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歴史を振り返ると見えてくる、事業承継におけるリスクマネジメントの秘策

事業承継に関わるさまざまな側面から、系統立てた学びの場を提供する「サクセッションアカデミー」のSeason2 第2回講座が開催された。今回はSHIFTの「S」、Strategy(戦略)がテーマ。株式会社日本総険 専務取締役の葛石晋三氏をゲストに招き、リスクマネージャーとしての視点から、事業承継とリスクマネジメントなどが語られた。

歴史上の人物を例に、そのリスクテイクから学ぶ、未来への戦略

左:株式会社日本総険 専務取締役 葛石 晋三 氏|中央:一般社団法人サクセッション協会 代表理事 原 健太郎 氏|右:同協会 フェロー 中山 良一 氏

学問としての事業承継を考える「サクセッションアカデミー」Season2の第2回講座が、2025年4月9日に東京・中央区の銀座スタジオで開催された。これは一般社団法人サクセッション協会の主催によるもので、会場には前回を大きく上回る聴講者が集結。同時配信のZOOMウェビナーにも多数が参加した。

 Season2では、課題の山積する現状をしっかりと見つめ直すとともに、従来の事業承継を革新する、新しいアプローチ方法として「SHIFT」を提唱。

シフトを構成する各文字は、Strategy(戦略)、Human Resource(人事)、Innovation(イノベーション)、Finance(ファイナンス)、Technology(テクノロジー)の意味を持つ。

この5つの柱が事業承継と事業創造に結びつくことで、単なる事業承継ではなく、事業創継へと進化していくと捉えている。

経営資源を最大限に活用し、持続可能な成長を実現する次世代の経営プラットフォームこそが、「SHIFT」だ。

第2回となる今回は、SHIFTの「S」、Strategy(戦略)がテーマ。株式会社日本総険 専務取締役の葛石晋三氏をゲストに招き、専門家による具体的な方法論を共有した。

葛石氏は「事業承継とリスクマネジメント」について、歴史上の人物を例に、そのリスクテイクから学ぶ、未来への戦略について講演した。

 「保険業界では、事業承継のリスクマネージメントをすぐ生命保険に結びつけたがります。しかし、経営者の悩みや、事業を受け継ぐ側の課題など、金融以外に重視すべきことがあるのです」(葛石氏)

同氏は、日本の歴史を踏まえて、リスクマネージメントから事業承継について語った。事業承継には戦略が不可欠であり、歴史を紐解くことで理解が深まるという。

 「近代以前は家が事業継承の単位でした。歴史上の著名な事象には、家名を残すための継承が絡んでいることが多く、そこには家を取り巻くさまざまなリスクが存在しました」(葛石氏)

同氏は豊臣家と徳川家を例に挙げて、徳川家が長期体制を構築した背景には、事業承継を戦略的に行うことができたためだと語った。

リスクを恐れて、挑戦をやめるのがリスクマネジメントではない 

リスクマネジメントは「挑戦」のための準備と位置づけられるという。

 「リスクマネジメントは、保守的な文脈で語られることが多い言葉です。事故や火災、リーガルリスクに巻き込まれることなどを恐れ、挑戦をやめること自体が、リスクマネジメントとも言われてきました」(葛石氏)

しかし、実際はそうではない。リスクマネジメントは本来、挑戦のためにあるのだという。

 「新規事業を展開する際に、リスクマネジメントが機能していれば、全力で事業展開することが可能です。リスクマネジメントを意識していなかったり、おろそかになっていたりするから、臆病になり全力で走れないのです」(葛石氏)

織田家、豊臣家、徳川家の中で、徳川家は事業承継の規則を設け、創業家の内紛を防止しており、先人たちの失敗を自分たちは繰り返さないという考えで、リスクマネジメントしていたという。

 「自社内や取引先側にもしっかりとアンテナを張ることが大切です。事業承継におけるリスクマネジメントは、リスクを避ける技術ではなく、積極的なリスクテイクのための準備なのです」(葛石氏)

歴史を振り返ることで、事業承継の現場で起こり得る混乱を予期し、先手を打つことができるという。

自身も「リスクと向き合うこと」を家業した3代目だ。

 「祖父はまだ自動車が普及する前に、四国で保険代理店を始めました。父は保険仲立人の会社を起業しました。私はその後を継ぎながら、『リスクマネージャー』を標榜しています。企業の破綻要因を分析し、回避策を提案する役割です」(葛石氏)

同氏の講演について原代表理事は「事業を受け継ぎ、創造していく上では、必ずリスクが伴います。葛石氏は挑戦者を支え、リスクをマネジメントする第一人者であり、1人目のゲストにふさわしい、すばらしい方です」などと語った。

次回はヒューマンリソース、人事をテーマに4月30日(水)17:00から開催

プログラムでは、100社を超える企業インタビューの事例を基に、承継企業における戦略の特徴を分析。SHIFTモデルを基にした成功体系について、中山フェロー、原代表理事が講演した。

また、講師3氏によるパネルディスカッションも開催された。

 次回、Season2の第3回はSHIFTの「H」、ヒューマンリソース、人事をテーマに4月30日(水)17:00から、銀座スタジオとZOOMウェビナーで実施予定だ。

以降、6月25日(水)まで全6回のカリキュラムが予定されている。参加費は無料。参加資格は賢者の選択サクセッションCLUB会員、サクセッションCLUB入会希望の事業承継当事者、株式会社ミギウデ開催のイベント「右腕の会」参加者などとなっている。

葛石晋三氏プロフィール

株式会社日本総険 専務取締役 葛石 晋三(かっせき・しんぞう)氏

1977年香川県生まれ。駒澤大学法学部卒業。
株式会社日本総険 専務取締役。株式会社日本総険トラストテクノロジーズ 代表取締役。
保険仲立人としてのキャリアをベースに、20年以上にわたり中小企業の事業リスクに向き合い続けるリスクマネージャー。企業経営における“見えないリスク”への対応が専門。
父が創業した保険仲立業を通じて現在は全国1200社超の企業を支援。リスクマネジメントを「守り」ではなく「挑戦の準備」と捉え、顧客企業の意思決定を支えるパートナーであることを信条としている。
2023年、保険仲立人として日本初のTOKYO PRO Market上場を達成。実務と戦略の両軸から、企業の持続可能性を後押しする新しいリスクサービスの開発にも取り組む。

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