事業承継における「DES（デット・エクイティ・スワップ）」のメリット・デメリットとは？

債権を株式化することで財務内容を改善することができる「DES」。経営の立て直しや相続税対策として活用されますが、実は事業承継（M&A）においても有効なのをご存じでしょうか。本記事では、DESの基礎知識とメリット・デメリット、DDSとの違いなどを解説します。

DESとは？

DES（Debt Equity Swap／デット・エクイティ・スワップ）とは、「債務（Debt）」を「株式（Equity）」と「交換（Swap）」することを意味します。簡単にいえば、「債務の株式化」です。詳しいメリットは後述しますが、DESを実施することで会社の負債は資本に変わるため、有利子負債の利子負担が軽減してキャッシュフローが改善するとともに、自己資本率が向上して会社の財務内容（バランスシート）を改善できます。

「DDS」との違い

同じく債務の処理として「DDS（Debt Debt Swap／デット・デット・スワップ）」という手法があります。DDSとは、「債務（Debt）」を「債務（Debt）」と「交換（Swap）」することで、DESとは仕組みが異なります。

「債務を債務と交換ってどういうこと……？」と思った人もいるかもしれませんが、DDSは「債務」を「劣後ローン（他の債務よりも債務弁済の順位が劣る借入金）」に組み替えることで、借入期間中の元金返済が不要かつ、負債ではなく自己資本とみなされるようになります。ただし、定められた期間中は金利を支払い、期限がきたら一括返済を行う必要があります。

DESのメリットとは？

それでは、DESにどんなメリットがあるのかを見ていきましょう。

①利息負担が減り、キャッシュフローが改善する

DESを実践することで借入金を株式に変換できるため、返済や利息の支払いがなくなり、キャッシュフロー改善につながります。借入金が多額であるほど利息負担も大きいので、不要になった資金を他のところに回せます。

②バランスシートが改善し、対外的な信用度が上がる

DESによって負債が資本に変わることで、バランスシートを改善できます。これにより、金融機関からの信用度が向上し、融資を受けやすくなるなどのメリットが考えられます。加えて、取引先の視点で考えても、バランスシートの改善は自己資本率が高くなることを意味するため、新規取引の始めたい際にも「自己資本比率が高く、負債が少ない」ことは信頼につながるといえるでしょう。

③債権者にとってもメリットがある

DESは、企業の金銭債権を有している債権者（基本的に「金融機関」）が、その企業の債権を債務者の株式に振り替えて、経営不振の取引先企業を支援する目的で利用されることが一般的です。経営不振の企業を再建するときに金融機関がとる方法として「債権放棄」があります。

しかし、債権放棄をして経営再建が成功し、その企業が利益を生み出すようになったとしても、金融機関は何の利益も得られません。  一方でDESの場合、金融機関は会社の株式を受け取れるため、対象企業の経営が改善さらたら株式の配当や売却などによって利益を得ることができます。

DESのデメリットとは？

DESには以下のようなデメリットもあるので注意が必要です。

①債権者が株主になり、経営に干渉される恐れがある

中小企業の場合、外部の株主には経営に干渉してほしくないと考える経営者も多いでしょう。しかし、DESは負債の振替に株式を発行する方法です。DESにおける債権者は主に金融機関ですが、株式を保有することで経営に参画することができます。

②株主が増えることで、配当負担が増加

DESを実行することで借入金利子はなくなりますが、債権者に対して株式を発行するので、その分の配当負担が増えることになります。

③法人税の負担が増加

DESによって資本金が増えると、法人税が増加します。法人税の場合、資本金等に応じて税額が異なります。例えば、東京23区に事業所がある50人以下の企業の場合、資本金等の額が「1000万円以下」なら法人税の均等割額は7万円ですが、「1000万円以上」になると18万円に増加します。

事業承継でDESを活用するメリット

DESは事業承継（M&A）でも活用できます。主なメリットは次の2つです。

①後継者が引き継ぐ負債を軽減できる

会社に債務が残ったまま事業承継すると、後継者に返済義務が引き継がれます。承継後すぐに経営が軌道に乗ればいいですが、不安定な時期なら貸付金の返済負担が重くのしかかる可能性もあります。

②相続税対策になる

中小企業の場合、経営者個人が会社に対して貸付を行っていることも多いものですが、この貸付金は相続財産として扱われます。DESによって経営者の貸付金を株式に変えておけば、相続が発生したときも相続税の評価額を下げ、納税負担を緩和することができます。

まとめ

DESは金銭債権を株式に振り替える手法で、キャッシュフローが改善し、対外的な信用度が上がるなどのメリットがあります。一方で、債務者が株主として経営に参画できてしまうなどのデメリットもありますので、DESを行う際には専門家に相談したうえで慎重に進めるようにしましょう。