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「ゼロからの出発、復興の可能性とチャンスは非常に大きい」 格闘技を愛し、大熊町に移住した事業プロデューサーの思い 大熊警備隊を立ち上げたヒーローたち

東日本大震災と福島第1原発事故で大きな被害を受けた福島県大熊町で3月、初代タイガーマスクが応援する「大熊警備隊」プロジェクトがスタートする。これは本物の格闘家が大熊町に移住し、警備員として収入を得ながら、ヒーローとしてトレーニングを積むもの。合弁会社「大熊警備隊」を設立したのは、コンサル企業「ARCOBALENO(アルコバレーノ)」 、警備会社「KSP」、事業プロデュース企業「ビジネスゲートウェイ」の3社だ。ビジネスゲートウェイ取締役・黒田敦史氏(50)に話を聞いた。

大熊町に移り住み事業プロデュース

現在の福島県大熊町(2025年、撮影=Dory 誠)

──どのような経緯で、大熊町のさまざまな事業に取り組んでいるのでしょうか。

約5年前、大熊町のまちづくりを担っていたコンサル会社の担当者が、私の元部下でした。

彼から「相談に乗ってほしい」と言われたのが、そもそものきっかけです。

当時から、大熊町の産業創出プロジェクトに関わっています。

ほぼ同時に、当社の代表取締役・吉田学と出会いました。

吉田は大熊町出身で、地域の若手リーダー的な存在でした。

大熊町や浜通りをよくしていきたいという思いに惹かれ、2021年、大熊町に会社を設立したのです。

──現在手がけている、主な事業について教えてください。

当社は事業プロデュースや建物の運営を手がけている企業です。

代表的な事業に大熊町から受託している「大熊インキュベーションセンター」の運営が挙げられます。

ここは町内外の方々の交流を図り、企業や起業家が共創し合うための起業支援拠点です。

また、大熊町がJR大野駅前に整備した商業施設「クマSUNテラス」や、産業交流施設「CREVAおおくま」の運営・管理も担っています。

併せて、新規事業の立ち上げ、プロデュースなども展開しています。

「大熊警備隊」プロジェクト誕生の背景とは

──今回のプロジェクトのアイデアはどのように生まれたのでしょうか。

私自身、格闘技が大好きで、格闘家がもっとカッコよくなり、同時に安定した暮らしを実現してほしいという願いを持っていたことがきっかけです。

もうひとつ、私が大熊町に住んで、まちづくりに参加している立場から、大熊町の課題を解決しながら、もっとよい町だとアピールしたいという思いもありました。

格闘家が輝ける仕事のひとつが、警備業だと思うのです。

当社はいくつもの建物管理を手がけており、大熊町にさらに建物が増え、イベントなども開催されます。

大熊町は成長を続けている過疎地なのです。

今後、人と建物が増えるに従って、警備の需要も高まります。

また、この地域の人口を増やすためには、安心・安全な地域だと社会へのアピールも必要です。

それに、格闘家が集まった警備会社があれば、この地域の大きなPRにもなります。

──ご自身も現在は大熊町にお住まいなのですね。

インキュベーションセンターができた2022年頃から、ほぼこちらで暮らしていたのですが、2023年7月に住民票を移して町民になりました。

住民でなければ分からないこと、入れないコミュニティや参加できないワークショップもあり、町民になってよかったと思っています。

除染や復興が進み「前向きな警備」に

──大熊町の警備需要の変遷を教えてください。

震災後すぐに大規模な立ち入り禁止区域が設けられ、そのための警備需要が高まりました。

町の至る所に警備員が立って、立ち入らないようにしていたのです。

この時期がもっとも警備需要が大きかったと思います。

除染や復興が進み、立ち入り禁止が解除されていくに従い、警備需要も減ってきました。

現在増加しているのは、新しい建物が増えてきていることによる、前向きな警備業務です。

ピークの警備需要よりは少ないのですが、今後、間違いなく増えていくものと考えられます。

そこにあるのは、復興を支援するための、前向きな警備業務なのです。

──実際に住んでいて、どのようなことで成長途上であることを実感しますか。

大熊町の場合、立ち入り禁止が一部解除になったのが2019年、町の主要地域が解除になったのが2022年です。

本格的に復興が進められて、まだ約2年なのです。

約5年前には300人ほどだった住民は、本格復興が進められて、2024年7月には800人を超えるまでになりました。

駅前の再開発が進められ、毎年のように大型の建物ができることから、今後、人も建物も増えていきます。

カッコいい格闘家たちのカッコいい警備会社

──現在、大熊町に寄せる思いには、どのようなことがありますか。

ひとつは課題の集積地であることです。

お店も病院もありません。

すべてのことが不足していますし、課題があります。

ただ、新しいことをやりやすいという状況でもあります。

ゼロやマイナスを経験したことで、しがらみなくコトを起こせたり、復興したばかりの自治体には相応の予算もあります。

進出企業も優遇されています。

課題が山積しながらも、そこにはたくさんのチャンスがあるのです。

──プロジェクトを通じて、どのようなことを実現していきたいと考えていますか。

大熊町に住んでいるひとりの住民として、警備会社の存在は町の価値を上げると思っています。

地域の安全性をPRできることなどから、地元からも歓迎されています。

犯罪の抑止力や、住民の方々が戻ること、新しい住民が移住を決めるためのきっかけにもなると期待しています。

まだ小さいながら、確実な需要もあり、収益面でも心配ありません。

カッコいい格闘家たちによる、カッコいい警備会社にしたいですね。

黒田敦史氏プロフィール

ビジネスゲートウェイ株式会社 取締役 黒田 敦史 氏

大学卒業後、電気機器メーカー、コンサルタント会社などを経て独立・起業。専門分野は企業同士のアライアンスを活用した事業開発。株式会社フューチャーアクセス 代表取締役、株式会社 iLab 代表取締役。

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