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「通常のビジネス感覚で成立しなくても、やるべきはやる」介護業界の救世主、岡山の企業とは/廃業危機の介護事業者を「救済型M&A」で救い続けて~土屋【前編】

介護業界は今、働き手の不足などから多くの事業者が厳しい経営に追い込まれている。こうした介護事業者の救済に乗り出し、創業わずか3年で全国展開、従業員数2500人を超える規模に急成長した企業がある。「救済型M&A」という手法で、3年間で10件以上のM&Aを実現した。高い志を持って地域に根づいてきた介護事業者の事業を、なぜこれほどのスピードで受け継ぐことができるのか。介護業界の救世主「土屋」(岡山県井原市)の高浜敏之代表取締役社長に、手法と考え方を聞いた。

介護保険から20年超、事業者の高齢化が進行

――創業3年で全国47都道府県を網羅し、従業員は2500人を超えるという、介護業界の中でもトップクラスの成長です。急成長の背景とその理由を教えてください。

高浜 土屋は、2020年、「重度訪問介護」に特化した介護事業として創業しました。6段階ある障害支援区分で4以上の重い障害を持つ人たちが在宅で暮らすための「1対1の24時間介護」という支援サービスをスタートしました。

土屋が創業した時から、介護業界全体の問題が後継者不足です。日本で高齢福祉サービスが本格的に始まったのは、2000年の介護保険がスタートしたタイミングでした。当時30~40代が各地で介護事業を立ち上げました。それから20年以上経ち、事業主の方々が軒並み60~70代を迎えています。

しかし、人手不足などで毎年のように倒産数が過去最多を更新するような経営環境の悪化のため、わが子に継がせたくない事業主が多い状況です。かといって継いでくれる若者もいない。経営状態はさらに悪化し、引退を考える人が増えています。廃業にいたるのが目に見えており、サービスを利用していた人たちが困ってしまいます。

そこで私たちは、後継者問題を自ら解決すべきテーマと捉えて、先の見えない事業者に私たちのグループに入っていただく形で規模を拡大してきました。

福祉事業者の志に寄り添う「救済型M&A」とは

――そこで取り入れたのが「救済型M&A」という手法ですか。

高浜 その通りです。後継者不足などの理由で行き詰まり、私たちのグループに入れてほしいという相談を受けた事業者を対象に、M&Aという形でグループに入ってもらいます。事業譲渡と法人譲渡を合わせますと、この3年で10件以上のM&Aを実現しました。救済が目的ですから、通常のビジネス感覚では成立しない案件でも、やるべきだと思える案件は実施してきました。

――譲渡先は土屋以外にも多数ある中で、事業者が土屋を選ぶ理由とは何でしょうか。

高浜 まずは認知度だと思います。全国規模の介護業者は国内で限られています。加えて、私たちの経営理念に共感していただいた結果だとも感じています。

福祉に従事する事業者は誰もが高い志を持ち、持論や経験を持って運営しています。「誰でもいいから買ってくれ」と思っている人はいません。人やものだけではなく、福祉の精神を受け継いでほしいという思いが強い。

私は今の会社を立ち上げる前から、重度障がい者介護のヘルパーとして現場で働き、長年ボランタリーな活動を続けてきました。そうした経験を元に掲げた基本方針「PPMVV(フィロソフィー・パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー)」に共感をいただき、選んでもらっているようです。

M&Aの失敗は「出会いの段階」にあり

――これまでM&Aで失敗した例は1件もないとのことですが、事業の承継を受ける側として成功のポイントを教えてください。

高浜 自分たちの理念や考え方をしっかりと言語化して発信するということではないでしょうか。会社どうしも人と人との関係と同じで、仲良くやれるかどうか本能的にわかるものです。だからこそ自己開示が「間違った出会い」をなくすことにつながります。

M&Aが失敗するケースでは、はじめの出会いのところですでに失敗していたのではないかと私は見ています。互いにいいところも悪いところも含めて情報を発信することで、ミスマッチは防げるものだと思います。

(文・構成/大島七々三)

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株式会社 土屋 代表取締役 兼 CEO最高経営責任者 高浜 敏之(たかはま としゆき)

慶応義塾大学文学部哲学科卒 美学美術史学専攻。 大学卒業後、介護福祉社会運動の世界へ。 自立障害者の介助者、障害者運動、ホームレス支援活動を経て、介護系ベンチャー企業の立ち上げに参加。 デイサービスの管理者、事業統括、新規事業の企画立案、エリア開発などを経験。2020年8月に株式会社土屋を起業。代表取締役CEOに就任。

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