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事業承継の資金調達には融資・保証制度をうまく活用しよう

事業用資産や自社株を引き継ぐためには多額の資金が必要? 事業承継において、承継される側はまとまった資金が必要になり、手元に充分な資金がない場合は融資を受けなければいけません。そこで本記事では、融資を事業承継で利用できる融資・保証制度の概要を解説します。事業承継は通常よりも好条件で融資を受けられるので、事業承継を検討している方はぜひ参考にしてみてください。

まず検討すべきは日本政策金融公庫の「低利融資」

円滑な事業承継を行うための必要な資金としては以下の例が挙げられます。

・後継者が相続などで分散した自社株式や事業用資産を買い取るための資金
・後継者が相続や贈与によって自社株式や事業用資産を取得した場合の納税資金
・役員や従業員が株式や事業の一部を買い取って事業の承継を行うための資金
・経営者の交代により信用状態が悪化した場合、銀行の借入条件や取引先の支払状況が厳しくなった場合

会社や後継者である個人事業主が上記のような用途で資金が必要な場合、日本政策金融公庫または沖縄振興開発金融公庫の「低利融資」を利用することができます。

ただし、融資を受けられる対象・条件が以下のように定められています。

【対象】
・会社または個人事業主が、後継者不在などの理由により事業継続が困難となっている会社から、事業や株式の譲渡などにより事業を承継する場合
・会社が株主から自社株式や事業用資産を買い取る場合
・後継者である個人事業主が事業用資産を買い取る場合

経営承継円滑化法に基づく認定を受けた会社の代表者(個人)が、自社株式や事業用資産の買い取り、相続税や贈与税の納税などを行う場合

【条件】(日本政策金融公庫の場合)
・融資限度額:7億2,000万円(うち運転資金4億8,000万円)
・融資利率:通常1.20%の基準利率が適用されるが、0.80%の特別利率を適用

(融資期間6年以内の場合、令和5年9月1日時点)

しかし、上記利率は標準的な貸付利率であり、実際の適用利率は信用リスクなどに応じて適用されます。

手間がかかるがメリット大!「事業承継・集約・活性化支援資金」

日本政策金融公庫では「事業承継・集約・活性化支援資金」という融資制度もあります。これは、地域経済の産業活動の維持・発展のために、事業譲渡などにより経済的または社会的に有用な事業や企業を承継・集約化する中小企業の資金調達を支援するものです。

主な資金用途としては、設備資金および長期運転資金が当てはまる以下のような対象者に貸し付けており、それぞれ返済期間が20年以内、7年以内(両方ともうち措置期間2年以内)と定められています。

・中期的な事業承継を計画し、現経営者が後継者とともに事業承継計画を策定している方
・安定的な経営権の確保などにより、事業の承継・集約を行う方
・事業の承継・集約を契機に、新たに第二創業または新たな取り組みを図る方

中小企業経営承継円滑化法に基づき、認定を受けた中小企業者の代表者、個人である中小企業者、事業を営んでいない個人

事業承継に際して経営者個人保証の免除などを取引金融機関に申し入れたことを契機に、取引金融機関からの資金調達が困難であり、公庫が貸付に際して経営者個人保証を免除する方

なお、融資限度額は7億2,000万円(直接貸付)であり、融資利率はそれぞれの対象条件によって異なります。担保設定の有無、担保の種類などは中小企業事業の窓口で相談のうえで定められます。

経営者の個人保証が不要!信用保証協会による「特別保証」

通常、中小企業が金融機関から融資を受ける際には、返済の信用性を補完するために、金融機関から経営者個人の保証が求められます。

しかし、保証人となるのは負担が重いため、後継者が事業承継をためらってしまうことが事業承継において大きな課題点でした。

そこで、信用保証協会が事業承継支援のために「特別保証制度」を設け、以下の一定の要件を満たす場合は経営者の個人保証が不要となりました。

・資産超過であること
・返済緩和中ではないこと

一定の返済能力があること(EBITDA有利子負債倍率=(借入金・社債-現預金)÷(営業利益+減価償却費)が10倍以内)

法人と経営者の分離がなされていること

保証限度は2億8,000万円で、資金用途は事業資金に限られていますが、経営者保証コーディネーター(事業承継ネットワーク地域事務局などが雇用する専門家)による確認を受けると、保証料率が大幅に軽減されます。

新たな取り組みをする場合は「事業承継補助金」

事業承継を契機とした経営革新などへの挑戦を行う中小企業を後押しするために、中小企業庁は「事業承継補助金」(事業承継・引継ぎ補助金)を実施しています。

この融資制度では以下の4つのポイントをおさえましょう。

ポイント①申請はシステム経由で行う
事業承継補助金は、電子申請システム「jGrants(Jグランツ)」を利用して申請する必要があります。このシステムは、各種補助金の検索、応募から採択後までの手続きを一貫して完結させることができ、申請および受付期間内では24時間365日手続きすることができます。

補助金申請用のホームページにログインするためには、「gBizID」を用いてアカウントの作成が必要で、gBizIDの取得には1週間(混雑時には3週間以上)ほど時間がかかるので、前もって用意しておきましょう。

ポイント②申請期間は4期間
令和3年度、および4年度では申請期間が4期間にわたって実施されていたため、本年度(令和5年度)も4期間であることが予想されます。
1期間目は3月20日(月)~5月12日(金)17:00までで、2期間目は6月23日(金)~8月10日(木)17:00まででした。

今月以降、3期間目の申請期間が始まるとされるため、融資を検討している方はこまめにホームページなどを確認しておきましょう。

ポイント③補助対象は限定的
事業承継補助金の対象事業は、「経営革新事業」と「専門家活用事業」になります。経営革新事業は、一定の期間に事業承継を実施すること(したこと)が要件で、経営革新を行う際の設備投資や販路開拓などにかかる費用、廃業費などが補助対象になります。

また専門家活用事業は、補助事業期間内に事業再編・事業統合を行うことが必要で、その際に支払った専門家の費用などが補助対象になります。経営革新事業、専門家活用事業は重複申請することができます。

ポイント④廃業・再チャレンジ事業の新設
上記2つの事業に加えて、令和3年度から新たに「廃業・再チャレンジ事業」が新設されました。

補助対象になる廃業は、中小企業者などが事業承継に伴う廃業、経営者の交代を契機として承継者が行う経営革新などに伴う廃業、新たなチャレンジをするために行う既存事業の廃業などです。

廃業・再チャレンジ事業も経営革新事業と専門家活用事業との併用申請が可能であり、廃業・再チャレンジ事業を申請する場合は、ほか事業への上乗せという扱いになるので、廃業・再チャレンジ事業を別途申請する必要はありません。

まとめ

本記事では、事業承継で活用できる融資・保証制度を複数ご紹介しました。

事業承継においてはさまざまな費用が必要になりますが、前もって融資制度の検討など具体的な対策を講じておくことで、円滑に事業承継を進められます。

また本記事と関連して、過去記事では事業承継後の新規事業の立ち上げの際に利用できる助成金や補助金の概要も解説しているので、あわせてご参照ください。

(「新規事業に活用できる、助成金や補助金利用者の事例を紹介」)

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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