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福島第1原発事故で全町避難の町、「世界最強の警備員」とタイガーマスクが未来を拓く 格闘家が警備員として移住するプロジェクト「大熊警備隊」スタート

2011年3月の福島第1原発事故によって全町避難を強いられた福島県大熊町で、地域の安心・安全や復興に貢献するため、格闘家が警備員として移住するプロジェクト「大熊警備隊」が今年3月、スタートする。一部のスター選手を除き、収入が安定しづらい格闘家の生活保障につなげる狙いもある。プロジェクトを全面バックするのは、初代タイガーマスク。一度は震災と原発事故に打ちのめされた大熊町で、「世界最強の警備員が暮らす、世界一安全なまち」を目指す。

全町避難、いま人は戻り始めた

現在の福島県大熊町(2025年、撮影=Dory 誠)

プロジェクトは、地元・大熊町の事業プロデュース企業「ビジネスゲートウェイ(以下B社)」と、初代タイガーマスクの息子・佐山聖斗さん(34)が所属するコンサル企業「ARCOBALENO(アルコバレーノ)」、警備会社「KSP」(東京都)の3社が、合弁会社「大熊警備隊」を設立して実施する。

大熊町は、町内にあった福島第1原発の事故によって全町民11505人(11年3月11日時点)が町外へ避難した。

その後、長く居住は認められず、19年4月にようやく一部地域の避難指示が解除された。

現在も、帰還困難区域が50%強を占める。

現在の人口は、620世帯815人(24年7月31日時点)。

震災前のわずか7%だ。

しかし、特色ある小中一貫校の整備などにより、若い世代を中心に人口は増加傾向にある。

一方、町民の避難後に窃盗事件が相次いだことや、現在も空き家が多いことなどから、体感治安に不安を残すという課題もある。

なぜ、格闘家なのか

これから復興を遂げようとする大熊町のために、何かできないか。

5年前から大熊町を拠点に事業コンサルをしていたB社の黒田敦史さん(50)と、親交のあった佐山さんが議論を交わす中で「警備業」という発想が生まれた。

多くの人が暮らせる町の復興には、大前提として「安全」が必要だ。

格闘家の力を使いたい。

佐山さんは、格闘家としての経験からも大賛成だった。

一部のスター選手をのぞき、何千人、何万人といる格闘家の生活は厳しい。

ファイトマネーは1戦10万円に満たず、ガソリンスタンドでアルバイトをして生計を立てるチャンピオンもいる。

格闘家が「仕事」として町の安全を守って生活の糧を得て、一住民としても町を盛り上げる。

大熊町の復興のため、こうした仕組みを作りたい。

父・初代タイガーマスクの佐山聡さんにも相談すると賛同してくれた。

「初代」も、震災半年後に福島県と茨城県の子どもたちのために簡易放射線検出器を送るなど、チャリティーに取り組んでいた。

「原発マネー」はとっくに終わっていた

ただ、警備業への参入は厳しい壁があった。

外資企業の参入は認められないなど、「安全」を守るがゆえの警備業法という規制だ。

黒田さんは、旧知だったKSPの三⻆武一郎代表(51)に相談した。

三⻆さんは東日本大震災後、仙台市などは訪れていたが、大熊町に行ったことはなかった。

震災直後、大熊町など福島県浜通り地域には、大量の警備需要が生まれた。

災害復旧工事や立ち入り規制などをはじめ、警備業者は引く手あまた。

大手の警備会社が大挙し、「原発マネー」が流れ込んだような状況だった。

しかし、震災と原発事故から14年。

そうした需要はすでに引いていた。

まだ人口は800人強。

急速な復興は見込めず、マーケットも限られている。

それでも、「良い地域をつくっていく」と掲げた企業目的にぴったりのプロジェクトだと思った。

ノウハウを伝えたり、人材を提供したりできる。

参加を決めた。

町にいない、9000人の思いも背負って

「大熊警備隊」は2月に会社を設立し、3月に事業をスタートする。

今のところ、地道な建物警備などをしていく予定だ。

スタート時には、大熊町でイベントを催し、初代タイガーマスクも訪れる予定という。

愛知県出身の黒田さんは昨年、住民票を大熊町に移した。

「今は本当に課題だらけの町だが、チャンスの町でもある。いったん何もなくなったため、しがらみもない」と期待する。

一方で、「現在の人口は800人強だが、今も9983人が住民票を残していることを忘れてはいけない。多くの思いを背負い、格闘家とともに大熊町を輝かせ、安全な町に育てていきたい」と見据える。

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