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中小企業、月給で1万円近く賃金上昇 それでも大企業に比べ「防衛的」な中小企業の賃上げ

東京商工会議所と日本商工会議所による「中小企業の賃金改定に関する調査」の結果が、6月5日に発表された。物価上昇や人手不足を背景に、賃上げの機運が高まっているが、大企業に比べて中小企業の賃上げのペースは伸びない。調査からは、「防衛的な賃上げ」をする中小企業の姿勢がうかがえる。

中小企業1979社の調査結果は

7月3日に連合が発表した2024年春闘(春季労使交渉)における企業側の最終集計結果では、平均賃上げ率は前年比1.52ポイント増の5.1%と、1991年以来33年ぶりに5%を上回った。しかし、これは上場企業を始めとした大手企業が平均を大きく上振れさせているからだ。

では、実際に雇用の7割を占める中小企業の賃上げの実態はどうか。今回の調査は、全国47都道府県の中小企業1979社に対し、2024年4月19日~5月17日に行われた。以下に、結果のポイントを挙げる。

ポイント① 防衛的賃上げが約60%

2024年度内に賃上げを実施予定とした企業は全体の74.3%。2024年1月の調査に比べ13.0ポイントアップしたが、このうち「他社がやるからやむを得ず」という理由の「防衛的な賃上げ」は59.1%にのぼった。

ポイント② 企業規模が小さいほど鈍い賃上げ

従業員が20人以下の企業のうち「賃上げを実施予定」は63.3%で、うち「防衛的な賃上げ」は64.1%と、企業規模が小さくなると賃上げの動きがさらに鈍くなっている。

ポイント③ 好調な卸売・製造業

業種別では、「賃上げを実施予定」が卸売業・製造業で80%を超え、最も低い医療・介護・看護業では52.5%だった。全業種が50%を超えた。

ポイント④ 人手不足の運輸業が「防衛的」

「前向きな賃上げ」は、情報通信業、宿泊・飲食業、金融・保険・不動産業が50%を超えた。一方で、人手不足から2024年問題の渦中にある運輸業は「防衛的賃上げ」が70%超に及び、業種により格差が出た。

ポイント⑤ 正社員は月給1万円近く上昇

正社員の賃上げは、月給で9662円、賃上げ率3.62%(加重平均)。社員20人以下の企業では、月給で8801円、賃上げ率3.34%(加重平均)。業種別では、その他のサービス業、小売業で4%台と高く、運輸業、医療・介護・看護業は2%台にとどまる。

ポイント⑥ パート・アルバイトは時給37・6円上昇

パート・アルバイトなどの賃上げは時給で37.6円、賃上げ率で3.43%(加重平均)。社員20人以下では、時給で43.3円、賃上げ率で3.88%(加重平均)。業種別では、医療・介護・看護業および運輸業で4%台後半と高くなっている。

事業承継を迎える企業は

大手企業に比べて、中小企業の賃上げ率が低く、また正社員に比べてパート・アルバイトの賃上げ率は低い。また他社がやるから仕方なくという「防衛的賃上げ」が多くを占めている。

今後、事業承継のタイミングを迎える企業にとって、人材確保のために賃上げは重要なポイントになる。中小企業の経営者にとっては、価格転嫁などによる収益改善で、事業継承の道筋を作ることが求められる。 

取材・文/ジャーナリスト 三浦 彰

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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