COLUMNコラム
事業売却の相場や計算方法、相場より高値で売るコツを紹介!
企業が事業売却を検討する場合、相場を理解した上で売却価格を設定しなければ、買い手が見つかりません。事業売却にはおおよその相場があり、ベースとなる計算方法が存在します。今回の記事では、事業売却の概要から相場より高値で売却するコツを解説します。一連の流れの中で事業売却の相場や計算方法についても解説しますので、事業売却を検討している方はぜひ参考にしてください。
目次
事業売却の概要
事業売却とは、会社における事業の全部または一部を売却する行為のことです。他の会社や個人に対し、売却対象となる資産と負債が契約に基づいた取引行為によって移転・継承されます。赤字事業や成長事業など、自社の経営戦略に合わせて自由に売却する事業を選べます。なお、似た言葉に事業譲渡がありますが、事業売却と同じ意味の言葉です。
事業売却と会社売却の違い
事業売却は、会社組織を手元に残した状態で事業を売却する行為ですが、会社売却は会社すべてを売却する行為のことです。状況や事情によって事業売却と会社売却を使い分けます。
事業売却の相場と計算方法
事業売却の相場は法律によって定められているわけではないため、売却価格や買収価格をいくらに設定しても問題ありません。しかし、法外な価格では買い手がつかないでしょう。そこで、相場をもとに価格を決める必要があるのです。
事業売却の相場は株式市場を参照して決めます。なぜ株式市場なのかというと、売却事業の純利益を調べるためです。純利益が分かれば相場の計算ができます。
【相場計算の例】
売却事業の純利益が年間1500万円、東証プライム銘柄で平均株価収益率(PER)が20.5倍の場合、1500万円×20.5=3億750万円が相場です。
PERを求める際は時価総額÷当期純利益で求められます。ただし、東証プライムの平均値や株式市場は、マクロ経済などの影響を受けやすい点に注意しましょう。
また、年買法で計算するのも有効です。修正純資産+営業利益×3~5年で求められます。
【相場計算の例(年買法)】
事業売却の修正純資産が1億5000万円、毎年の営業利益が1500万円の場合
1億5000万円+1500万円×3~5年=1億9500万円~2億2500万円が相場です。
事業売却の流れ
事業売却の流れは以下の通りです。
①社内で検討する
経営者だけで何の事業を売却するか考えてもあまり意味がありません。一人で考えるよりも複数人で考えた方が社内の協力を得られやすいため、事業売却の構想を練る時は複数人で考えましょう。
②買い手を探す
買い手を探す方法は主に以下の4つの方法があります。
1.信頼する人物に相談する
業界団体や地元経済界に明るい人に相談するのも一つの手です。幅広いコネクションを持っている人に相談できれば、買い手候補を紹介してもらえる可能性が上がります。
2.関係の深い企業に打診する
仕入れ先や得意先といった関係の深い企業に対して売り手から打診する方法です。この方法なら仲介者が存在しないので仲介手数料を省けます。
3.金融機関へ相談する
金融機関は数多くの企業と接点があるため、売却事業が企業のニーズにあっているかどうか判断できます。
③基本合意
基本合意とは、最終契約前に基本的な事項を書面で確認することです。一般的に法的拘束力を持ちませんが、基本合意を締結することで事業売却の成功率を高めます。
④デューデリジェンス
デューデリジェンスとは、買い手側が買取対象事業のリスクの把握、移転手続きなどの準備のために実施する監査のことです。
⑤事業売却契約書の締結
事業売却契約は、売り手側と買い手側双方の合意に基づいて締結されます。売り手側は株主総会の特別決議が必要(一定の金額以下の場合不要)となり、買い手側は全部買収する場合に株主総会の特別決議が必要(一部買収の場合は不要)です。
⑥移転手続き・各所への届出
事業売却契約書を締結しただけでは個別契約や地位は移転しないため、別途手続きを進める必要があります。また、売り手は買い手が個別契約や地位がスムーズに移転できるように協力しなければなりません。
事業売却のポイントや注意点
ここからは、売り手側が事業を売却した場合のメリット・デメリットを解説ます。併せて、相場よりも高値で事業を売却するコツを紹介します。
事業売却のメリット
事業売却のメリットは以下の通りです。
①利益が発生する
事業を売却することで利益が発生するため、得た利益を他の事業の運転資金に充てたり、新規事業へ投資したりできます。他にも、売却した事業が負っていた負債の返済に充て、赤地を最小限にするといった使い方も可能です。
②事業を売却しても経営の継続が可能
事業の一部のみを売却するため、残した事業で経営の継続が可能な点は事業売却の大きなメリットの一つです。これは、後述する「自社の強みをさらに伸ばせる」「残しておきたい資産や従業員の確保が可能」などにつながります。
③自社の強みをさらに伸ばせる
