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事業承継に必要な手続きとは? 税制の特例も紹介

『2021年人口動態統計月報年計』(厚生労働省)によると、高齢者(65歳以上)の人口は3,640万人と前年に比べ22万人増加し、過去最多となりました。これに伴い事業承継を検討する経営者も増加しています。しかしながら、事業承継を行う際にどのような手続きが必要かきちんと理解している経営者は少ないようです。一定の手続きを行うことで納税額を大きく減らすことも可能です。

誰が引き継ぐかによって異なる手続きの方法

一言で事業承継の手続きといっても、誰が引き継ぐかによってその方法や注意点は異なります。おもな後継者の選択肢は3つあります。子どもなどの親族が後継者となる「親族内承継」、親族以外の役員や外部から招いた人を後継者とする「親族外承継」、自社株を外部の法人や経営者へ譲渡する「M&A」です。それぞれのくわしい違いは、こちらの過去コラムでご確認ください。
「事業承継、後継者不足の背景とその解決方法とは?」

今回は、そのなかでもメインの方法となっている「親族内承継」のケースを中心に解説していきます。

親族内承継を行う際に必要な書類

親族内承継とは、子どもなどの親族が後継者となる事業承継の方法です。この際、一般的に自社株式や不動産といった会社の資産は、相続もしくは贈与の手続きで後継者へ譲渡されます。

相続の場合は、経営者が亡くなることで発生します。したがって、準備は存命中に行っておかなければなりません。その準備としてもっとも重要なのは、遺言書の作成です。遺言書によって後継者へ会社の資産を譲渡することを明確にしておかないと、ほかの法定相続人にも資産を相続する権利が発生してしまいます。ただし、たとえ正式な遺言書を残していたとしても、法定相続人の遺留分は否定できません。遺留分とは、一定の法定相続人に対して最低限保証されている相続割合です。これは法定相続人からの遺留分侵害額請求によって発生します。したがって遺言書の内容は、遺留分を請求されないよう公平感があるものにしておく必要があります。

贈与とは、経営者が存命中に自社株式などの会社の資産を後継者へ譲渡することです。株式が非公開の場合は、取締役会または株主総会の承認手続きが必要となります。親族内承継で必要な書類は以下のようなものです。

遺言書

後継者が自社株式や不動産など会社の資産をスムーズに引き継ぐため、ほかの相続人から不満が出ないように書く必要があります。

生前贈与契約書

遺言書と同様に、後継者とほかの相続人の間で揉め事が発生しない内容にしましょう。

遺産分割協議書

遺言書がない場合は、相続人同士の遺産分割協議で資産の分割方法を決めます。遺産分割協議書は、その決定事項を記した書類です。

株式譲渡契約書

自社株式を後継者に無償譲渡することを記した書類です。

事業譲渡契約書

会社の事業や資産などを後継者に無償譲渡することを記した書類です。これらの書類の作成は、司法書士などの専門家へ依頼するのが一般的です。

相続税・贈与税などの負担を軽減する事業承継税制

親族内承継では、後継者は相続もしくは贈与によって会社の資産を取得します。そこで検討したいのが税金対策です。相続税・贈与税の納税額によっては、用意できないことも考えられますし、そのことで後継者のなり手が見つからないというケースも珍しくはありません。このようなことから、政府は2009年に「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」を施行しました。その内容の一つに「事業承継税制」があります。

事業承継税制は、一定の要件をクリアすることで事業承継時に発生する相続税と贈与税を猶予・免除されるという特例措置です。ただし、その手続きは複雑で以下のような流れになります。

1.特例承継計画の提出(提出期限は2024年3月31日まで)

認定支援機関の協力のもと、「事業内容」「従業員数」「代表者」「後継者」「承継までの経営計画」「承継後5年間の経営計画」などを記した特例承継計画を都道府県知事へ提出し、認定を受けます。

2.代表者の交代

経営者から後継者へ自社株式を譲渡します。これによって後継者が筆頭株主となり、事業が承継されたことになります。

3.相続税・贈与税の申告

特例措置を受けたら税務署に相続税・贈与税の申告を行います。

4.都道府県と税務署へ報告

事業承継税制の適用要件を満たし続けていることを証明するために都道府県と税務署へ報告を行います(5年間)。

まとめ

上記のように事業承継税制では、当初5年間は都道府県と税務署へ報告義務があり、これを怠ると納税が猶予されていた相続税・贈与税の納税義務が発生します。事業承継に関するそのほかの手続きも複雑なものばかりです。これらに手間をかけていると、本業に影響が出ることも考えられます。ですから、事業承継にかかわる様々な手続きは、専門家へ依頼することをお勧めします。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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