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金庫株(自己株式)って? 事業承継に活用するメリットや注意点を徹底解説

経営者が亡くなった場合の事業承継においては、株式が分散されて経営権が弱まったり、高額な相続税が後継者に課されたりという問題があります。優良な状態で事業承継を行い、将来的に事業を継続させていくためには、こうした問題にあらかじめ対処しておく必要があります。その際に活用できるのが「自己株式」、俗にいう「金庫株」です。この記事では、事業承継を検討している方向けに、事業承継における金庫株の活用方法と金庫株を取得する際の注意点について解説します。

金庫株とは?

「金庫株」という用語は、厳密には「自己株式」の俗称です。2001年に施行された商法改正以降、企業は自社で発行した株式を株主から買い戻し、自社内で保有することが可能となりました。「自己株式を自社内に保管する」というイメージから、「金庫株」という名称が一般化したものとされています。
金庫株は、事業承継において活用できるメリットがあり、大まかに2種類に分けられます。まずは、それぞれのメリットについて見ていきましょう。

事業承継での活用法―株式の分散防止

株式会社の経営権は、株式の持ち株比率によって変わります。強固な経営権を有していた方が亡くなった場合、その方が持っていた株式は法定相続人に相続されます。しかし、法定相続人の分散度合いが高いと持ち株比率は下がり、事業経営を行う権力がなくなってしまうのです。そこで株式を金庫株として自社保有すれば、法定相続人の分散を防ぎ、持ち株比率を高められるため権力を維持できます。
なお、持ち株比率は、5割以上の比率であれば「株主総会における普通決議」が可能ですが、より強固な経営権を有したい場合は約7割の比率で株式を有しておくことがおすすめです。

可能な限り、経営者の方が存命のうちに金庫株の保有に着手しておいた方が安心ですが、亡くなった後でも分散した株式は集められます。その際に必要となるのが「売渡請求」です。「当該株式が譲渡制限株式である」「定款に売渡請求が可能であると明記されている」「自己株式取得が財源規制に違反しない」という3つの条件を満たしている場合に限り、他の相続人に対して自社株の売渡請求が可能となります。

株式の分散は事業の継続に大きな影響を与えるため、事業承継にあたっては必ず株式の分散対策を講じるようにしましょう。

事業承継での活用法―相続税の負担軽減

事業承継に際しては、高額な相続税が課されることになりますが、金庫株を活用すれば税負担を軽減できる可能性があります。簡単な方法としては、相続した株式を会社に買い取ってもらい、その買い取り金を相続税の支払いに充てることが挙げられるでしょう。「金庫株としての買取」になるため、株式の分散による事業経営への影響がないというメリットがあります。

加えて2点、税負担を軽減できる方法があるため、併せて把握しておくとよいでしょう。
1つ目は、「金庫株特例」と呼ばれる優遇措置の利用です。通常、個人が会社に株式を売却することは「みなし配当」として扱われ、その際の配当金課税は最高税率で55%と非常に高額となっています。しかし、事業承継に際して相続・遺贈という形で株式を得た場合、「相続手続き開始後3年10カ月以内」に売却することが条件になります。そのため、みなし配当ではなく「譲渡所得」として扱われ、課税率は15%まで激減するのです。

2つ目は、以下の条件を満たしている場合に限り認められる「相続税の取得費加算特例」です。

・相続、遺贈または死因贈与によって財産を取得した個人であること
・財産の取得者が相続税を納めていること
・財産の相続開始日から3年10カ月以内に譲渡していること

これら条件を満たしている場合、相続した財産の売却または譲渡に際して得られた利益について、課される所得税率を軽減できます。事業承継において会社に売却した株式に相当する相続税を取得費に加算することで、所得税額の減額が可能です。

金庫株取得時の注意点

事業承継時にメリットを発揮する金庫株ですが、注意しておきたいポイントも何点か存在します。代表的な4つの注意点について見てみましょう。

ある程度の資金が必要

株式を金庫株として買い取れるだけの資金が会社になければ、金庫株取得は実現しません。事業承継における金庫株のメリットだけに焦点を当てず、会社には金庫株取得が可能なだけの余裕があるのかどうか確認を行い、あらかじめ資金の準備をしておきましょう。

分配可能額に制限がある

金庫株の買取は、最終的に株主に対して会社の資金を配当する行為にあたります。配当額が度を越してしまうと、会社の債権者が資金を回収できない恐れがあるため、会社の分配可能額はあらかじめ設定されています。計算式にすると、「会社の利益剰余金-債権者への支払額=分配可能額」です。
金庫株の活用に際しては、債権者に対して支払い可能な状態が前提であることを把握しておきましょう。

取得情報を公開しなければならない

金庫株の取得時には、会社法に基づき他の株主全員に対して金庫株の取得情報を公開する義務があります。株主間での公平さを保つために、この報告義務が存在しています。事業承継において、特定の株主からのみ金庫株を買い取る、または買取価格を変更することを考えている場合は、この報告義務が存在することを覚えておきましょう。

キャッシュフローへの悪影響

会社に入ってくる現金を「キャッシュ・イン・フロー」、会社から出る現金を「キャッシュ・アウト・フロー」と呼び、合わせて「キャッシュ・フロー(現金の流れ)」と呼びます。算出方法は、「収入額-支出額=残資金」となりますが、金庫株の取得は会社にとって支出のみが発生する取引です。そのため、ある程度の資金が用意できているからといって金庫株を取得しても、後のキャッシュ・フローに悪影響が生じる恐れがあります。
事業承継を行う際は、節税や経営権の保持なども重要ですが、末永く事業を継続していくためには使えるキャッシュが不可欠です。金庫株の取得によってキャッシュ・フローに悪影響が出ないように注意しましょう。

まとめ

事業承継を行うにあたって、金庫株=自己株式を活用することは節税効果や経営権の保持(株式分散防止)に効果的です。しかし、あらかじめ把握しておくべき注意点を失念していると、せっかく受け継いだ事業を継続できなくなる恐れがあります。そのような事態に陥らないためにも、債権者への支払いも含めた余裕のある資金準備と、全ての株主への配慮が必要です。
事業承継における自己株式(金庫株)の活用については、こちらの記事でも解説しています。併せてご覧ください。
「事業承継で自己株式を活用するメリットは?」

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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