COLUMNコラム
街で35年ぶりの新船、曽祖父が作った漁業会社を再生した道のり 漁業は結局「神頼み」、それでも「ノドグロ日本一」を目指して
漁業事業会社「株式会社 浜田あけぼの水産」(島根県浜田市)は、前身の室崎商店時代を含めると、今年で創設100年を迎える。経営不振で破綻寸前だった室崎商店は、企業再生支援機構の出資を受けて「浜田あけぼの水産」として2011年に再出発した。現在は、高級魚ノドグロの漁獲量が好調で、水産加工品の商品開発にも力を入れている。2014年に会社を引き継いだ室﨑拡勝氏に、事業再生に立ちはだかる壁と今後の展望について聞いた。
目次
「ワンマンな社長にはならない」
――浜田あけぼの水産を事業再生していくため、まず取り組んだことは何でしょうか。
室﨑 企業再生支援機構とファンドから事業再生の柱として提示されたのが、2012年から2017年にかけて、保有する3船団をリシップすることでした。リシップとは、老朽化した漁船を大規模改修することです。
漁船は古ければ古いほど、修繕費が上がります。リシップして修繕費を改善し、ランニングコストを抑えることができます。さらに船内の居住空間を改善すれば、労働環境の整備や乗組員を確保するための待遇向上にもなります。
代表取締役に就任してからは、「ワンマンな社長にはならないこと」を心がけました。社長が全てを判断する、全て社長に話を通さないといけないシステムは、まったく合理的ではありません。
もちろん社長が判断しなければならない案件もありますが、それ以外は社員が自発的に仕事を回せるように、極力口出しをしないように心がけています。
漁業は「神頼み」
――事業再生していく中で、最も苦労したことは何でしょう?
室﨑 漁業は、本当に経営努力だけでは業績が上がらないんです。外部環境に大きく左右されてしまう事業です。例えば、船に使用する燃料は原油の相場によって大きく変わります。魚の値段は、市場で競りにかけられますが、相場によって売上げが変わってしまいます。天候によっては、漁に出られないこともあります。
どうにもならないことが多すぎるのですが、愚直に経営努力をしていかなければならない。そこには、もどかしさと苦労を感じました。
――どのような経営努力に取り組んだのですか?
室﨑 やはり一番大きいのは船の修繕費でした。漁業には、休漁期間というのがあります。6月から8月半ばは休漁期間と定められていて、漁には出られません。
その間に船をメンテナンスしますが、しっかりと修繕するとコストがかかります。しかし、修繕を疎かにすると、故障で船が出せなくなるリスクが伴います。バランスを取るため、乗組員にヒアリングして、船の状態を把握するように努めました。
地道な経営努力ですが、経営の安定を目指して、できることは全て取り組んできたつもりです。
「日本海から食卓へ」消費者に魚を届ける
――漁船の乗組員とはどのようにコミュニケーションを取るのですか?
室﨑 みんな職人肌なので、本当に難しくて…。日々、勉強中です(笑)。
心理学の本やビジネス本を読み漁ったこともありました。その中で気付いたのは、上下の関係ではなく、横目線で話せるような関係づくりが大切だということです。
お酒は苦手なのですが、飲み会に参加することや、一緒に麻雀をすることもあります。
1度だけ、4日間ほどの漁に一緒に出たこともあります。私は船酔いで横になってばかりでしたが、それでも漁師の仕事は本当に大変だと痛感しました。
――浜田あけぼの水産の設立から、2年目に黒字化して、その後の売上高はどのように推移しているのでしょうか。
室﨑 魚が取れるかどうかは、結局「神頼み」なのが漁業ですが、2012年に10億円だった水揚げ金額は、2018年には12.7億円、2023年には13.3億円と、少しずつですが伸びています。
――経営が黒字化したことで、会社に変化はありましたか?
室﨑 黒字が安定してきた2016年には、企業のロゴマーク制定と、社業推進の方針を「海の幸を、明日の命に。」と題した企業メッセージとして明文化しました。また「日本海と食卓をつなぐ。」という企業理念を策定して、従業員が同じ方向を向いて進んでいけるよう取り組んでいます。
2019年には地元の水産加工業者を完全子会社化し、通信販売による販路開拓を試みています。将来的に大きく育てていきたい事業です。2023年には、浜田市で35年ぶりとなる底曳網漁船を新造しました。ただ、正直まだ経営の難しさを実感しているところです。
「ノドグロ日本一」を目指して
――次の100年に向けて、浜田あけぼの水産が描く未来像を教えてください。
室﨑 まずは魚価を上げて、売上げを伸ばすことです。それによって地元が盛り上がり、企業再生でお世話になった地域に恩返ししていければと思っています。
特に人気のノドグロの漁獲量は国内でも有数ですが、ただ漁獲するだけなく資源も大事にしながら「日本一」と自信を持って名乗れるように挑戦をしていきます。魚を獲って、加工・販売、さらに関連事業への進出など、海から消費者への一気通貫の6次産業化を進める。「日本海と食卓をつなぐ会社」として、消費者に商品を届け、従業員にも理念を浸透させていきたいです。
もちろん難しい事業ではありますが、「美味しい」の声が従業員に届けば、働きがいにもつながるはずです。
株式会社 浜田あけぼの水産
2011年12月、前身である株式会社 室崎商店の漁業事業を引き継ぐ形で設立。島根県浜田市に本社を置き、沖合底曳網漁業を営む。2019年には地元の鮮魚販売および水産加工品製造・販売会社を子会社化し、新たな商品の開発に取り組んでいる。
(文・構成/庄子洋行)
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