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【推しの子】の「すしのこ」発売、舞台裏をタマノイ酢新社長に聞く 61年間続く“すしのこ”デザインを「有馬かな」へ変更する挑戦

今年4月、ネット上で、お手軽に酢飯を作れる粉末寿司酢「すしのこ」がバズった。人気アニメ【推しの子】と特別コラボ商品を発売するというニュースが飛び込んだからだ。6月1日に発売される特別コラボでは、1963年の発売以来、初めてロングセラー商品のパッケージデザインを変更し、「有馬かな」らアニメキャラが登場する。4月、製造元の老舗企業「タマノイ酢」(本社・大阪府堺市)の社長に就任した播野貴也氏に、「特別コラボ」を実現した舞台裏と、今後の展開を聞いた。

【推しの子】すしのこの狙いとは

——「すしのこ」と「推しの子」が入れ替わるというコラボレーション企画について教えてください。

播野 エイプリルフールの4月1日、『【推しの子】』TVアニメ公式X(旧ツイッター)が「『推しの子』が『すしのこ』になります」というリリースを出しました。消費者は「最近トレンドのエイプリルフールネタだろうな」と受け取ったと思います。

その後、4月4日に本当に「すしのこ」のパッケージに【推しの子】のキャラをデザインした特別コラボ商品が発表され、Yahoo!トレンドの1位を獲得しました。エイプリルフールネタが本当だった、というわけです。

——コラボはどんなきっかけで生まれたのですか?

播野 「『すしのこ』と【推しの子】の響きが似ている」「聞き間違えた」といった声がSNSに上がっていたのがきっかけでした。勝手に「すしのこ」のパッケージを【推しの子】のデザインに変えた画像がアップされていたのです。

それが1人ではなくて、複数の方がされていました。たまたま名前が似ていたのですが、両者をうまくつなぐことで、今まで「すしのこ」を使っていなかった若い人たちにも知ってもらえるのではないかと考えました。

【推しの子】コラボ、若い社員が盛り上がった

——「推しの子」とのコラボ企画に対する社内の反応はいかがでしたか?

播野 若い世代の社員たちにこの企画を話したときは、まったく反対する声はありませんでした。むしろ「面白い企画ですね!」と、大いに盛り上がりました。どちらかというと、社員たちは「会社として問題ないのか」ということを気にしていました。

というのも、「すしのこ」のパッケージは61年間変えていなかったからです。社内でもロングセラー商品のパッケージを変える発想は誰も持っていませんでした。しかし、当時の社長に話して、何とか実現にこぎつけました。

——前社長の反応はいかがでしたか?

播野 驚いていましたが、前社長は「推しの子」を見ていないので、よく分からないというのが正直なところだと思います。「周りの若いメンバーと自分がいいと思って責任を持って動くんだったら、やってみたら?」と、任せてもらえました。

多分、これを提案したのが5年前だったら即却下されていたでしょう。これまで前社長といろんな仕事に取り組み、プロモーションをやり切ったりしていく中で、少しずつお互いの信頼関係が出来上がり、任せてくれる部分が増えてきていました。

老舗企業、伝統と【推しの子】のような革新が必要

——安土桃山時代にルーツを持つ歴史ある会社を、今後どのように舵取りしますか?

播野 「伝統と革新」をテーマに掲げています。伝統的なものは守っていかないといけませんが、伝統は革新によって守られ、広がっていくと考えています。今までのやり方や伝統を大事にするところと、新しくチャレンジするところとのバランスを取りながら経営していきたいと思っています。

今あるものを0にするという革新もあるのかもしれませんが、100あるうちの50を変えて、残りの50を守るというのが、私の思い描く革新です。今回の「推しの子」とのコラボがまさにそうです。守るために変えるという手法があっていいのではないでしょうか。
「すしのこ」が好例でしたが、失敗を恐れずに挑戦することを若い社員に大事にしてほしい。「今までこういうやり方だから、その通りやってみる」「今までやって無理だったから、諦める」といったように前例を踏襲するだけではなく、若いメンバーの意見を吸い上げて、それを行動に移していく、挑戦していく。

そうすることで、人が成長する環境をつくっていくことが私の大事な役割だと思っています。過去の伝統にとらわれすぎて、新しいことにチャレンジできないような環境にはしたくない。伝統を革新によってしっかりと未来につなげていきたいですね。

——100年企業を承継するプレッシャーは感じますか?

播野 ないと言ったら嘘になりますが、誰もが自分の人生の中でやれることにチャレンジしていくしかありません。そこは、継ぐのが20年企業だろうが老舗の100年企業だろうが、そんなに変わらないと思います。

ただ1つ言えるとしたら、今ある会社の状況や環境、人材などは、私が1人でつくってきたものではありません。先代や先輩社員たちが作ってきてくれたものです。私には7歳と4歳の息子がいます。自分が中継ぎとして、先人から受け継いだバトンを次の世代にしっかりと渡していけるようにやっていきたいですね。

タマノイ酢株式会社

安土桃山時代の1590年頃、堺で製造された酢に用いられた商標「玉廼井(タマノイ)」にルーツを持つ。1907(明治40)年、5つの蔵が集まり、前身となる大阪造酢合名会社を設立し、1963年に「タマノ井酢」、1994年に「タマノイ酢」に社名変更した。1963年には、世界で初めて酢の粉末化に成功し、ロングセラー商品「すしのこ」を発売した

大阪府堺市に本社を置く、醸造酢、粉末酢、各種調味料、レトルト食品および菓子・健康飲料などの製造・販売をする食品メーカー。1907年創業。代表製品は、世界で初めての粉末酢「すしのこ」やビネガードリンクのパイオニア「はちみつ黒酢ダイエット」。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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