COLUMNコラム
事業承継税制(特例措置)とは。通常の事業承継税制との違い、メリット・デメリットを解説
近年、事業承継を検討する経営者の間で話題となっている「事業承継税制の特例措置」。本記事では、事業承継税制の「特例措置」と「一般措置」の違いや、適用を受けるための手続きなどを解説します。
目次
「事業承継税制」とは?
「事業承継税制」とは、一定の要件を満たした事業者に限り、相続税や贈与税の負担が猶予(支払いが先延ばしになる)、あるいは免除される(支払いがゼロになる)制度のこと。
事業承継税制という制度は平成21年に創設されました。ただ、手続きが煩雑なだけでなく、適用要件が厳しかったり、要件を満たさなくなったら納税猶予が取り消されてしまったりといったデメリットが多く、政府が期待したほど多くの企業に適用されることはありませんでした。
一般的に、事業承継には多額の費用がかかるものです。相続税や贈与税にかかる費用を捻出できないために、廃業を選ぶ企業が多くありました。
企業が廃業すると、その企業が持っていた技術や商品が失われ、日本全体の損失につながります。また、従業員の雇用がなくなって生活が脅かされたり、取引先に混乱を招いたりといった影響も予想され、日本全体の生産性低下も懸念されます。
そうした状況に危機感を抱いた政府が、中小企業の事業承継を後押しするために、適用要件を緩和し、節税効果を大きくした「事業承継税制(特例措置)」を創設したのです。
事業承継税制の「一般措置」と「特例措置」の違い
それまでの「一般措置」と、今回緩和された「特例措置」の違いは主に8点。以下の通りです。
出典:中小企業庁発表資料
【事前の計画策定】
・一般措置:不要
・特例措置:6年以内の特例承継計画の提出(2018年4月1日から2024年3月31日まで)
【適用期限】
・一般措置:なし
・特例措置:10年以内の贈与・相続等(2018年1月1日から2027年12月31日まで)
※令和4年4月1日施行の改正施行規則により、特例承継計画の提出期限は1年延長。
【対象株数】
・一般措置:総株式数の最大3分の2まで
・特例措置:全株式
【納税猶予割合】
・一般措置:贈与:100%、相続:80%
・特例措置:100%
【承継パターン】
・一般措置:複数の株主から1人の後継者
・特例措置:複数の株主から最大3人の後継者
【雇用確保要件】
・一般措置:承継後5年間平均8割の雇用維持が必要
・特例措置:弾力化
【経営環境変化に対応した免除】
・一般措置:なし
・特例措置:あり
【相続時精算課税の適用】
・一般措置:60歳以上の者から18歳以上の推定相続人・孫への贈与
・特例措置:60歳以上の者から18歳以上の者への贈与
次からの項では、それぞれの違いについて簡単に解説します。
事業承継税制における「事前の計画策定」について
一般措置においては、事前の計画策定は不要となっていました。一方、特例措置の適用を希望する事業者は、「特例承継計画」を作成し、認定経営革新等支援機関に提出して、指導や助言を受けなければなりません。
「認定経営⾰新等⽀援機関」とは、税務や金融等に関する専門知識や中小企業支援の実務経験を一定以上有する個人や法人を指し、経済産業省の認定を受けた機関のことです。
認定経営革新等支援機関から指導や助言を受けたのち、2024年3月31日までにこの計画を都道府県庁に提出し、確認を受ける必要があります。
まとめると、特例措置の適用を受けるまでの流れは、特例承継計画を作成する→特例承継計画を都道府県知事に提出し、確認を受ける→承継を実行する→都道府県知事に認定申請を行ない、認定書を受領する、となります。
特例承継計画に記載する事項は次の通りです。
①会社について
基本項目として、以下の内容を記載します。
・主たる事業内容
・資本金額または出資の総額
・常時使用する従業員の数
②特例代表者
承継させる株式の現保有者、つまり先代経営者の氏名と代表権の有無を記載します。
③特例後継者
株式を承継させる予定者として、3名まで記載可能です。なお、この特例承継計画に記載していなかった人が後継者になった場合、特例措置は適用されません。
④株式取得期間の経営計画
代表者が有する株式などを特例後継者が取得するまでの期間の経営計画を記載します。具体的には、次のような項目となります。
・株式を承継する時期(予定)
・当該時期までの経営上の課題
・課題への対応策
⑤株式等承継後5年間の経営計画
事業承継が完了した後、5年間の計画を、1年ごとに記載します。
事業承継税制における「適用期限」について
事業承継の当事者にとって最も注目すべきは、特例の適用期間でしょう。一般措置においては、適用期限はなしとされていました。一方、特例措置の適用期間は10年限定で、2018年(平成30年)1月1日から2027年(令和9年)12月31日までとなっています。
新型コロナウイルスの影響で、令和4年4月1日施行の改正施行規則により、特例承継計画の提出期限が1年延長されました。
まとめ
特別措置において、特例承継計画を作成しなければならなかったり、期限が設けられていたりすることは、多忙な経営者にとってデメリットでしょう。
一方で、複数の株主から最大3人の後継者の後継者を選べたり、全株式が対象になったりすることは、見逃せないメリットです。
事業承継を検討している経営者は、特例措置の期間内に承継を行ってはいかがでしょうか。
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