COLUMNコラム
事業承継に必要な事業譲渡契約書とは? 記載内容と注意点を解説
事業承継の際は、事業譲渡契約書が必要です。契約書に記載された内容は、今後の事業に多大な影響を与えます。スムーズな事業承継をするには、事業譲渡契約書について理解することが重要です。この記事では、事業譲渡契約書の記載内容と注意点について解説します。
目次
「契約書」「覚書」「合意書」の違い
契約書
契約は、対立する2者以上が意思を一致させることが目的です。つまり、「申し込み側と承諾側によって成立した法律行為があった事実を証明する文書」を契約書といいます。
企業間の場合、一般的に契約内容を記載した契約書を作成し、契約書への署名捺印・記名押印により締結します。
覚書
メモや備忘録など、忘れないように書き留めたものを覚書といいますが、契約で使用するときの多くは、内容を簡潔に書いた契約書となります。事実認識や契約内容が不明確で、トラブルが懸念される事項についての共通認識を、改めて確認するときなどに使用される場合が多いです。上記で説明したとおり、契約書は意思の一致を証明する文書なので、内容は簡潔ですが、覚書にも法的効力があります。
覚書を交わすメリットとして、長い契約書を読み直す必要がないため、事務処理の負担軽減ができます。
合意書
合意書は、追加した契約条件や不測の出来事に対する対処法、損害賠償責任の所在など、合意した内容を明確にする文書です。契約書と違い、過去の出来事にも使用できます。
事業譲渡契約書とは
事業譲渡契約書の概要
事業譲渡の際、譲渡対象を明確に示す必要があります。譲渡する事業や不動産、譲渡代金などを当事者間で話し合い、書面に残したものが事業譲渡契約書です。
また、譲渡対象のほか、金銭の支払期日や契約違反をしたときのペナルティなども定められています。事業譲渡契約書を作成することで、当事者間の食い違いや、多くのリスクを防げるでしょう。
「事業譲渡」と「株式譲渡」の違い
「事業譲渡」と「株式譲渡」の主な違いは、以下のとおりです。
事業譲渡 | 株式譲渡 | |
譲渡対象 | 事業の一部、またはすべてを譲渡可能 | 株式の一部、またはすべてを譲渡可能 |
消費税 | かかる | かからない |
資産・契約 | 個別に取引先の承認が必要 | 取引先の承認は不必要 |
対価の受領者 | 会社 | 株主 |
事業の経営権を譲渡する場合、株式譲渡を行う必要があります。その際、事業譲渡契約と株式譲渡契約の両方を交わさなければなりません。
事業譲渡契約書の記載事項
①契約者名
事業譲渡契約書の冒頭に「譲渡側の企業名」と「譲受側の企業名」を記載します。譲渡側を甲、譲受側を乙とし、以降は名称ではなく甲乙での記載が一般的です。
②目的
事業譲渡の内容や譲渡に至った経緯など、事業譲渡契約の目的を記載します。
③譲渡資産
譲渡資産の内訳や、その他取引に関する内容を記載します。契約後のトラブルを回避するため、正確に記載しましょう。また、譲渡資産に不動産があるときは、移転登記・登録手続きや登録免許税などの費用がかかります。
④譲渡対価と支払い方法
譲渡対価の金額や支払い期限、支払い方法を記載します。
支払い方法について、分割で支払えますが、「途中で入金が途絶える」「譲渡事業の不備で取り決めどおりに支払われない」など、トラブルが起こる可能性もあります。できる限り、一括で支払われるようにするのがおすすめです。
未確定の在庫や債務がある場合は、確定した日にそれぞれ決済することを忘れずに記載しましょう。
⑤従業員の引き継ぎ
雇用している従業員の処遇について記載します。
譲渡側が雇用を継続するか、譲受側に転籍させるかを検討する必要があります。また、雇用の継続・転籍にかかわらず、今後の労働条件や承諾の有無を明記することで、従業員とのトラブルを回避することが可能です。
⑥公租公課の負担
公租公課とは、国や地方公共団体に納める、税金などの公的負担です。
すでに支払い済みの公租公課についての規定を設けましょう。譲渡日の前後で日割計算し、譲渡日以降の期間分は、譲受側の負担とするのが一般的です。
⑦資産の譲渡時期
資産の譲渡時期は、当事者間の協議により決定します。「譲渡日」や「譲渡日から30日まで」など、さまざまなケースがあります。
⑧競業避止義務
競業避止義務とは、譲渡側が譲渡日から20年間は、同一の事業を同じ市町村で行ってはならない法律です。会社法21条で定められており、契約で触れていなければ、基本的に適用されます。
しかし、これは内容を変更し、年数の短縮や競業避止義務の回避が可能です。逆に、制限を加えて、年数の延長や範囲を全国にすることもできます。法律上の定めを参考にしつつ、禁止するエリアや期間を当事者間で決めましょう。
事業譲渡契約書を作成するときの注意点
譲渡資産の具体性
譲渡資産を、以下のようにできるだけ具体的に記載しましょう。
・不動産の登記情報に記載されている情報
・機会の品名や型番
・車両の車検証に記載されている型番や年式
・債権者・債務者の氏名や住所、金額
・特許や商標の登録情報
・著作権の種類や期限
引き継ぐ資産と引き継がない資産を区別するために必要です。また細かく記載することで、トラブルを未然に防げます。
従業員の転籍
従業員との雇用契約は、事業譲渡に伴ってそのまま引き継がれるものではありません。譲渡側が従業員へ、譲渡後の労働条件や人事・給与制度、福利厚生などについて説明する責任があります。従業員は、その説明を受けてから就労継続の判断をするでしょう。その後、譲受側が従業員から承諾を得る必要があります。従業員が考える時間や意見交換の時間を確保できるよう、スケジュールに余裕をもって取り組み、無用なトラブルを回避しましょう。
専門家の助言
事業譲渡契約は、専門家に助言をもらいながらの作成をおすすめします。資産譲渡は事業譲渡に詳しい弁護士、事業譲渡の対価や税金は税理士など、項目によって相談相手を選びましょう。事業承継は、自身と会社の未来を左右する大きな決断です。経験豊富な専門家のサポートにより、多くのリスクを減らせるかもしれません。
まとめ
事業承継には「事業譲渡契約書」が必要で、そこに記載された内容が今後の事業に大きな影響を与えます。契約締結後にリスクが発覚しても、相手の合意が得られなければ訂正できません。そこからトラブルへと発展する例もあるため、締結前の話し合いや確認が重要です。
また、トラブルが起こると当事者だけではなく、顧客や従業員にまで迷惑がかかります。手続きが煩雑なので、専門家のサポートを受けながら事業譲渡契約書を作成し、期間にゆとりをもってスムーズに事業承継を行いましょう。
なお専門家への相談については、下記の記事で詳細を解説しています。併せてご覧ください。
(「事業承継の相談窓口は? 無料相談もできる?――相談先ごとの特徴を徹底解説」)
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