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「収益ではなく、警備業で安全・安心を守って町を創生したい」 警備ノウハウを伝える警備会社の社長 大熊警備隊を立ち上げたヒーローたち

東日本大震災と福島第1原発事故で大きな被害を受けた福島県大熊町で3月、初代タイガーマスクが応援する「大熊警備隊」プロジェクトがスタートする。これは本物の格闘家が大熊町に移住し、警備員として収入を得ながら、ヒーローとしてトレーニングを積むもの。合弁会社「大熊警備隊」を設立したのは、コンサル企業「ARCOBALENO(アルコバレーノ)」 、警備会社「KSP」(東京都墨田区)、事業プロデュース企業「ビジネスゲートウェイ」の3社だ。「警備」のノウハウを生かして参加するKSP代表取締役・三⻆武一郎氏(51)に話を聞いた。

事業承継の課題を解消し社会貢献に注力

現在の福島県大熊町(2025年、撮影=Dory 誠)

──震災後、被災地とどのようにかかわってきたのでしょうか。

当社は震災後に、災害派遣隊として人員を送ったり、大熊町に隣接する双葉町からさいたまスーパーアリーナに避難した方を24時間体制で警備にあたったりした実績があります。

ただ、現在は福島県内に拠点はありません。

今回のプロジェクトは、震災当時以来の関わりとなります。

当社は東京都墨田区錦糸町に本社を置く警備会社です。

約60年前から埼玉で母方の祖父が経営していた警備会社が前身です。

私が生まれたこともあり、1985年に当時の東京支社を祖父から両親が受け継いで創業しました。

私は大学卒業後、大手警備会社に新卒で就職し、警備業界を経験後、2013年に社長に就任しました。

当社のスタッフはパート・アルバイトが多く、コロナ以前は約500名、現在は約400名が働いています。

業務範囲は首都圏をメインにスポット的に全国展開をしています。

──事業承継時に抱えていた課題と、その解消、今後の課題について教えてください。

資金の流れを明確にして、健全な経営を心がけました。

一方で、社会保険料の企業負担が増加して、ここ数年は再び厳しい経営が続いています。

経費負担の抑制を図るための働きかけを行うとともに、事業の継続やより一層の発展に向けた経営努力を行っているところです。

──今回プロジェクト参加への打診を受けて、どのように思われましたか。

プロジェクトの創設を聞いて、大変興味深く思い、ぜひ参加したいと思いました。

当社には以前から空手家の職員が在籍していたほか、サッカーチームのサポートをするなど、アスリートを支援してきました。

また、当社に限らず、警備業は空手や柔道などのスポーツとも関わりの深い業界です。

元署長の福島県警OBもプロジェクトに賛同

──プロジェクトを機に、本格的に格闘家の採用をスタートしたそうですね。警備業で働く格闘家には、心身の強さ以外にどのようなことが求められるのでしょうか。

管理職として業務するには、警備に関連するいくつかの国家資格が求められ、その取得には実務経験も必要です。

警備業法を遵守しつつ、見識やノウハウをしっかりと身に付けなければいけません。

今は現場も多岐に渡りますから、現場ごとの対応方法なども覚えていただきます。

今回のプロジェクトは、福島県警で署長を務めた警察OBの方にも参加していただき、とても頼もしく思っています。

──震災で被害の大きかった地域をダイレクトに支援するものですが、どのような思いをお持ちですか。

この話を聞いて、初めて大熊町に足を運びました。

正直なところ、想像以上の状況に言葉が出ませんでした。

実際に被災地を訪れて、状況を目の当たりにしたことで、今回のプロジェクトと当社の大きなご縁を感じましたし、何かお役に立ちたいという気持ちを強く感じました。

一方で、「なぜ今からのスタートなのか」という疑問もわいてきました。

震災後すぐは、多くの警備会社が被災地で警備に携わりましたが、現在は落ち着いている状況です。

もっと早く、こうしたプロジェクトが立ち上がっていてもよかったと思います。

だからこそ事業や収益として考えるだけでなく、地域の復興や創生に貢献したいという思いを前面にプロジェクトを進めたいと思います。

地域によい会社を増やし、日本を元気に

──具体的には、東京の警備会社として、現地の事業にどのように関わっていく方針でしょうか

東京から現地にスタッフを送り込むことや、運用のコンサルティング、同業他社への協力依頼などのきめ細やかなサポートを提供します。

合弁会社「大熊警備隊」は、当社の子会社と位置づけられ、現地採用も積極的に行っていきます。

──プロジェクトの将来像について、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

町が今後、どのように発展していくのかは、まだ想像できない部分が多くを占めています。

未知数の可能性を秘めながらも、現在は限定されている部分もあります。

だからこそ、大手の企業ではなく、当社の活躍できるシーンや、やりがいが多数あると感じています。

当社の経営目的は、自社をよくすること、地域によい会社を増やすこと、これによって、よい地域づくりに貢献することです。

とくに、地域づくりに注力しています。

地域によい会社を増やすことで、日本を元気にしていきたいと考えています。

この目的を大熊町でも成し遂げて、社員の豊かな暮らしと幸せの実現を果たしたいと思っています。

──東京と大熊町の警備業務にはどのような違いがあるのでしょうか。

東京には確かに仕事は多いのですが、対応できる人材も限られており、引き受けられないケースもあります。

仕事が増えてもコストがかさんで、利益に貢献しないという現状です。

ただ、保守的に考えるだけでなく、そこにチャンスを見いだすきっかけがあります。

大熊町に新しいアイデアを持つ方が集まり、新しい仕事を創っていこうとしています。

当社もそこに参加して、既存の警備業とは異なる、地域社会に根ざしたビジネスを提案していこうと考えています。

安全・安心を守るという、警備会社に求められる公共的な事業使命を遂行し、地域や人を大切にしていきたいと思います。

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三⻆武一郎氏プロフィール

株式会社KSP 代表取締役 三⻆ 武一郎 氏

1973年生まれ。大学卒業後、大手警備会社を経て、1996年に株式会社KSP入社。2013年代表取締役に就任。2019年退任、2023年に再び代表取締役となり現在に至る。

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