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デジタル化が進んでも「三菱鉛筆」が過去最高売上高を達成した理由 「自分は弱いって知ってますから」老舗の6代目

日本人なら誰もが知る鉛筆「uni」を製造する老舗文具メーカー「三菱鉛筆」。6代目の数原滋彦社長は、2020年に41歳の若さで先代の父から会社を承継しました。デジタル化とコロナ禍という逆風の中、2022年度に過去最高売上げを達成しています。今年、独高級筆記具「LAMY」を連結子会社化した数原氏に、社長就任への道のりと、「表現に寄り添う」新事業について聞きました。

コロナ禍で社長就任、「つらい状況」

野村総研に勤めていた2005年、当時社長だった父から「そろそろ三菱鉛筆に戻ってくるか」と言われ、三菱鉛筆に入社した数原氏。入社後は、群馬工場長や経営企画担当取締役などを歴任しました。同じポジションには最長でも2年と、多様な部署を転々としました。

大手企業の野村総研から転身してきた数原氏の目に、多くの課題が映りそうなものですが、「当社のいいところを勉強させてもらう日々でした」と振り返ります。

そして2020年、コロナ禍のまっただ中に社長に就任しました。街中で多くのオフィスが閉まり、文房具の需要は大きく下落しました。「一番つらい状況だった」といいます。

コストカットせず、新事業へ

しかし、多くの企業がコストカットに乗り出す中、数原氏は社長として最初に新規事業のチームを結成しました。

入社以来、デジタル化の波を見てきた数原氏。「書くこと」は少なくなっていくことは時代の成り行きだと感じていました。「一本足では厳しい。もし売上がゼロになったら、どれだけ会社が存続できるのか」。財務部門の分析によると、2年間は存続できると分かりました。

ならば、じたばたするのではなく、長期的な視野の新規事業に踏み出そう。そうして生まれたのが「Lakit(ラキット)」というサービスです。

文房具を通じて表現に寄り添う「Lakit(ラキット)」とは

三菱鉛筆の存在価値は何か。議論を重ねる中で、筆記具というモノを売るだけでなく、筆記具を通じて「書く、描く」という“表現体験そのもの”を提供するという方向性が浮かびます。そして、筆記具をはじめとするレッスンに必要な道具をキットとして、このキットとオンラインレッスンを組み合わせたサービス「Lakit(ラキット)」が生まれました。

「Lakit(ラキット)」について、数原氏は「お客さんの表現活動、夢の実現に寄り添うことになれば」としつつ、経営的な面からは「新しいことにチャレンジした社員が生み出してくれた点」と意義を語ります。

コロナ禍にありながら、社員が自由に力を発揮して生まれたサービスは、企業にとって代えがたい財産でした。そして、2022年、三菱鉛筆は過去最高を更新する680億円超の売上げをたたき出しました。

「支えるタイプ」のリーダー像

数原氏は、自らのリーダー像を「支える型」と語ります。社長になる人の多くは、「自分は強い」「強くならなければいけない」という自意識を持っています。しかし、数原氏は「自分は弱いって知ってますから。だから、色んな仲間の力を頼っていけばいい」と話します。

社員が力を発揮すれば、自分は目立たなくてもいい。社長は縁の下の力持ちで、主役は社員だ。それは、先代までが、現場を大切にする組織を作り上げ、研究開発の投資などで高いレベルの社員を育ててきたバックボーンがあるからこそ、可能だといいます。

三菱鉛筆は2022年、創業150年にあたる2036年を見据え、「世界一の表現革新カンパニー」になるというありたい姿(長期ビジョン)を掲げました。そこには、社員がチャレンジして生み出した「表現に寄り添う」新規事業への期待と敬意、そして、かつて世界に負けない鉛筆を作ろうとした三菱鉛筆の社風がにじんでいます。

三菱鉛筆株式会社

1887年(明治20年)、東京市四谷区内藤新宿1番地にて創業。1901年、逓信省(現 総務省)へ初めての国産鉛筆(局用1号・2号・3号)を納入。1958年、高級鉛筆「ユニ」(当初4H~4B)発売。2020年に数原滋彦氏が6代目代表取締役社長に就任。第32回日本文具大賞2023にて「uni 詰替用」がグランプリを、ほか3商品で2023年度グッドデザイン賞を受賞するなど、受賞歴多数。

【この記事の続き】三菱鉛筆、実はアジアや欧米でも大人気 「鉛筆屋さんって大変じゃないの?」6 代目が語る「北極星」
【この記事の前段】みんな使った三菱鉛筆の高級鉛筆「uni」愛され66年 「お前が社長になれると思うな」突き放された老舗の6代目

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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