COLUMNコラム
【事業承継】経営承継円滑化法を徹底解説
令和3年8月2日に施行された「経営承継円滑化法」は、事業承継を考えている中小企業に大きな影響を与える法律です。この法律の改正によって、事業承継がよりスムーズに進むような環境が整備されることが期待されています。本記事では「経営承継円滑化法」の改正について、変更点とその影響について解説します。
目次
経営承継円滑化法とは?
経営承継円滑化法は、正式名称を「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」といい、その名のとおり、日本の中小企業の事業承継を円滑なものにするためにつくられた法律です。
事業承継が難航する背景には、後継者不足や経営者の高齢化、承継に関する知識や情報が十分に行き渡っていないことが挙げられます。また、承継時に生じる税負担や法的手続きの複雑さも、経営承継の障壁となっています。
このような状況を改善し、経営承継が円滑に進むようにするために、2008年10月に施行されたのが経営承継円滑化法です。税制面での支援や情報提供・相談の充実、M&Aによる事業承継の促進など、さまざまな施策を盛り込んでいるため、中小企業や事業者が経営承継を行いやすくなることが期待されています。
具体的には、以下の3つが挙げられます。
①遺留分に関する民法の特例:遺留分減殺請求によって自社株式を後継者に集中させることができます。
②金融支援制度:税金の支払いや、分散してしまった自社株式の買い取りなどのための資金調達を支援する制度です。
③事業承継税制:相続税・贈与税の納税猶予が受けられます。
④所在不明株主に関する会社法の特例の前提となる認定
①については中小企業庁において確認を行なっており、②〜④については各都道府県において認定を行っています。
④については、令和3年8月2日施行の「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律」に伴う経営承継円滑化法の改正により、所在不明株主に関する会社法の特例の前提となる認定が新設されました。
ここからは①〜④について個別に見ていきましょう。
①遺留分に関する民法の特例
遺留分に関する民法の特例とは、遺留分で「モメる」リスクを軽減する特例のこと。相続において、民法では「遺留分」という権利があることをご存じでしょうか。一定範囲の相続人であれば、遺言にかかわらず、遺産をもらえる権利のことです。遺留分を侵害された相続人は、侵害された分の金銭を請求する権利があります(遺留分侵害額請求権)。
ただし遺留分によって、承継後の経営が立ち行かなくなることがあります。たとえば中小企業において、経営者が株主となっているケース。この場合、自社株式や土地が後継者に渡らなければ、経営はうまく継続できないでしょう。とはいえ、遺留分がある以上、後継者だけに財産が相続させることもできない――。そんなときに使えるのが「除外合意」です。除外合意とは、後継者に贈与された自社株式などの価額を、遺留分を算定する際の価額から外すことをいいます。これは先代の生前に、後継者と推定相続人全員で同意することによって成されます。
「固定合意」についても知っておきましょう。固定合意とは、遺留分算定時、自社株式の価額を合意時の時価に固定することです。「除外合意」と「固定合意」は組み合わせることも可能で、経済産業大臣の確認の上、家庭裁判所の許可を受けることで有効となります。
②金融支援制度
中小企業が事業承継するにあたっては、分散した自社株式の買い取りや、相続税の支払い、引き継いだ企業の運転資金など、多額のコストがかかることがあります。
そこで、中小企業の負担を軽減すべく、経営承継円滑法では、都道府県知事の認定を受けた会社または個人に対して以下の特例措置をとっています。
1.中小企業信用保険法の特例:金融機関から資金調達しやすくするために、信用保証協会の通常の保証枠とは別枠が設けられる特例。
2.日本政策金融公庫法等の特例:会社の代表者または事業を営んでいない個人でも、日本政策金融公庫などからの制度融資が利用できる制度。
金融支援を希望する場合は、経営承継円滑化法による都道府県知事の認定と、金融機関や信用保証協会による審査を受ける必要があります。
③事業承継税制
事業承継税制とは、後継者が中小企業の株式を相続や生前贈与で引き継いだときに、本来支払うべき多額の相続税や贈与税の納税猶予(または免除)される制度です。
事業承継には、贈与税や相続税などの税金や、株式の買い取り費用などのコストがかかります。この株式買取り費用は後継者が負担するものであり、しかも贈与税・相続税の支払いは現金一括が原則ですので、策を怠ると納税で資金が底をついたり、そもそも事業承継ができなかったりするケースもあります。
したがって、相続税や贈与税の支払いが猶予(または免除)となるのは非常に大きなメリットといえます。
ただし、事業承継税制の特例措置における適用期間は、2018年(平成30年)1月1日から、2027年(令和9年)12月31日の「10年間限定」です。
そして、この特例措置の適用を受けるには「2024年(令和6年)3月31日まで」に特例承継計画を策定し、都道府県知事に提出したうえで認定書を受領しなければなりません。承継計画の作成はそれなりに時間がかかる可能性もあるため、早めの準備が必要です。
④所在不明株主に関する会社法の特例の前提となる認定
都道府県知事の認定を受けることおよび所要の手続を経ることを前提に、所在不明株主(株主名簿に記載はあるものの、会社から連絡が取れなくなり、所在が不明になってしまっている株主)からの株式買取り等に要する期間を短縮する特例が新設され、令和3年8月に施行されました。
会社法上、株式会社は、株主に対して行う通知等が「5年」以上継続して到達しない場合、所在不明株主が保有する株式の買取り等の手続きが可能となりますが、本特例によりこの「5年」が「1年」に短縮されます。これにより、事業承継の際の手続利用のハードルが大きく緩和されたといえます。
まとめ
悩める企業を救う「経営承継円滑化法」。事業承継における負担を減らしたいなら、チェックしておいて損はありません。いずれにせよ、適用を受けるには手続きが必要になります。プロに相談し、適用条件を確認することから始めてみてはいかがでしょうか。
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