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「背水の陣で挑み、失敗をしなければ経営者にはなれない」 「TSUTAYA」を展開する社長が挑む「出版流通革命」とVポイントの展望

レンタル事業や書籍販売の「TSUTAYA」などを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下、CCC。東京都渋谷区)は2023年、24年ぶりとなる社長交代を行った。カリスマ創業者・増田宗昭氏から後継者に抜擢されたのはプロパー入社の髙橋誉則氏(51)。音楽・動画配信サービスが主流となった時代、レンタル事業からの抜本的な転換が求められる難しい時期に経営を託された。グループ従業員2500人の大組織をいかに引き継ぎ、率いていくのか、髙橋新社長に展望を聞いた。

人事部門は「スタッフ仕事」では務まらない

――CCCでは、人事系の仕事が長かったそうですね。

髙橋 私はCCCで、TSUTAYA事業のフランチャイズの現場や、ポイントアライアンス事業の現場も経験しました。ただ、人事部に異動してからは、人事がキャリアの主軸になりました。その人事部門を「CCCキャスティング」という会社にした経験もあります。いわゆる社内起業です。

――なぜ人事部門を事業にする必要があったのでしょうか?

髙橋 人事という仕事は、「スタッフ仕事」や「官僚仕事」であってはいけないという思いがありました。そこで、人事の仕事を社内ビジネスに変えたのです。

――事業の承継にあたって、創業者の増田会長からは「人を育ててほしい」と言われたそうですね。

髙橋 その通りです。CCCで人事を主軸に仕事をしてきた私に経営を託したのも、それが要因のひとつだったと思います。

後継者の育成は究極の課題

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――「人」というのは髙橋CEOのように、「経営を担える人」を指すのでしょうか。

髙橋 究極的にはそういうことでしょう。私自身にとっても経営者を育てることが重要な仕事ですし、いずれは経営チームを編成するとか、経営者の候補が何人もいるような会社にしなければいけないと考えています。やはり経営者の最重要課題は、後継者の育成です。

後継者問題は、TSUTAYA加盟店においても切実な問題になっています。以前、親しくしていた加盟店のオーナーの皆様の多くは70~80代を迎えていて、お店や事業の存続に頭を悩ませています。

――人事畑で経験を積んできた髙橋CEOが考える、後継者の育て方とはどういうものなのでしょうか?

髙橋 創業系企業の事業承継で最も大きな問題は、すべてを親が決めていることだと思います。「今は常務に就かせておこう」とか「お前、そろそろ社長をやりなさい」というふうに、ほとんどの会社では親が方針を決めているようですが、私はその時点でダメだと思っています。企業経営とは本来、上から「やれ」と言われてするものではないですよね。

創業社長で「誰かに言われたからやった」という人は、まずいないでしょう。そこが創業者と2代目、3代目の決定的な違いです。経営者は、与えられてなるものではないのです。

私は、命じられてやっているのではありません。私の肩書が毎年変わっているのもその証拠です。

2022年に「代表取締役副社長兼COO」、2023年に「代表取締役社長兼COO」、2024年に「代表取締役社長兼CEO」と、肩書きが毎年変わっていますが、すべて私から提案したことです。それを、創業者であり株主の増田が承認しています。

後継者には、失敗させるのが一番よい

――実際のところ、経営者を育てるための有効な方法はあるのでしょうか?

髙橋 早めに責任を持たせて、失敗させるのが一番よいと考えています。今、成功している経営者の方々も、最初から成功したわけではないでしょう。背水の陣で臨みながら成功と失敗を繰り返しながら、お金の向き合い方や人を見る目を養ってきた人たちです。

その意味でいえば、答えは一通りではないかもしれない。しかし、いずれにしても失敗を経験しないまま経営者になってはいけないと思います。

――経営とは与えられて行うものではなく、背水の陣を敷いて自分で掴みにいくものだということでしょうか。

髙橋 その通りです。ほとんどの創業者は、人やお金に関して苦い経験をしているはずです。それでも折れずに、どのような組織を作ればよいかを考えて実行し続けるのが経営です。苦境の中でしか経営感覚は養われないと思います。私も自分の任期を決めて、いかに人を育てようかと考えています。

「Vポイント」への統合

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――CCCの今後の事業展開について教えてください。

髙橋 今年、三井住友フィナンシャルグループの「Vポイント」とCCCグループの「Tポイント」が統合し、新生「Vポイント」がスタートしました。従来のTポイントは、アプリでVポイントと連携させることによって、新Vポイントとして合算できるようになりました。

