COLUMNコラム

TOP 財務戦略 事業承継対策にもなる! 「家族信託」の活用法&メリット
F財務戦略

事業承継対策にもなる! 「家族信託」の活用法&メリット

「家族信託」と聞いて認知症対策をイメージする人は多いと思いますが、実は事業承継においても応用可能です。家族信託を活用することで、贈与税がかからない、現経営者が経営に関わり続けられる、次世代以降の後継者まで決めるなど、さまざまなメリットがあります。 本記事では、家族信託の概要、事業承継で活用する方法とそのメリットを解説します。

家族信託がよく使われる3つのシーン

家族信託とは?

家族信託とは、介護や老後など自分で自分の財産を管理できなくなってしまったときに備えて、不動産や預貯金など管理・処分をできる権限を家族に与えておく財産を管理することです。

第三者に財産管理を任せて運用する方法としては投資信託などが有名ですが、家族に財産管理を任せる家族信託なら委託料や手数料なども発生しませんし、遺言書以上に幅広い遺産の承継が可能です。

①認知症対策
「財産を持っているものの、認知症の症状が出ていて、このままだと正常な判断ができずに財産を他人に取られてしまうかもしれない……」こうした不安を持つ場合、子どもを受託者として財産の管理・運用を任せるとともに、親や自分はその運用から収益を得て、年金のような形で毎月生活費を受け取ることができます。

②子どもに財産を残す
「未成年の子どもに財産を残してあげたいが、相続などで一度に財産を与えるのは不安……」こうした場合も、家族信託の活用が適しています。子どもを受益者にして、信頼できる親戚に財産の管理・運用を任せることで、いざ相続が発生したときは子どもに毎月生活費を支給することもできます。

しかもこの仕組みは遺言と異なり、委託者(親=自分)が存命中から利用できます。生前からこの仕組みの運用を始め、自身が亡くなったあとの不安を緩和できるというメリットもあります。

③事業承継対策
これが本記事のメインテーマです。メリットについては次項で解説し、まずは、家族信託を事業承継で活用方法を解説します。

1.現経営者を家族信託の委託者兼受益者、後継者を受託者に設定した信託契約を結ぶ。
※受益者は現経営者でなくても可。たとえば、受益者を配偶者にすれば、現経営者が亡くなった後も配偶者の生活を守ることができる。

2.現経営者が所有している株式を信託財産にします。
これにより、株式の所有権は形式的に後継者へ移転するので、議決権を受託者である後継者が取得して会社の経営権を握ります。

3.株式を信託財産に権利移転には、会社法154条の2の規定に基づき、株式が信託財産に属する旨を株主名簿に記載する必要があります。

信託契約書を作成し、株主名簿に記載すれば手続きは完了です。なお、他者への譲渡に取締役会や株主総会の許可を要する譲渡制限株式の場合は、株式を譲渡することについて、取締役会、または株主総会の承認を得る必要があります。

家族信託を事業承継で活用するメリット

具体的なメリットは、次の3つです。

①贈与税がかからない
家族信託の中で、委託者兼受益者、後継者を受託者に設定した場合、会社の株式は後継者に移るものの、経営者が受益者となっているため、財産の帰属先が変わらず、生前贈与ではないと見なされ、贈与税がかかりません。

現経営者(=受益者)が亡くなった場合、後継者が受益者になるように合意するのが通常です。このとき初めて後継者に受益権が移るため、相続税がかかります。ただ、高額になりやすい贈与税ではなく、相続税で済むということがポイントです。

②経営に関与しつづけることができる
株式には、配当を受け取る財産権と、議決権などの経営権の2つの権利があります。生前贈与、売買、遺言ではこの2つの権利を切り離して贈与することはできません。しかし家族信託なら、現経営者に指図権を指定することで、受託者である後継者に事業の経営権を移転させつつ、現経営者に財産権を残すことが可能です。

指図権とは、受託者が信託財産の管理や処分・運用の方法などを指図できる権限のこと。家族信託を活用した事業承継では、指図権を持った現経営者が議決権を行使できるため、実質的な経営者はそのままにしておくことができます。

そして、もし後継者を経営者として不適格と判断した場合、家族信託契約を解除することで、後継者が保有した株式の経営権は元の保有者である現経営者に戻ります。ちなみに贈与税も資金も不要ですが、後継者を不適格と判断した場合には、委託者のみで信託契約を解除できる旨を信託内容に記載しておく必要があります。

 ③後継者の先まで経営者を決めることができる
遺言では現経営者の後継者までしか指定できませんが、家族信託なら、現経営者の直系一族を代々の受益者とするなどと信託内容に含めることで、次世代以降の後継者まで指定できます。

遺言の場合、万が一後継者が亡くなったときに、自分が期待しない人物が後継者になる恐れもあります。そうしたリスクを回避できることも家族信託のメリットといえます。

まとめ

家族信託には非常に大きなメリットがある一方、事業承継税制との併用ができないというデメリットもあります。事業承継税制は贈与税・相続税を納税猶予、または免除できる制度ですので、どちらを活用すべきか考え、自分・自社にとってメリットが大きいほうを選ぶのがよいでしょう。

FacebookTwitterLine

賢者の選択サクセッション編集部

日本の社会課題である事業承継問題を解決するため、ビジネスを創り・受け継ぐ立場の事例から「事業創継」の在り方を探る事業承継総合メディア「賢者の選択サクセッション」。事業創継を成し遂げた“賢者”と共に考えるテレビ番組「賢者の選択サクセッション」も放送中。

記事一覧ページへ戻る