させたい」「契約書を交わすほどでもない社内ルールが存在する」といったケースもあるでしょう。とはいえ、口頭だけのやりとりだと法的効力があるとはいえ、当事者間で何を言ったのか忘れてしまうこともあります。
また、M&Aの契約自体は覚書が必要なわけではありませんが、もし双方の主張が食い違いトラブルに発展した場合、損害賠償問題になることも想定されます。M&Aに向けて多大なコストと労力を費やしているため、単に交渉を白紙に戻すだけでは済まないことも多いのです。覚書を作成・締結しておくことで、トラブルになりそうな事項に対して共通認識を持てるとともに、後々のトラブルを防止することもできます。
事業承継の覚書に記載すべき内容
事業承継における覚書に記載すべき主な項目は、以下の9点です(甲は「承継する側:先代経営者」、乙は「承継される側:後継者」を指します)。
・事業譲渡について
甲は乙に対して、○○という事業を譲渡する。
・事業譲渡の日程
甲は乙に対して、平成○年○月○日までに事業譲渡する。
・譲渡条件
1.甲は乙に対して、○○社の事業をすべて譲渡する。
2.乙は、当該事業における従業員を可能な限り継続雇用する。
・資産等の譲渡
甲は、甲の事業に関する資産すべてを乙に譲渡対象とする。
・負債の譲渡
乙は、甲の事業に関わる借入金・買掛金・リース・その他負債のすべてを引き受ける。
・調査と資料提供
乙は事業を承継するにあたって、甲に必要な調査を行うことができる。
・守秘義務
甲および乙は、当該の事業譲渡に関する一切の情報を他者に漏らさない。
・協議事項
1.覚書に定めのない事項および疑義を生じた事項は、原契約の定めによるものとする。
2.原契約に定めのない場合、甲、乙および丙の三者が協議して解決することとする。
・解除条件
合理的な理由により協議が行われない場合は、甲と乙は本合意事項に関して解除を申し込むことができる。
まとめ
覚書は契約書と同様、法的拘束力があるため、いざ揉め事になったとしても内容を踏まえた協議が可能です。事業承継ではさまざまな取り決めがあるため、些細なことと思っても、契約書や覚書に記載したほうがよいでしょう。
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