COLUMNコラム
事業承継でIPO(株式公開)するメリット・デメリットを解説!
一般的な認知度は低いですが、実は「IPO(株式上場)」も事業承継の手法のひとつであることをご存じでしょうか?とはいえ、そもそもIPOがどういうものか知らない人も多いでしょう。本記事では、IPOとは何か(M&Aとの違い)、IPOのメリット・デメリットついて解説します。
目次
そもそも「IPO」とは?
IPO(Initial Public Offeringの略)は、日本語では「新規株式公開」とされ、証券取引所に上場することを意味します。より具体的にいうと、未上場企業がその株式を証券取引場に上場させ、株式を新規発行(または既存株主の保有株式の売出し)することにより、不特定多数の投資家から資金を調達することです。近年では、ベンチャー企業・スタートアップ企業ではIPOを目標にするケースも非常に多く、ひとつの「出口戦略」として考えられています。
事業承継におけるIPOの意義
事業承継の文脈でみると、未上場企業で自社株式の評価額が高くなる場合、評価は高いのに自社株を投資家に売ることができないため、意図的に評価額を下げて税金対策を講じたり、納税資金を用意したりする必要があります。そうした際に「資金調達の手段」として有効な方法がIPOなのです。
「IPO」のハードルは高いのか?
「IPOは急成長しているベンチャー企業やスタートアップ企業が目指すもの。うちは売上規模が小さいから、IPOは無理だろう」などと考える経営者も多いでしょう。しかし、2020年にマザーズに上場した63社のうち、「売上高20億円未満」の会社は全体の51%を占めます。さらに「売上高10億円未満」の会社は17社あり、全体の約27%に値します。
このように、「IPO=売上規模が大きくないと不可能」というわけでは必ずしもないのです。また、IPOの審査基準が比較的低い地方の証券取引所(札証、名証、福証)や時価総額等の形式基準がないTOKYO PRO Marketといった上場先もあるので、一般的に思われているよりもIPOの選択肢は広いといえます。
意外と知らない「M&A」との違い
IPOと同じく、ベンチャー企業・スタートアップ企業の目標として注目されているのがM&Aです。IPOとM&Aの違いは、シンプルにいうと「株式のみを売却するか」「経営権、事業そのものを譲渡するか」という点です。IPOは不特定多数の投資家から資金を調達するのに対し、M&Aは基本的に1対1の取引で経営権・事業を譲り渡します。当然、不特定多数から株を買ってもらうのと、会社(事業)を丸ごと買ってもらうのとでは、達成までの戦略も異なります。
またM&Aの場合、譲渡後も経営権が会社にとどまり、引き続き経営を任されるというケースも珍しくありませんが、M&Aが成立した時点で、経営理念や運営方針の決定権は譲受先に移動するのが基本的な考え方です。
IPOのメリットとは?
IPOのメリットは大きく3つあります。
①資金調達をしやすくなる
株式公開することで自社株を市場で売買できるようになるため、事業承継における納税資金に充てることも可能です。また、売却資金を役員退職金に充てるなど一時的に自社株の評価額を下げることで、税金対策も期待できます。
②企業価値が上がる
上場することで会社の信用力が向上し、ブランディング効果による売上アップ、採用人材の確保が期待でき、持続的発展につながりやすくなります。
③後継者候補が集まりやすくなる
上場企業という社会的地位と知名度向上により、外部から優秀な人材が集まりやすくなるため、後継者不足解消にも有効であるといえます。
IPOのデメリットとは?
IPOのデメリットは大きく2つあります。
①コストと時間、エネルギーが必要である
IPOには、上場前のIPO監査として、上場直前2期の会計監査が不可欠なほか、上場会社としての管理体制を構築する必要から、少なくとも3年程度の準備期間がかかるといわれます。また、上場の際には年間5,000万円程度のコストが生じます。内訳は、監査費用で1,000~1,500万円程度、株式事務代行手数料で400万円程度、主幹事証券会社に500万円程度、証券印刷会社に500万~600万円程度、コンサルティング費用で600万~1,600万円程度などです。
必要とされる期間やコストは業界によって異なるものの、3年間の準備期間で市場も競合企業も変化していくため、それに応じて自社の立ち位置や方向性が変わる可能性も十分に考えられます。そのため、「せっかく時間とコストをかけたのに、IPOすべきではない」という決断をせざるをえない状況になることも考えられます。
②継続的な事業成長と、リアルタイムな情報開示が求められる
IPOをしたあとも、有価証券報告書や決算書の提示・発表が必要となるほか、当該部門のシステム構築にかかる経費なども考慮しておかなければなりません。また、株式公開は自社株を複数の株主と共有することを意味しますので、経営権が創業関係者以外にも分散されることとなります。「株主が経営に介入できる」ことは、株式公開を念頭に置いていなかった中小企業の経営者にとって大きなストレスになる可能性があります。なかには株を買い占めて経営権を乗っ取ろうとする株主も存在するため、巻き込まれないような対策が求められます。
まとめ
IPOは、自社株の評価額が高い未上場企業における承継方法のひとつです。「資金調達をしやすくなる」「企業価値が上がる」「後継者候補が集まりやすくなる」といったメリットもあります。しかし、実現までに期間やコストを要するため、IPOを検討する場合はなるべく早く専門家に相談し、準備に取り掛かることが大切です。
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