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廃業危機の会社から株を100%買い取り、地域の中核企業に育てていく 「事業承継」をビジネスに、近江商人のふるさとに生まれたベンチャーとは

〝事業承継〟そのものをビジネスにするベンチャー企業「SoFun」(滋賀県近江八幡市)。そのアプローチはとても斬新だ。全国から応募してきた後継者候補と、事業承継に悩む地域の中小企業経営者をマッチングし、既存のM&Aコンサルなどに比べて「顔の見える」透明性の高い事業承継を次々に実現してきた。100%の株式を買い取り、SoFunの志に共感する経営者、企業、専門家が三位一体になってチーム型経営を実践し、地域の中核企業を次々に育てている。元銀行員だった3人の経営者に、その手法を聞いた。

後継者候補を1人にさせない

──一般的なM&Aとは異なり、SoFunは事業承継に悩む中小企業の経営者と後継者候補のマッチングから始まるので透明性が高いです。もし合意すれば、どのように事業承継がスタートするのですか?

吉川 まず、SoFunが基本的に100%の株式を買い取ります。

──ファンドのように出資するという形ですか。

吉川 出資というよりは融資です。我々の周りに元オーナーだったり、我々の志に共感した協力企業さんであったり、経営者であったり、専門家の方というのが各地域でチームを組み、三位一体になって経営を一緒にやっていくっていうのがチーム型経営です。後継者候補を1人で経営させないスタイルです。

100%の株式を買い取る、超重要な「理由」

──株を100%譲り渡すことは、経営者の心理的ハードルが高い会社が多いと思いますが、対象は株を渡してくれる会社というのが前提になっているのですか?

吉川 はい。基本的に100%株式を買い取ります。「最後は株」ということは、コンサルをしていても嫌ほど感じたところです。

こちらがどれだけ良い提案をしたところで、実際に経営や事業に向き合うのはオーナーや従業員になります。つまり、オーナー権を持たなければ何もできないというのを実際に感じていました。だから、やるなら資本を持ってすべての責任を背負い込んでやらないと変えられないという思いがありました。

手操 私が事業承継に関わる中で結構多く見た失敗例というのが、「株は助走期間が終わったら渡しましょう。なので引き継ぎが大事ですよ」みたいな形です。

──株はあとで、という形ですか。

手操 そうです。後継者候補が従業員から上がってきて、副社長だったり専務とかを3年やった後、「こういうスケジュールで株を渡していきましょう」みたいな話は出るのですが、結局その株を渡さなかったり、我々が何か活躍をしたときにうっとうしくなってきて追い出されてしまったりすることがあるんです。

だから、承継は「軟着陸」ではなくて、変わっていくことの裏付けとしての株を持つことがいかに大切かというのは実感しました。

──事業承継の要は経営者ですが、継ぐ人が株を持っている必要があると。

吉川 そうです。ある実証実験をしました。私は、まず株を持った状態で京都の建設会社を事業承継しました。最初は私も経営の素人です。同時に、平井はコンサルという立ち位置で株を持たずに行きました。

そうすると、僕が1週間でできることが平井は1〜2ヵ月かかったんです。事業承継って少なからず変化を起こしていかないと失敗する確率が上がってくるので、やっぱり資本を持っている・持っていないというのが非常に大きいのです。

廃業寸前の建設業をよみがえらせて

代表の吉川氏が自ら承継者として赴いたのは、京都で建設業を営むミサキ。創業44年、関西でナンバー1の実績を持つ企業だった。

しかし、過去に事業承継に失敗。廃業に追い込まれそうだったのを、SoFunが1号案件として2021年に買い取った。

赤字の原因はどこにあるのか。これまで電話と紙ベースで行われていた受注をクラウドでリアルタイムに管理し、現場の職人とも共有。効率を上げたことで、施工する案件の数も増えた。

さらに力を入れたのは、人材の確保だ。新たに若手の営業社員を2人採用。制服も作業着ではないスポーティーなものに。そして、改革の一環として外注扱いだった6人の職人全員を社員化した。

改革が進んだ結果、外注の職人から社員になった田中良さんは、長く付き合ってきた同い年の彼女と結婚したという。田中さんは「社員になって生活が安定し、『結婚しようか』みたいな感じになりました」。まさに〝SoFun〟な効果だ。

