COLUMNコラム
大赤字だった沖縄のリゾートホテルを「ど素人」が再建 SNSでバズらせ、黒字化した戦略とは
「僕はいきなり沖縄の大赤字リゾートホテルの再建を託されたど素人!」という台詞から始まるショート動画が、2022年にバズッた。このアカウント「ど素人ホテル再建計画」は、ホテルの経営状況をあけすけに公開したり、視聴者投票でホテルや部屋の名前を決めたりと、再建手法の物珍しさが話題を呼び、瞬く間に人気インフルエンサーに。「ど素人」こと、片岡力也氏(34)はなぜホテルを継ごうと思ったのか、どのように再建していったのか、話を聞いた。
目次
ホテル経営は知名度を上げることが何より重要
――どのようなきっかけでホテルの再建計画に関わったのですか?
昔からバックパッカーとして世界中を旅するのが好きでした。新婚旅行で世界3周目をしている際にコロナ禍に巻き込まれました。当時、西アフリカのカーボベルデという、物価の高い国に閉じ込められてしまって……。
「このままじゃ生活が成り立たない!」と、当時趣味だった動画投稿を本格的に始めたんです。そしたらその動画がバズって、「逆境でも諦めない旅人」と、さまざまなテレビ番組で紹介されました。
そのテレビ番組を観た「なかどまINN(現:BUZZ RESORT、沖縄県恩納村)」のオーナーが連絡をくれたんです。2002年創業のリゾートホテルでした。
――ホテル経営の「ど素人」なのに、なぜホテル経営を担うことを決めたのですか?
実際に沖縄へ見に行くと、海から近く、部屋数は16室でしたがクオリティは申し分ない。実際に口コミも高評価でした。「なぜ予約が少ないのだろう」と考えたら、その理由は圧倒的に知名度がないことだと考えました。ホテルの予約数は、口コミ×知名度で決まると思います。
僕はこれまでライターや動画クリエイターとして活動し、知名度アップを得意分野としていました。そんな僕になら務まるだろうと思い、引き受けることにしました。
――承継してからは、経営状況はどう変化しましたか?
それまで約2000万円の借金を抱えて赤字だった経営を黒字に転化しました。ホテルの稼働率は15%以下から約70%に、客単価は6000円から1万1000円と、約2倍に成長しました。
◆バズる秘訣はコンテンツの稀有性と動画へのこだわり
――ホテル事業を承継し、まず最初に取り組んだことは何ですか?
作戦はいくつか考えましたが、まずはコストが一切かからないSNS運用に手を付けました。
SNSでバズるためには、「稀有性」、つまり今まで観たことがないコンテンツをアップすることが欠かせません。
そこで「ど素人ホテル再建計画」は、赤字であること、素人が経営していること、SNSを駆使してお金をかけずに黒字化を目指すこと、視聴者の力も借りることを、全面に押し出すことにしました。
珍しい4つの要素が掛け算されることで、おそらく世界初のコンテンツになるという確信があったんです。
さらに、ショート動画は最初の2秒で離脱する人が90%以上なので、そこで「おっ」と思ってもらうために、タイトルの付け方にもこだわりました。結果、350万回も再生される動画も発信できました。
「給料は新社会人の初任給程度」でここまで頑張るワケ
――「BUZZ RESORT」の経営権は片岡さんが持っていますが、オーナーは別にいるのですね
はい。僕はあくまでも雇われ社長です。
実は、オーナーからの報酬は新社会人の初任給程度しかもらっていません。あえてそうしていて、当初から業務委託料として受け取っていた報酬額は、黒字になった今でも変わりません。
――それはなぜですか?
当時はホテルの運営も成り立たないほどの経営状況だったので、自分だけ高い報酬を得ようとは思いませんでした。
それに、僕自身もともと沖縄が大好きで、移住前にも30回以上旅行で来ていました。自分が高い報酬を得たいというよりも、ホテルや沖縄全体を盛り上げたいという気持ちがあります。
あとは、「BUZZ RESORT」を再建できれば、SNSを活用したこのビジネス自体が広がっていくことを確信していました。実際、多くのホテルや企業の方から「うちもお願いしたい」と依頼があります。
――今後、ホテル経営を誰かに引き継ぐ予定はありますか?
いつか「ど素人2号」として誰かに任せるのも面白いと思いますが、まだまだやりたいことがたくさんあるので、当面はそのつもりはありません。
それに、ここまでお世話になった方たちへ恩返ししたいという気持ちがあります。ホテルをここまで再建できたのは、沖縄の方と視聴者の協力があってこそなので、本当に感謝してもしきれません。
ホテルもまだまだの状況なので、まずは黒字経営を安定させることを目標にこれからも頑張ります!
――今後、また面白い計画はありますか。
今もさまざまな計画を立てていますが、動画で公開したいので秘密です(笑)。動画を楽しみにしていてください!
■ど素人再建計画 片岡力也氏 プロフィール
1990年12月19日生まれ。旅人だった祖父の影響を強く受け、大学在学中にバックパック旅に没頭。「海外で仕事がしたい」と本田技研工業に入社するも、国内担当の部署に配属となり4カ月で退職。その後独立し、飲食店のプロデュースやシェアハウスの経営、大手旅メディアのライターを経験。2019年12月より世界一周旅行に出発するも、新型コロナウイルスの影響によりカーボベルデで足止めとなる。しかしその逆境をも活かし、活躍の場を広げている。
取材・文/川島愛里
SHARE
記事一覧ページへ戻る