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季節雇用の職人を正社員に、冬の北海道でも安定収入を 人口減少が進む小さな町とともに歩む住宅建設会社の3代目

建設業は慢性的な人材不足や職人の高齢化に直面し、地方は人口減少の歯止めが利かない。明るいとはいえない状況で、住宅建設などを手がける「神馬建設」(北海道浦河町)を父から継承した3代目・神馬充匡氏(47)。外から人を呼び込むにはどうすればいいのか。この地域に住んで良かったと思える「イエ」づくりを続けるにはどうすればいいのか。神馬氏は、正社員雇用や評価制度の導入、インターンシップなど、次々に新たな取り組みに着手し、「地元」に根ざした住宅建設企業として生き残りを図っている。

「どんぶり勘定」をやめ、企業理念と価値観を明確に

−−−−2018年の社長就任後、どのようなことに取り組みましたか。

2010年に入社した後、社長就任前から推進してきた会社の組織化が一定進んだため、社長就任後は財務管理に力を入れました。建設業は昔から「どんぶり勘定」的な財務管理が多い業界です。以前の弊社もまさしく「どんぶり」で、計算が合わないことがよくありました。

地元信用金庫のセミナーに参加し、法人としての財務管理を学びました。財務を明瞭にすることで、人材への投資や会社の福利厚生も充実することができました。

――事業承継後の苦労話があれば教えてください。

承継2年目に受注案件のクレームが続いたことです。承継1年目は勢いで乗りきれたのですが、2年目に大きめのリフォーム工事を受けたとき、お客さんが真に望んでいるものを提供できなかったんです。

説明不足などによって、追加の工事や費用が発生していまいました。要望を表層的にしか受け取らなかったり、聞き取り間違えたりしたことが原因でした。失敗を重ねたことで仕事の進め方を学び直す良いきっかけとなりました。

−−−−神馬建設が掲げているMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)についてお聞かせください。

MVVは、「M(mission&purpose):地域のイエに関する困りごとの解決」「V(vision):イエづくりを通じたコミュニティの創出」「V(value):関わるすべての人々の心と身体を豊かにする」という企業理念です。

社員に「なぜ神馬建設で働いているのか」「神馬建設が必要とされるのはどういうことか」を説くためにMVVを掲げました。

弊社は私が3代目ですが、顧客や従業員の世代はバラバラで、中には初代の神馬建設から何十年も関わってくれている方がいます。こうした方々を含め、神馬建設に関わるすべての方を今後も引っぱっていくとき、MVVというレールに長く乗ってもらおうと考えました。顧客と従業員が神馬建設のレールに乗り、できるだけ降りないようにしていければ、会社は安定した成長が見込めます。

ただ、MVVは従業員がしっかり理解しないと意味がありません。組織は大きくなるほど、組織の「当たり前」が全員に伝わりにくくなります。

そこで社長就任後、従業員全員と何度も話し合いの場を設け、弊社の「当たり前」をいろいろな角度から出し合いました。そこでできたのが核となる価値観の「コアバリュー」です。

コアバリューは、「仲間を大切にする」「まずは自分から」「謙虚さと素直さを忘れない」「思いやりを大切にする」「ものや道具を大切に扱う」「高い成長意欲・変化を大事にする」「何事も誠意に向き合い、妥協しないプロ意識を持つ」から成る会社全体の価値観です。

言われてみれば「当たり前」なことばかりなのですが、共通認識として各自が理解していないと、「当たり前ではない」と考える人も出てきます。職場環境の大きな問題に発展しかねません。

組織化をより推進していく上で、MVVとコアバリューの明文化と言語化はかなり力を入れました。この二つを確立すると、離職率が大きく下がり、継承2年目にあったようなクレームやトラブルも減りました。さらには、SNSなどで弊社の理念や価値観を知ってくれた新規顧客が増えるというメリットもありました。

少ないパイを取り合わず、外から人を呼び込む

−−−−建設業界は人手不足が大きな問題となっていますが、どのような対策をしているのでしょうか?