事業を売却することで、黒字事業やコア事業に会社のリソースを集中できるようになり、自社の強みをさらに伸ばせます。採算性の低い事業を損切りすると、一時的な損失は発生するかもしれません。しかし、赤字を出し続ける事業を閉鎖して撤退するほうが将来的な損失を防げるため、損切りをして自社の強みをさらに伸ばすようにしましょう。
④残しておきたい資産や従業員の確保が可能
事業売却は事業の一部を指定して売却するため、残しておきたい資産や従業員を選択できます。会社のすべてを売却した(株式譲渡)場合、新しく事業を始めるには何もない状態からのスタートとなりますが、事業売却なら資産や従業員を残しておけるため引き続き経営が可能です。
⑤売却先が見つかりやすくなる可能性がある
株式譲渡の場合、会社すべてを売却するため、買収先は負債も引き継ぐことになります。しかし、事業売却では事業の一部のみを引き継ぐので負債は引き継ぎません。買い手からしてみれば欲しい事業だけ手に入るため、事業売却の方が売却先を見つけやすいといえます。
⑥法人格の継続が可能
事業売却は、事業を売却しても企業の法人格を残せるため、新規事業を立ち上げても同じ会社名を付けられます。事業転換を検討している時に有効です。
⑦後継者問題の解決
もし、従業員や親族内に後継者として適任な人材がいなくても問題ありません。事業売却を行うことで廃業せずに済み、従業員の色を確保しつつ商品やサービスの継続が可能だからです。その上、事業を売却することで資金の獲得も可能なため、事業売却は後継者問題の一つの解決策として知られています。
⑧株主総会の特別決議で売却の実行が可能
事業売却を行う場合、株主総会の特別決議で3分の2以上が賛成すれば実行できます。簡易的な事業売却の場合は、株主総会の特別決議は必要なく、取締役会の決議で実行可能です。
事業売却のデメリット
事業売却のデメリットは以下の通りです。
①時間や手間がかかる
事業売却のデメリットは何といっても時間や手間がかかる点です。会社すべてを売却する株式譲渡なら譲渡手続きだけで済みますが、事業売却は売却手続き以外に資産や負債を個別で契約しなおさないといけません。
②売却後は同種の事業に制限がかかる
会社法では「競業避止義務」という義務があります。これは、売却した事業と同種の事業を一定期間行わないようにする義務を指し、原則として20年間は同種の事業ができません。
③税金がかかる
資産を売却して利益が生じた場合、利益に対して法人税もしくは所得税が課税されます。合併や株式交換では組織再編税制が適用されるため、税金が課税されることはありません。しかし、事業売却は税制適格要件を満たさないため税金が課税されてしまうのです。
④従業員が個別で契約継承手続きをする必要がある
事業売却で売却対象となる事業の従業員は、売却先企業と個別で契約継承手続きをしなければなりません。契約継承手続きは、売却先企業と従業員が行いますが、この時に重要なポストの従業員が契約を拒否した場合、事業売却が不成立となることもあります。
⑤取引先から承認を得る必要がある
一般的に事業売却をする時は、現在の取引先から承認を得る義務があります。契約中の案件がある場合、事前に契約を完了させるのは誰か、代金は誰が受け取るのかなどを決めておかなければなりません。
事業売却を相場より高値で行うコツ
事業売却を相場より高値で行うコツとして、以下の3つが挙げられます。
①引継ぎ対象に優秀な人材を含める
事業を買収したからといって、その事業で利益を生み出せるとは限りません。利益を得るためには、事業を回せるノウハウや技術力のある人材が不可欠です。事業売却の引継ぎ対象に優秀な人材を含めると、相場より高値が付く可能性があります。
ただし、前述したように優秀な人材が売却先企業と契約を結ぶとは限らないため、従業員に対し事前に事業売却について納得してもらうことが大切です。
②価値のある無形資産
売却する事業の価値を評価するにあたり、建物や機械設備が評価されるのはもちろんですが、ノウハウや技術力といった無形資産も評価対象です。特に、特許技術を持っていたり大手企業と取引をしていたりすると事業の価値が高く評価され、相場より高値が付く可能性があります。
③シナジー効果を見込める買い手に打診する
シナジー効果とは、相乗効果のことで売り手の事業と買い手の事業を組み合わせることで、さらなる収益を生み出せる効果をいいます。買い手の事業のウィークポイントをカバーし、相場より高値を付けることが可能でしょう。
まとめ
事業継承をするにあたって、事業売却は有効な手段です。しっかり相場を調べて、高値で売却する工夫をすることで、自社にとっても先方にとっても有益となります。十分に準備を進めて、事業継承を成功させましょう。
以下の記事では、事業承継の流れを解説しているのでぜひご覧ください。
(「事業承継の流れを7つのステップで解説!」)
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