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「次の社長は創業家一族から出さない」/日本に明太子を生んだ企業、5代目社長の深い「博多愛」~ふくや【後編】

終戦直後、日本で初めて明太子を商品として売り出したとされる、福岡・博多の老舗明太子店「ふくや」。5代目の川原武浩氏は、明太子の販路拡大にとどまらず、地元・福岡で焼酎製造元やホテルなどの再生を次々と手がける手腕の持ち主だ。後継は「創業家からは出さない」と明言する武浩氏の人生と深い「博多愛」を聞いた。

サッカー、演劇から経営へ

中学時代、サッカーに熱中した武浩氏は、高校生になると演劇部に入部。「いろんな人間がかかわって一つの成果を出す」というサッカーにも似た魅力を感じ、夢中になります。

上京して國學院大學を卒業すると、演劇の世界で生きていきたいと考え、ロンドンで芝居の勉強を始めました。当時は「実家を継ぐなんて、まったく考えていなかった」そうで、お父様とも話がついていたそうです。

イギリスから帰国後、1998年に九州最大級の演劇専用劇場「博多座」に入社。当時、ちょうど博多座がオープンするタイミングで、「地元で演劇の仕事ができる」と飛びついたといいます。

ところが2004年には「招集された」形でふくやに入社。武浩氏いわく、サッカーに例えると「試合に出られるとは決まっていないが、とりあえず戻ってこいと言われた」状態だったそう。

経営者になるためのスパルタ教育

武浩氏は経営コンサルタントのもとで2年間、経営者になるための修行をすることとなります。

修行の2年間を無事に終えると、いきなり「子会社を任せるから黒字化してこい」という指令が下ります。

そこで任されたのが、ホテルと福岡最大級のホールの複合施設「福岡サンパレス(※当時の名称)」。元々は第三セクターの経営でしたが福岡市から毎年多額の補助金注入は必要なほど経営状況が芳しくなく、ふくやが経営を引き受けることになったのでした。

赤字企業をわずか2年で再建

赤字だった福岡サンパレスを、武浩氏は社長就任2年目で黒字化します。取り組みは主に3本の柱で進められました。

1.“一人二役”でマルチタスクを行うこと
2.どの事業が黒字でどの事業が赤字なのかを突き止めること
3.ホテル事業を強化すること

武浩氏が「とんち」と評するのが、3つ目の「ホテル事業の強化」です。事業構造を分解してみると、ホテルが事業の柱になっていることがわかりました。

しかし施設の名称は「福岡サンパレス」で、ホテルの認知度は高くありません。

そこで施設名を「福岡サンパレス」から「福岡サンパレス ホテル&ホール」に変更。コンサートの主催者にも、イベント宣伝時に「福岡サンパレス ホテル&ホール」と呼んでもらうことにしました。
これが大きな広告効果を生み出し、ホテルの認知が拡大していったのです。

さらに武浩氏は、攻めの経営に打って出ます。歓楽街・中洲に、ホテル直営のケーキショップ「ホテルパティスリー ufu」を出店。深夜営業を行うほか、長さ55.5センチの「博多 中洲ロール」をはじめとした、パーティーや差し入れを意識した品ぞろえが強みです。

地元企業を経営支援するわけ、それは博多への愛

2017年にふくや本体の社長に就任した武浩氏は、持ち株会社「株式会社かわとし」を設立します。傘下にあるグループ会社のおよそ半数は、経営状態が芳しくない地元企業を買収したもの。

福岡名産で有名なごま焼酎の「紅乙女酒造」では、経営の立て直しとともに、新商品の開発を後押し。博多を代表する菓子店「石村萬盛堂」も、支援を受ける会社のひとつです。明治時代から続き、山笠の舞台でもある老舗企業を潰してはならないと、武浩氏が自ら経営のトップに就きました。

地元企業を支援するのは「会社や商品がなくなったとき、周辺のお客様が悲しむから」。創業者の「社会貢献」という理念を色濃く継いだ選択だと言えるでしょう。

また「福岡は元気な街であると言い続けたいから」とも武浩氏は語ります。独特の商品を売り出している焼酎蔵や、地元の老舗のお菓子屋さんが潰れてしまったら、「福岡=元気」というイメージが薄れてしまう。福岡のブランドを維持するために、できることはやっていこう――それが武浩氏の想いです。

武浩氏の考える、6代目への事業承継

武浩氏は社長に就任して早々、「次の社長は創業家からは出さない」と宣言しました。

とはいえ、経営者として経験を積んだ今、その難しさをひしひしと感じているそう。それは、プロパーから社長を出したり、プロ経営者に会社を任せたりするにしても、きちんと体制を作っておかなければならないからです。

「(経営は)パッと渡してうまくいくものでもない。譲ってみて失敗したら再登板という緊急時の選択肢も残すためことを考えると時間が足りない」と語ります。

5代目社長として挑戦を続けながら、自社のみならず、地元・福岡のことを想いながら社会貢献に取り組む武浩氏。初代がつくりあげ、先代から引き継いだ会社のエッセンスを守りつつ、挑戦を怠らない――。長く愛され続ける会社のお手本と言えそうだ。

前編|「福岡ナンバーワン納税者になって社会貢献」日本に明太子を生んだ企業/「味は守るな」5代目社長の思い~ふくや

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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