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なぜ、「日本交通」と「陣屋」は事業承継を成功できたのか?

事業承継は会社を変えるきっかけでもあります。事業承継を機に、事業を大きく伸ばせることもあれば、その逆もありえるのです。本記事では、有名企業の事業承継の例から「事業承継ですべきこと」を読み解き、ポイントを紹介します。

日本交通株式会社の成功事例

日本交通は創業95年、グループでの売り上げが日本ナンバーワンのタクシー会社です。3代目の川鍋一朗氏は2005年、業界最年少で代表取締役社長に就任し、経営難に苦しんでいた日本交通を大胆な経営改革で立て直しました。

一朗氏は慶應義塾大学経済学部を卒業したのち、アメリカでMBAを取得する道を選びます。「30歳までは外で修行をしよう」と考え、帰国後はマッキンゼー・アンド・カンパニー・ジャパンに入社。30歳になると、家業である日本交通に入社します。

入社後はベンチャー経営者と積極的に交流。その理由は「3代目仲間と会うと楽しいけど、このままでいいやという感覚になってしまうから」です。

ベンチャー経営者はゼロから事業を立ち上げ、丸腰で戦っている。一方、継承者は既存ビジネスがあるから「このままでいいや」という気持ちになってしまう。「このままでいいや」という状態をいかに抜けるかが、2代目、3代目の大命題なのだ――。一朗氏はそう語ります。

実際、入社後わずか半年で会員制ミニバン・ハイヤー事業を展開する子会社を設立。多額の赤字を出すという失敗も経験しました。

そんな一朗氏は「とにかくたくさん挑戦することが大事。継承者は失敗してもクビになることはないのだから、早いうちにたくさん失敗したほうがいい」といいます。

そうしていくつもの挑戦をしたのち、専門の乗務員による特別なサービスを提供する「エキスパート・ドライバー・サービス(EDS)」を開始。観光案内のできる乗務員や、介護研修を受けた乗務員が接客にあたり、話題を呼びました。

Uberが登場し、業界に激震が走ったのは、2011年のことでした。

そこで一朗氏が考えたのは「タクシービジネスはITビジネスになった」ということ。テクノロジーの力によって、タクシー会社の売上確保において最も重要な「お客さまとのマッチング」のあり方が大きく変化したため、「いかにITを本業としてとらえるか」が事業のキモになったのです。

折しも当時の日本交通は、日本初のタクシー配車サービス「Japan Taxi」をリリースしたタイミングでした。そこで、IT分野を強化すべく、DeNAの配車サービス「MOV」と事業統合。日本交通ならではの経験とDeNAのIT技術をかけ合わせて配車アプリ「GO」を生み出し、今や日本のライフラインともいうべきサービスとなっています。

一朗氏は44歳で代表取締役社長を退任し、代表取締役会長に就任しました。その理由は「タクシー業界がIT業界のようになった今、事業承継しないと、日本交通は生き延びられないと思ったから」。ITに詳しいプロ経営者を迎え入れ、自身は会長として業績をますます拡大させています。

【日本交通に学ぶ、事業承継成功のポイント】
・とにかくたくさん失敗を経験し、成功への糸口を見つける
・業界の変化に合わせて後継者を選び、思い切って任せる

【特別インタビュー動画をご覧いただけます】
【第12回放送】日本交通株式会社の事業承継 (本編)

株式会社陣屋の成功事例

敷地1万坪を誇る、神奈川県の旅館・元湯陣屋。将棋のタイトル戦が行われるなど、歴史ある老舗旅館です。

そんな陣屋ですが、一時は負債総額が10億円にのぼり、倒産の危機にありました。そんな危機から陣屋を救ったのが、4代目女将の宮崎知子氏です。3代目だった義父が急逝、義母も体調を崩して引退せざるをえなくなったことから、2009年、31歳のときに夫婦で事業承継しました。

承継後、真っ先に目をつけたのは「スタッフ間での情報共有が不十分である」という課題。20室という客室数に対して、社員が20名、パートが100名以上と、従業員の多さが経営を圧迫しているだけでなく、敷地の広さゆえに情報共有が難しく、オペレーションがうまくいっていなかったのです。

そこで知子氏は「業務管理システムが必要だ」と考えます。2009年10月に入社し、わずか2カ月後にエンジニアを採用。翌1月には、自社開発の業務管理システム「陣屋コネクト」の開発に取り掛かりました。

陣屋コネクトでは、予約受付から提供する料理内容、スタッフの勤怠管理、日々の報告、在庫管理、経営分析まで、さまざまな情報を一元管理できます。宿泊客の到着は全スタッフにリアルタイムで共有され、それに合わせてスタッフを配置。宿帳もタブレットで記入し、接客中に得られたアレルギー情報なども陣屋コネクトで迅速に共有されます。

陣屋コネクトを導入したことで、瞬く間に経営が改善。わずか2年半で黒字への転換を成功させました。

その後、陣屋コネクトが社内に定着し、改善要望が上がりにくくなったことから、システム改善のために外販を決断。2012年から外販を開始し、今では売上の半分近くが「陣屋コネクト」によるものとなっています。

スタッフへの還元として、知子氏は旅館としては異例の週休3日を実現。地方で存続の危機にさらされている小規模旅館の事業承継を後押しするなど、日本の観光業界が抱える課題に挑戦し続けています

【陣屋に学ぶ、事業承継成功のポイント】
・事業の現状を見つめ、スピーディーにアクションする
・業界全体を盛り上げるために行動する

【特別インタビュー動画をご覧いただけます】
【第7回放送】株式会社陣屋の事業承継(本編)

まとめ

有名企業の事業承継の成功事例を2つ、紹介しました。

日本交通と陣屋に共通していたのは、テクノロジーの力をうまく活用すること。専門外であっても、その必要性を感じたらすぐさま行動に移す姿勢は、会社を発展させていくために欠かせないものなのです。

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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