未来に備えて対策を！ 「事業承継信託」の3つの活用法

事業承継信託とは、事業承継を目的とした信託のことをいいます。事業承継信託をうまく活用して、トラブルなく、円滑に事業承継を行ないましょう。

事業承継信託とは？

事業承継信託は、事業承継を円滑に完了するために、自社の株式を信託することを指します。信託とは、財産を信頼できる人（受託者）に託し、目的に沿って管理したり、運用したりしてもらうことで、特定の人（受益者等）に利益をもたらす制度のこと。

企業経営者が委託者となり、自社株を信託することで、後継者（受益者等）へ確実に事業を承継することが目的です。事業承継信託においては、現経営者が委託者、後継者が受益者等、信託銀行等が受託者という立ち位置になります。事業承継信託を利用するのは、大きく分けて2つのパターンに当てはまる企業経営者です。

1.自社株の承継手続きを円滑・確実に進めたい企業経営者
2.事業承継における認知判断能力低下を懸念している企業経営者

民事信託と商事信託

信託は、受託者の違いによって民事信託と商事信託の2種類に分けられます。

1.民事信託
営利目的でなければ誰でも可
・目的：非営利
・受託者：特定の人
・主な信託財産：金銭、不動産、未上場株が中心
・特徴：信託財産の範囲、信託の目的、財産管理の方法など、柔軟性と自由度が高い

2.商事信託
許認可を受けた信託銀行や信託会社のみ
・目的：営利
・受託者：会社や銀行
・主な信託財産：金融資産、収益用不動産
・特徴：財産管理の負担を軽減できる／信託の枠組み内で融資を受けやすくなる

事業承継信託の活用法

事業承継において、信託を活用する方法は大きく3つあります。

①遺言代用信託
遺言代用信託とは、現経営者の相続が発生したタイミング（＝現経営者が亡くなったタイミング）で、後継者が受益権を取得する信託のこと。信託銀行などに財産（自社株）を委ね、相続が発生したときに、あらかじめ定めておいた受益者に引き継ぎます。

後継者が受益権を取得する旨をあらかじめ取り決めておくことで、後継者の地位を確立することができます。さらに、後継者は現経営者の相続発生と同時に受益者となるため、円滑な事業承継が可能になります。

②他益信託
他益信託とは、委任者以外の第三者（＝後継者）が受益者となる信託のこと。あらかじめ受益権を後継者に渡しておくことで、後継者を指名することができます。ポイントは、現経営者が経営権を維持したまま、配当などを後継者に取得させられること。

存命中、それぞれの権利を分けておきたい場合におすすめです。なお、信託終了の時期は柔軟に設定可能。信託設定から数年経過時、相続発生時など、現経営者の意思に沿って決めることができます。

③後継ぎ遺贈型受益者連続信託
後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは、受益者が亡くなった場合に備えることができる信託のこと。受益者が亡くなってしまった場合は、受益者が有している信託受益権を、あらかじめ指定された人たちで順次承継できます。

つまり、後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、現後継者の次の後継者まで指定しておく必要があります。これによって、後継者が亡くなったときの後継者トラブルを防ぐことができます。ちなみに、受益権の承継の回数に制限はありません。

事業承継信託のメリット

事業承継信託のメリットは、大きく分けて次の4つです。

1.経営者の意思を反映しやすい
信託の受益者や事業承継の条件などを、現経営者の意思を反映して決めることができます。

2.事業承継のトラブルを未然に防げる
経営者が急に亡くなると、残された人たちで後継者を決めなければならず、トラブルが発生する可能性が高くなります。
しかし、信託によって事前に後継者を定めておけば、経営権を確実に後継者に引き継ぐことができ、トラブルを未然に防げるでしょう。

3.経営者の認知能力低下に備えられる
事業承継信託は、現経営者があらかじめ受託者を選び、自社株を委ねられる制度です。予期せぬ事故や心身の健康トラブルなどの備えとしても有効だといえます。

4.節税になる
事業承継信託は課税対象にならないため、後継者の負担を減らすことができます。
ただし、受益者や受託者によっては相続税が課されるケースもあるため、事前に確認することをおすすめします。

まとめ

事業承継信託はまだまだ知名度が低く、専門家でも活用方法を知っている人は多くありません。親族内でトラブルにならないよう、事業承継信託を活用する場合は丁寧な説明が不可欠です。周囲の理解を得て、円滑な事業承継を目指しましょう。