COLUMNコラム
事業承継の際、経営者の「個人保証」は解除できるのか?
「事業承継したら個人保証は後継者に引き継がれるの?」「個人保証を解除する方法はあるの?」こうした不安や疑問を持つ経営者は多いと思います。金融機関から借り入れを行う際に求められる経営者の「個人保証」ですが、事業承継の際、どのような問題が起きるリスクがあるのでしょうか。本記事では、事業承継における個人保証の問題点と解除方法について解説します。
目次
知らないでは済まされない「個人保証」の3大リスク
経営者による個人保証(経営者保証)とは、会社が金融機関から借り入れを行う際、経営者が個人的に連帯保証を背負うこと。 特に財務面での信用度が低い(経営基盤が磐石ではない)中小企業の場合、個人保証を求められるケースが多いといえます。では、経営者が個人保証を設定した場合、どんなリスクがあるのでしょうか。大きく3つ挙げられます。
①所有財産を手放さなければならない可能性がある
まず、企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合、経営者自身が所有する不動産や自動車などの財産を現金化したうえで、企業に代わって返済することを求められます。倒産後の生活が苦しくなるため、経営者にとっては非常に大きなリスクだといえるでしょう。
②思い切った事業拡大がしにくくなる
前項の内容にもつながりますが、「もし経営が失敗したら、自分の財産がなくなるかもしれない……」という不安を抱くようになると、大胆な事業拡大をしにくくなります。結果として、本来すべきはずの投資ができずチャンスを逃す可能性もあります。
③後継者候補から事業承継を拒否されやすくなる
後継者候補がいたとしても、事業承継を拒否されるケースは珍しくありません。中小企業庁「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策について」によると、「後継者候補がいない」と答えた割合は77.3%。残り22.7%は「後継者候補はいるが、承継を拒否」と回答しています。そして、「後継者候補はいるが、承継を拒否」のうち、なんと59.8%が「個人保証を理由に承継を拒否」しています。また、旧経営者の個人保証を残し、後継者(新経営者)からも保証をとる「二重徴求」は2018年度に18.6%と減少傾向にあります。
しかし、新経営者が個人保証を設定する割合は59.4%と高く、個人保証によって将来的に多額の債務を負う可能性があることが、後継者確保のボトルネックのひとつになっています。ちなみに、経営者が承継前に亡くなった場合、連帯保証人としての地位も相続人が引き継ぐことになります(法定相続分に応じて各相続人が保証債務を承継)。そのため、遺言などで後継者候補が相続人となっていた場合、多額の連帯保証を負う可能性があり、そういった相続の観点からも、後継者候補が先代経営者の個人保証を嫌がって承継を拒否するケースもあります。
事業承継したら個人保証はどうなる?
結論からいうと、先代経営者が設定した個人保証を後継者に変更したり、先代経営者の個人資産の担保を解除したりするのは非常に難しいものです(次の項目で紹介する行政の支援策の活用を除く)。なぜなら、金融機関はあくまで「先代経営者」に融資をしたのであり、若くて信用のない(そして個人資産を十分に持たないケースが多い)「後継者」に保証人を変えるのはリスクが高いと考えるからです。
したがって、「何の対策もしなければ、承継後も先代経営者は保証人という立場から逃れることができない」といえます。承継後も先代経営者の個人保証が続いた場合、その期間に経営が致命的に悪化したら、先代経営者に多大な負担・迷惑がかかることになります。後継者はそのことを胸に留め、先代経営者と二人三脚で経営していく必要があるのです。
個人保証がいつ解除できるかは金融機関の判断次第です。承継後しばらく経って先代経営者の個人保証が解除され、さらに個人資産の担保が抹消されたとき、名実ともに事業承継が完了したといえるでしょう。
事業承継のとき、経営者保証を解除するには?
それでは個人保証の解除が不可能かというと、そんなこともありません。後継者に連帯保証人を引き継がせず、先代経営者も個人保証を解除する方法、それが「経営者保証に関するガイドライン」の利用です。「経営者保証に関するガイドライン」とは、先述したような個人保証によるリスクを排除することで、起業、思い切った事業展開、早期の事業再生や清算を促進するために設けられたルールのこと。
このガイドラインが適用されれば、以下のようなメリットを受けられる可能性があります。
・すでに設定している経営者の個人保証契約を見直してもらえる
・経営者の個人保証を提供せず、金融機関から新規融資を受けられる
・企業の負債を債務整理する際、経営者の負担を軽減できる
ただし、個人保証の解除の適用対象となるには、以下の要件を満たす必要があります。
・適用を受ける会社が中小企業であること
・法人と経営者の資産などが明確に区分
・分離されていること
・会社の経営・財産について適切に情報を開示すること
・財務基盤の強化に務めること
・反社会勢力でないこと
なお、上記の条件は決して簡単に満たせるものではないと思います。そのため、いきなり申請するのではなく、適用を目指して会社の経営・財務基盤の改善をしていくケースがほとんどといえます。具体的な取り組みなどについては、「商工会・商工会議所」「中小企業基盤整備機構の地域本部」「政府系金融機関」などが相談に乗ってくれるので適宜活用するのがよいでしょう。
また、「経営者保証に関するガイドライン」以外にも有効な個人保証対策は「事業承継税制」の利用です。この制度を利用することで、後継者が相続もしくは生前贈与で引き継いだ場合に発生する相続税・贈与税の負担がゼロになるため、事業承継を考えている人は検討すべきといえます。事業承継税制の詳しい記事はこちらで解説していますので、ぜひご一読ください。
(事業承継で相続税が免除になる方法!――5分でわかる「事業承継税制」の仕組みとポイント)
まとめ
経営者の個人保証は、事業承継においても大きなネックになりかねません。個人保証のせいで後継者に承継を拒否されないよう、「経営者保証ガイドライン」などの利用を考えることが大切です。ただし、「経営者保証ガイドライン」の適用を受けるには、企業側にも一定以上の期間・努力が求められることを忘れないようにしましょう。
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