まずこの場でお伝えしておきたいのは、Tポイントは存続し、以前からご利用のTカードもそのまま使えるということ。引き続き、安心してご利用ください。

TポイントがVポイントに変わった理由は、新しい概念のポイントの貯め方へと進化させるためです。

これまでポイントを貯める魅力は「お得」という経済性の一点であり、関心は残高のみでした。しかし私たちが作ろうとしているのは、Vポイントの会員であることで楽しさや嬉しさをもたらす世界。つまり経済合理性以外の付加価値を作っていきたいと考えています。

それはいったいどんなことかというと…残念ながらまだ言えません。今いろいろと用意していますので、期待して待っていてください。

ただのデジタル転換ではない、出版流通改革とは

――他に新しい事業展開はあるのでしょうか。

髙橋 今年力を入れているのが、本の事業です。出版流通革命は、私自身がほぼライフワークとして行っていて、着実に進めています。ひとつ言えることは、紙の本が電子書籍になるという単純なフォーマット変換の話だけではありません。

紙の本や雑誌には、デジタルコンテンツでは表現しきれない「世界観」があります。また雑誌の特集の組み方などは簡単にデジタルには置き換えられません。コミックにしても、やはり手触り感が必要な場面もあります。

問題は出版社や書店がいまだに過去を捨てきれず、ビジネス上の慣習を変えられずにいることです。言葉では「変わらなければいけない」と言いながら、具体的に動こうとしたがりません。それが出版流通業界の最大の課題です。

――基本構造は昔のままの出版流通を変えるには、どうすればよいのでしょうか。

髙橋 私が思うに、改革は辺境の力でしか起こりません。私たちは、出版流通の外側から変革を起こそうとしています。そのひとつとして売り方の変革を進めてきました。

書店を単純に、本を多量に流通する場としては捉えていません。カフェなどと組み合わせる、これまでになかった提案の仕方で書店に来る価値そのものを変えてしまおうと挑戦し続けています。

その一方では、出版業界をあげてやらなければいけないことがあると考えています。そのひとつをスマホアプリでやろうとしています。出版社、取次、書店はもちろん、作家の方とコンシューマーがダイレクトにつながるような場をアプリで作りたいと思っています。

しかもTSUTAYAのお客さんに限らず、書店が好きな人とか、書店の人のためのブックアプリといったオープンなものにしたいと考えています。つまりリアルのよさとデジタルデバイスのよさを掛け算した仕組みを作ろうとしているのです。

さらに今、紀伊國屋書店さんと日販さんと組んで進めているのが、私たちが本を買い切ることで、利益率を変えてもらう取り組み。これは商慣習を変える試みです。ただ、出版社も積極的に取り組まれるところと様子見をされるところがいらっしゃいます。

私たちは胸襟を開いていますので、ぜひ他書店さんと一緒に、粗利改善に取り組みたい。書店同士の競争は、あっていいし、むしろ健全なことだと思います。ですが、業界構造を変えるとか、仕入れのあり方を変えるといったことは、垣根を越えみんなでチャレンジしていきましょうと訴えたいです。

自ら頭の中に任期を設定

――最後に、ご自身の後継についてのお考えを教えてください。

髙橋 私自身は、任期を決めようと思っています。組織のイノベーションを優先的に考えるのであれば、どんなに長くとも10年が限界でしょう。できれば8年ぐらいで、次の誰かに引き継いでもらうのがいいと思っています。

それが2年4期なのか、4年2期なのか。誰かと話して決めたわけではありませんが、一定の期限を切って会社を立て直し、後継者を育てるのが私の役割だと思っています。

髙橋誉則氏プロフィール

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 代表取締役社長兼CEO 髙橋誉則氏

1973年6月25日、東京都生まれ。1997年大東文化大学卒業後、CCC入社。2005年、FC人事グループリーダーとなり、翌年CCCキャスティング大業取締役社長に就任。CCC執行役員、TSUTAYA常務取締役、同社顧問などを歴任。2018年から3年間、家庭の事情で主夫生活を送る。2021年、オープンデータで社会の活性化を目指す株式会社Catalyst・Data・Partnersの代表取締役に就任。2022年CCC代表取締役副社長 兼 COO、2023年CCC代表取締役社長 兼 COOを経て、2024年CCC代表取締役社長 兼 CEOに就任。現在に至る。

取材・文/大島七々三

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賢者の選択 サクセッション編集部

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