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事業譲渡で株主総会は必要? 不要になる条件や議事録の作成⽅法を解説

事業継承の際に事業譲渡を選択する場合、株主総会が必要かどうかは状況によって異なります。事業譲渡では、自社の有形無形資産が譲渡先の新しい経営者に承継されるため、当該企業の従業員や取引先だけでなく、株主からも承認を受けなければならないケースが存在するからです。事業譲渡においては、会社自体の手続きだけでなく、譲渡前後で具体的にどのような要素が変更になるか、承認を得ることも重要なのです。

今回は、主に事業譲渡における株主総会開催必要性の有無に注目し、事業譲渡や株主総会の仕組みを解説します。

事業譲渡と株主総会

事業譲渡における株主総会の必要性を述べる前に、まずは事業譲渡と株主総会の仕組みをまとめます。

事業譲渡とは

事業譲渡は、事業承継方法の選択肢の1つで「自らが営む事業の一部もしくはすべてをほかの企業に譲渡(売却)する行為」を指します。事業に伴う有形無形資産を譲渡する行為であり、事業譲渡の売り手側と買い手側への特徴は以下の通りです。

売り手側の特徴

・不採算事業のみ売却など、売却したい事業だけを選べる
・会社存続や特定事業に絞った事業の継続が可能
・事業売却による売却益が得られる
・手続き自体が複雑で、従業員からの承認や取引先への対応が必要
・競業避止義務の対象となる(指定区域内で同一事業を行うことを禁止)

買い手側の特徴
・強化したい分野や研究を進めたい事業に絞った買収が可能
・株式譲渡とは異なり、負債や債務など簿外債務を引き継ぐ恐れがない
・買収に伴い消費税や登録免許税、不動産取得税などが課税される
・譲渡を受けた後で従業員との再契約が必要(主力従業員が離職する恐れもある)

特定事業の買収や売却には会社分割という方法もありますが、会社分割とは権利承認の性質が異なります。債権者や契約上の地位、労働契約の承継は、事業譲渡では債権者や契約の相手方と労働者の個別同意が必要ですが、会社分割では個別同意が不要です。また、労働契約承認の適用や無効とする場合の主張方法、関連する税制なども異なります。そのため、結果的に会社分割よりも事業譲渡のほうが事務手続き上の負担が増す傾向にあります。

株主総会とは

株主総会とは、会社経営に関するさまざま意思決定を行うために検討、決議する機関です。株主総会においては会社法第295条第1項でも示されているように、株主が強力な権利を持ちます。なお、株主総会での決議内容が効力を発揮するには、行使可能議決権の過半数を有する株主の出席が条件です。株主総会では通常、主に以下の事項を検討、決議が行われます。

・定款の変更や事業譲渡、合併など会社経営の根本に関わる重要事項
・役員の選任や解任、報酬などに関する事項
・資本金の減少や剰余金の配当など、株主の利害に関連する事項

株主総会は会場に集う形式のほかに、昨今はオンラインでの株主総会も行われる傾向にあります。また、株主総会には事業年度が終了後の一定の時期に開催することを義務付けられた「定時株主総会」、定時以外に取締役に欠員が出た際の人選や配当、定款変更など経営に重要な事項を扱う「臨時株主総会」という2種類が存在します。

事業譲渡の際に株主総会を開く必要はある?

事業譲渡の際に株主総会を開く必要があるか否かは、自社の状況によって判断が分かれることを覚えておきましょう。ここでは、株主総会が必要なケースと不要なケースをまとめてみました。

株主総会が必要なケース

事業譲渡は、会社法467条に則り行われる手続きです。これまで事業で扱ってきた設備や建物などの有形資産、事業に要するノウハウや取引先などの無形資産も譲渡対象となります。そのため、譲渡企業と譲受企業双方が株主総会を開催し、特別決議と呼ばれる承認を得なければなりません。会社法467条では、株主総会を必要とするのは以下に該当する行為を行う際と示しています。

株主総会開催の条件

・譲渡企業の事業のすべてを譲渡する場合
・譲渡企業子会社の株式もしくは持分の全部又は一部を譲渡する場合
・他社の事業すべてを譲受する場合
・事業に伴う全賃貸や経営委任、損益を共通にするなどの契約、変更、解約手続きを行う場合
・対価として譲渡先へ交付する資産の帳簿価額合計が、該当する株式会社の純資産額の1/5を超える場合

株主総会が不要なケース

株主総会開催要件に該当していても、会社法468条によると以下に該当するケースでは例外として株主総会は不要です。なお、一定数以上の株式を有する株主から株主総会の開催を求められた場合、事業譲渡の効力発生前日までに株主総会を開催し承認を得る必要があります。

株主総会が不要のケース

・譲受側企業が譲渡側企業の9割以上の株式を保有している(特別支配会社)場合
・以下の項目Aの割合が項目Bと比べ1/5未満の場合

A.当該他の会社の事業の全部の対価として交付する財産の帳簿価額の合計額
B当該株式会社の純資産額として法務省令で定める方法により算定される額

株主総会の議事録に記載する項目

事業譲渡の際、会社法では株主総会では議事録作成が必須となるほか、議事録では以下の項目を記載する旨を定めています。なお、議事録の作成は書面もしくは電磁的記録(データ)でも構いません。

事業譲渡を行う際の株主総会議事録に必要な記載項目
・開催日時と場所
・参加者氏名と役職
・議事録作成者氏名
・株主総会の経過と最終的な結果
・事業譲渡内容と譲渡先企業に関する内容
・株主総会の場で寄せられた意見

まとめ

今回は事業譲渡の際に、株主総会の開催が必要になるか否かに関して解説しました。結論を言えば、株主総会の必要性は自社の状況によって異なります。会社法467条のもと、自社はどちらに該当するか確認してみましょう。手続きを誤った場合、事業譲渡を行っても正しく権利が譲渡されない恐れがあるため注意が必要です。

なお、事業継承に関する内容は以下の記事でも解説しています。今回の記事とともにぜひ、参考にしてください。
「事業承継の流れを7つのステップで解説!」はこちら

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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