「ちょっとうちの面倒もみて」

──現在、ミサキの経営はどうですか。

吉川 ミサキの経営を2年しました。年率でいうと今40%ぐらい伸びています。建設業全体が元気かって言ったらそうではなく、市場自体は縮んでいます。その中でやはり元気なところに声がかかると思います。

また、「ちょっとうちを面倒見てくれへん?」「うちの会社も引き取ってくれないか?」といった話も出てきます。横も縦も含め、産業再編の核になれるような企業なのかどうなのかっていうのをすごく見ます。

──業界構造全体を見て、SoFunが立て直したら業界全体がよくなり、会社もSoFunも幸せになれるかを考えていらっしゃる。

吉川 それを地域地域でやっていって、核のある企業をつくっています

──地域に貢献できそうな会社の目利きをしているわけですね。他にはどのような企業を担当しているのでしょうか。

平井 不動産と建築をしている会社です

吉川 最初にこの2社をやって、それから1年間は案件探しをしなかったんです。本当に経営をしていくにはどういう要素が必要なのかを1年間ずっと貯め続けて蓄積していって、1年間でそれを仕組み化していくチームを大きくしていくっていうのが手操の役割でした。

──吉川さんと平井さんが承継して、手操さんが体系化していったということですか。

吉川 そうです。

不動産会社も再生

平井氏が継承したのは、滋賀県内に複数の店舗を構えるsobuグループ。地元を中心に住宅建設や不動産を扱うグループ企業だ。家づくりに加えて、土地の売買や仲介など事業を拡大してきた。

しかし、従業員が増え、業務が細分化すると、うまく収益が上がらなくなってきたという。創業者の奥文宏氏は1級建築士。財務がわかる元銀行マンの挑戦に賛同した。

奥さんは「もともと事業承継をするっていう意向も本来は薄かったんですけど、SoFunさんの取り組み、一体化でやっていただく中で、もう一方ワンランク上を目指すのに思い切ってそういうふうに進めてみようと」

平井氏が推進したのは、主に予算管理。見積もりの項目や、そのコストを明確にすることで、顧客には低価格を、会社は収益を確保することができた。

そして自ら分譲地開発などを手がけることになった。今の目標はグループ売上高10億円を安定して出せる企業にすることだ。

平井さんは「もともとは2期連続で赤字。たぶん毎期1000万ぐらいの赤字を直近で出していました。承継後は、約半年で黒字化を達成でき、次の期についても大幅に増益が見込める状況になりました」

「ファンド」の儲け方とは違う

──通常のファンドは買い取った会社を売却し、その売却益で収益を出します。しかし、SoFunは株を買ったあと、その株を売却しません。

手操 ファンドとかだと、比較的規模の大きい会社で「ここをテコ入れすればそこの会社が買ってくれるんじゃないか」という算段で投資をするのが基本です。対して、SoFunは基本的に永続保有することを前提としています。

小さい規模の会社や、地方の会社を相手にしようとすると、永続保有ということをやっていかないと、リターン的にもビジネスとしての社会的インパクトとしても、小さいものになってしまうと考えています。

──SoFunのグループに入る事業承継に悩んでいる会社は、どういった規模の会社が多いのでしょう?

吉川 個人で買うにはちょっと株価が高すぎ、ファンドが相手にするには規模が少し小さすぎる。この層が地域を支えている企業です。そこをしっかりとテコ入れし、地域の中核の企業に育てていくことが必要だと思います。

──SoFunとしての収益はどのように回収しているのでしょうか。

吉川 会社の配当や、SoFun本体でも資金調達をしています。僕らもそれの返済を当然しないといけません。金融機関と投資家には長い目で見てもらい、10年スパンなどで資金調達をしています

──SoFunは、新たに滋賀県にある金属加工の会社を事業承継し、創業45年の企業に36歳の新社長が誕生した。すでに鹿児島と岡山にもSoFunの子会社が設立され、さらに多くの承継企業が予定されているという。

SoFun株式会社 会社案内

3人の地方銀行出身者が、「中小企業が再び輝く会社を作り、日本をおもしろくする」というビジョンを掲げて創業。中小・零細企業を対象に第三者事業承継を支援する企業。後継者候補を発掘・育成するだけではなく、事業承継型投資を行ってチーム型経営を通して承継先企業の成長をサポートする。新しく承継した経営者によって事業成長が加速させ、事業変革によって経営再生を実現している。

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賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

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