COLUMNコラム
従業員との労働契約も対象! 地位承継の基礎知識
事業承継や事業譲渡において発生する「地位承継」。その具体的な内容や決まりごとをご存じでしょうか?本記事では、地位承継について解説します。
目次
地位承継とは?
地位承継とは、売買によって発生する権利義務関係を移転し、資産や負債、権利、義務などを他の人に引き継ぐことをいいます。具体例としては、不動産や債権・債務、従業員や取引先との契約などが地位承継の対象となります。
地位承継は、事業譲渡の際に必要となります。株式譲渡では会社のすべてを引き継ぐ「包括承継」が一般的ですが、事業譲渡では事業の一部または全部を引き継ぐこととなり、個別に権利義務関係を移転しなければならないためです。
地位承継を行うと、権利義務の所有者が変わることになります。契約書の準備なども含め、トラブルに発展しないよう、丁寧に進めましょう。
地位承継における決まりごと
民法第539条の2によると、地位承継には相手方の同意が必要だと定められています。
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。
相手が契約内容に同意しない限り、権利義務関係を引き継ぐことはできません。
たとえば金融機関との契約において、地位承継によって後継者に債務を引き継ぎたいとしましょう。この場合は、債権者である金融機関の同意なしには、債務は引き継げません。金融機関が「経営者が変わるなら条件も変えたい」と希望するケースもあるでしょう。
3つの地位承継
ここでは、地位承継の具体例を3つ紹介しましょう。
①債務の地位承継
先述した、債務の地位承継です。事業譲渡や事業承継において、先代の債務を後継者が引き継ぐ際には、債権者の同意が必要となります。
繰り返しになりますが「経営者が変わるなら条件も変えたい」「債権を回収したい」と、金融機関が希望するケースもあるでしょう。債務者・債権者ともに不利益を被ることのないよう、綿密な話し合いや取り決めが必要です。
②許認可の地位承継
事業承継において許認可の承継はできないため、後継者が許認可を取り直す必要があります。特に飲食店の事業承継においては注意が必要でしょう。
③賃借権の地位承継
賃借権も承継不可です。賃貸人に話を通し、賃借権の譲渡に同意してもらう必要があります。
地位承継のメリット・デメリット
ここでは、地位承継のメリット・デメリットを紹介しましょう。
地位承継のメリット
事業譲渡における地位承継のメリットは、「まるごと引き継がないで済むこと」。引き継ぐ権利義務を選び、必要なものだけを後継者のものにすることができます。
地位承継のデメリット
事業譲渡における地位承継のデメリットは、先述したメリットの裏返しです。一つひとつ個別に地位承継する必要があり、手間がかかることをデメリットだと感じる方は多いでしょう。
事業譲渡と地位承継
ここでは、M&Aで事業を売買する際に使われる「事業譲渡」について、簡単に説明します。
事業譲渡とは
事業譲渡は、M&Aにおいて会社の一部または全部を売買すること。事業譲渡は「一部譲渡」と「全部譲渡」の2種類に分かれます。
・一部譲渡:会社の事業の一部分のみを譲渡すること
・全部譲渡:譲渡企業の事業をすべて譲渡すること
事業譲渡の範囲としては、有形・無形資産や負債、従業員や取引先との契約が含まれます。
事業譲渡と株式譲渡の違い
混同されやすい「事業譲渡」と「株式譲渡」。二者の違いは次の通りです。
・事業譲渡:会社の経営権は残したまま、特定の事業や資産のみを譲渡すること
・株式譲渡:会社の経営権ごと譲渡すること
なお、事業譲渡のメリットとして、特定の事業に集中できることや、譲渡先が見つけやすいことが挙げられます。
事業譲渡における地位承継
事業譲渡においては、移転する権利義務を一つひとつ地位承継する必要があります。
ここで重要なのは契約書や覚書。重要な齟齬があり、売り手・買い手に損失をもたらすことがないよう、契約書や覚書を取り交わして細かい条件を確認しておきましょう。
覚書は正式な契約書の締結前に合意事項や約束事を確認しあうために用いることが一般的ですが、契約内容や地位承継を明記されているのであれば、覚書でも契約書として効力を発揮させられます。
まとめ
事業譲渡を行う際には、個別に地位承継の手続きを行う必要があります。
トラブルなく事業譲渡を完了させ、承継を成功させられるよう、手続きはよく確認して進めましょう。専門家に相談の上、一つひとつ契約書を準備することをおすすめします。
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