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「イタリア産和牛ってどういうこと?」世界で高まる和牛人気 「街のお肉屋さん」が海外売上げ100倍を達成できた理由

国産の牛肉は、今や世界中で人気を博しており、輸出量・額とも、年々増え続けています。そんな中、京都で「街のお肉屋さん」として親しまれてきた食肉加工・販売企業「銀閣寺大西」(京都市左京区)が、世界31カ国で「和牛」の販売を展開し、売上げを急拡大しています。和牛自体の価値もさることながら、「銀閣寺大西」の独自の取り組みで、海外売上げを6年ほどで100倍に押し上げました。その立役者となった大西英毅・銀閣寺大西常務取締役に、大ヒットの背景について聞きました。

和牛人気のあまり、イタリア産やオーストラリア産が…

「イタリア産和牛とか、オーストラリア産和牛って知ってます?和牛と銘打てば高く売れるから、少しでも日本の血統が入っていたら『和牛』として出回るんですよ」。イタリアで現地法人代表を務める大西氏は、欧米の和牛人気が非常に高いことを示すエピソードを語ります。

独立行政法人「農畜産業振興機構」によると、牛肉の輸出量は、2012年に1000トン弱だったのが、2021年には約8倍の7879トンに増えています。さしが多く入って柔らかい「和牛」は、欧米やアジアなどで、牛肉の中でも最高の評価を得ており、「一般的な牛肉とは、ほぼ別ジャンル」(大西氏)だといいます。

銀閣寺大西は、1930(昭和5)年創業の「食堂兼下宿」をルーツに持ち、本店の他、京都市を中心にスーパーなどに店舗を構え、京都市民にとっては、「街のお肉屋さん」として親しまれています。

2015年、銀閣寺大西は「和牛」の輸出を始め、現在は、イタリアやシンガポールなどに現地法人を立ち上げ、計31カ国で「和牛」を販売するグローバルな展開を見せています。海外の売上げは、わずか6年で100倍になったという急成長ぶりです。

育成した超高級ブランド「村沢牛」

大西英毅さんは、かなりの頻度で海外出張しているという

銀閣寺大西が急成長したのは、現地法人を立ち上げることで物流システムを自社で統括し、大手商社や卸業者に払うマージンをカットできたという側面があります。しかし、コストカットだけで成功したわけではありません。大西氏は、重要なポイントとして「品質」と「情報」だといいます。

銀閣寺大西は、30年以上前から独自ブランドの育成を進めてきました。その代表が長野県で生産される「村沢牛」です。

村沢牛は、「松阪牛」や「神戸牛」のような産地名のブランド牛ではありません。日本では非常に珍しい、個人名を冠したブランド牛です。1990年代前半から、銀閣寺大西が、生産者の村沢勲氏、後を継いだ息子の淳平氏と、二人三脚でブランドとして育ててきました。

肥育方法にこだわった「村沢牛」は、風味がよく味が濃厚な超高級和牛として国内外で非常に高い評価を得ています。

「和牛はフランスワイン」

大西氏が銀閣寺大西に入社したのは2017年でした。元はオリックスに勤め、ベトナムやシンガポールで投資などの仕事に関わる中で、日本の食品の高い人気も感じていました。食肉業界は未経験でしたが、銀閣寺大西の食肉を知り「この品質なら、必ず勝負できる」と考えたといいます。

和牛の品質について、大西氏は「フランスワインのようなもの」と言います。ワイナリーごとに全くワインの味が異なるように、和牛も産地が同じであっても、肥育の技術や方法によって、味は全く異なるといいます。

「長年かけて、村沢牛のようなフランスワインのようなブランディングをしてきた。だからこそ、高品質のブランド和牛を安定して、自信を持って供給できる」と強みを語ります。

「コマ切れ」の概念、シンガポールに定着

「品質」に加えて、もうひとつ重要なのが「情報」とはどういうことでしょうか。さしが多く、やわらかい和牛は、海外ではなじみが薄いのです。このため、銀閣寺大西では、輸出・販売と同時に食文化も伝えています。

たとえば、シンガポールに開設した小売店では、「コマ切れ」を販売しました。しかし、シンガポールでは牛肉はステーキやミンチで食べるのが一般的で、「コマ切れ」という概念がほとんどありませんでした。

銀閣寺大西は、シンガポールの小売店で「コマ切れ」を販売するとともに、直接消費者に調理法を伝えるなどして、シンガポールに「コマ切れ」という概念を定着させました。

牛を育てる段階から日本は違う

さらに、日本と海外の食肉や畜産の文化の違いもあるといいます。

大西氏は、「海外では、食材として供給された肉をいかにおいしくするか、に重点が置かれている」と指摘します。調理法やエイジングなどの多様な工夫があるといいます。

一方の日本では、肥育の段階から飼料や育て方などで細やかな技術やノウハウが蓄積されています。こうした「育てる段階」からブランドを構築する感覚は、海外にはあまりないといい、大西氏は「和牛の中でも、日本産はキングオブ和牛という扱いです」と語ります。

農水省もバックアップ

銀閣寺大西は精肉加工品も販売している

農林水産省は、牛肉を輸出拡大余地の大きい重点品目に位置付け、輸出を促進しています。2023年12月、大西氏は、農水省からイタリアを拠点とした「日本食普及の親善大使」の委嘱を受けました。和牛を含め、日本食や食文化を普及する役目を担います。

大西氏は、「海外では、食肉のマーケットは非常に大きい。ブランド力に加え、和食としてのPRもすることで、まだまだ『和牛』を伸ばしていきたい」と話しています。

銀閣寺大西

1930(昭和5)年、左京区北白川で大西孫四朗氏が食堂兼下宿を営んだのがルーツで、1953(昭和28)に現在の場所で精肉店を創業。1990年代にオリジナルブランド「村沢牛」の販売を開始し、2007年に地場スーパー「エムジー」を子会社化した。現在は、京都市を中心に食肉の卸、小売りをするほか、焼き肉店経営や海外輸出、海外法人の経営も手がけている。

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賢者の選択サクセッション編集部

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