強い危機感を持っており、とくに専門的な仕事を担う職人の不足と高齢化が深刻です。弊社は10人の職人がいますが、うち5人が65歳以上。このまま若い世代が入ってこなければ、5年で職人が半分くらいになってしまいます。

北海道浦河町の人口はこの20年で3割減り、大工などの職人は6割も減少しました。仕事の発注があるのに人手不足で受けることができず、直近の売り上げが下がってしまう事態も起こりました。

同時に、住みたいイエが建てられない人や、イエに関する悩みで困っている人はいます。

今後も過疎化は進み、職人の人手不足どころか誰もいなくなってしまう可能性がある。地域の少ないパイを取り合っても根本的な解決には至りません。

だから、外部から人を呼び込むため、採用をテーマにしたブログを発信し、大卒採用に向けたインターンシップを今年は2回実施しました。

全国から合計16名の学生が参加しましたが、地域のコミュニティができあがっていることが新鮮だったようです。地元の人に声をかけてもらい、ここに暮らす人たちの温かさや、弊社が地域に根ざした建築会社であることを理解してもらったと感じています。

また、北海道は冬の雪で仕事がしにくいことから、建設業は季節雇用が多い土地でした。しかし、それでは収入が安定しないので、事業承継後に正社員登用し、通年雇用に変えました。

まだまだ人材不足ですが、SNSを通しての発信やインターンシップで弊社に興味を持ってくれている人が増え、手応えを感じています。

人が減っていく故郷、企業として守り続ける

−−−−従業員の評価制度や人材育成はどのように行っているのでしょうか?

神馬建設入社前に勤めていた土木会社で私は、会社に対して率直に意見を言うタイプでした。同じ会社にいるということは、共通の目標に向かって働いている仲間です。意見があれば、どんな立場でも遠慮なく言ってほしいんです。

逆に従業員に対しては、「このステージのときはこういう成果を求めているんだよ」「こういうところに気をつけて」「ここはできているけど、ここがちょっと足りてないと思う」など、会社としての希望やアドバイスを伝えています。重要なのは、お互いに齟齬がないようにしっかり話をすること。話し合いをしたうえで、意見や要望を文章化してより明確にすることも大切です。

評価の出し方は、数字の付いているベースとなる目標、それよりちょっと楽な目標、ちょっときつい目標の3つから選択してもらい、各自が目標を意識しながらやっていく形を取っています。

−−−−今後のビジョンや事業承継はどのようなものを描いているのでしょうか?

加速する人口減に対し、地元の神馬建設として何ができるかを考え、イエのデザインはもちろん、浦河町に住み続けるためにどうすればいいのかを確立し、地域に恩返ししていきたいです。

この地域は、高校からの進学率が80%を越え、多くの若者が進学のために地域外へ出ます。でも、帰ってきたときに、「やっぱりここでの暮らしのほうが性に合うな」「懐かしいな」と振り返ることができる、魅力あるイエづくりを極めていきたいです。そうすることで適切な人口が残るのではないでしょうか。

事業承継に関しては、MVVとコアバリューの理念を受け継ぎつつ、時代の変化に対応できる方に受け継いでいってほしいと考えています。MVVとコアバリューがぶれなければ、神馬建設のレールに乗っている人たちが降りずにいてくれます。あとは時代に合わせて建設が面白いと感じてもらえる方に承継してほしいです。

プロフィール

神馬建設 神馬充匡氏

1977年6月5日、北海道浦河町生まれ。苫小牧工業高等専門学校・土木課を卒業後、

1998年に岩倉建設入社。関東で土木現場の監督などを10年間務め、2010年に神馬建設に入社。父の逝去を受けて、2018年に代表取締役に就任。ニーズに合った「イエ」づくりなどの民間事業と公共事業の両方に対応しながら地域のインフラを支え、過疎化が進む浦河町および周辺エリアの地域活性化など幅広く活動する。

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賢者の選択 サクセッション編集部

賢者の選択サクセッションでは、⽇本経済の課題解決と発展のためには、ベンチャー企業の育成と併せて、これまでの⽇本の成⻑を⽀えてきた成熟企業∕中堅‧中⼩企業における事業承継をフックとした経営資源の再構築が必要であると考えています。 ビジネスを創り継ぐ「事業創継」という新しいコンセプトを提唱し、社会課題である事業承継問題に真摯に向き合うことで、様々な事業承継のケースを発信しています。 絶対解の存在しない事業承継において、受け継いだ経営者が事業を伸ばす きっかけとなる知⾒を集約していきます。

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